中央テレビ編集
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自治随想
小さくても生きられる地域最前線の社会再生 ~「昭和型システム」から「平成型地域創造」、「令和型社会再生」へ~ |
地域再生の最前線 2023年発表総務省の住民基本台帳に基づく日本人総人口は1億2242万3038人。減少幅は過去最大の前年比80万523人(0.65%)減、14年連続で前年を下回り、その推計によれば40年には65歳以上の人口が全人口の約35%になるという。地方においては更なる人口減少、高齢化は避けられないし、多発する震災が追い打ちをかけそうだ。更に2024年1月民間有識者らで構成される人口戦略会議は全国747市町村を消滅可能性自治体(人口総数でなく若手女性人口の半減が見込まれる都市)とし、そのうち町村が約3分の2を占めると発表。高度経済成長期から半世紀、人口減少や財政難、激甚化する災害などに直面する令和において、様々な分野の昭和型、平成型システムの維持が問われる。令和型にふさわしいあり方とはどういうものか、地域に根を張り、前を向いて、小さくても生きられる社会、工夫と努力で強く生きる社会を創る時なのだ。地域活性化による人口の維持が難しい集落(無住集落)はどうしても存在する。しかし縮小は必ずしもマイナスではないという発想の転換や無住集落に学ぶ撤退戦略、再興を意識した前向きな縮小、集落の長期的な生き残り策について考えることも極めて大切だ。全国町村会は「消滅可能性自治体という一面的な指標を持って線引きし消滅という過激な表現をもって地域住民の不安や諦め、分断をもたらしかねない」と反発した。確かに、常住人口はないが何らかの形で活用されている無住集落現場の取組をかつて親交のあった元全国市長会会長山出 保金沢市長等に教えられ、石川県白石市では市役所から約27㎞離れているが道路状況が良好であり外見上無住集落とは見えない状況、石川県小松市の市役所から約30㎞標高600m冬期道路閉鎖の無住集落は冬期以外明るい雰囲気が漂う地域の活用、金沢市から約12㎞離れた無住集落では「山間地域に有人のパン屋」を売りに活力を醸す。こうした集落維持の担い手の多くは、元住民やその縁者でありボランテァではない。また何らかの形で活用されている無住集落がキャンプ場となった加賀市の集落、牧草地として生き残った七尾市の集落、深い緑に覆われて自然に返す選択肢を選んだ集落もあると聞く。活性化による常住人口の維持が難しい集落の生き残り策として考えるのは、先ず都市部などから集落への無理のある転入促進や雇用増加・産業振興などの考えを縮小または停止し、いったん立ち止まって考える余力をつくる。次に少し立ち止まって長期戦に耐える形に移行し、いずれを選択する場合でも最も大切なのは当事者(元住民やその縁者を含む)同士の議論と全員の納得となる。こうした生き残り策では「将来的な再興に必要なものは何か」「住みたいと思う集落をいかにつくるか」という問いが重要となり、それは当事者が「当事者の価値観」で考え決めることになる。自分たちの集落の「楽観的な未来」と「悲観的な未来」の両方を想定し、当該地の表土の保全など土木的な可能性の保持、集落の歴史的連続性の保持、自然の恵みを活かすための生活生業技術の保持などが可能な集落づくりに精進すべきだろう。楽観と悲観を同時に考えることで、非現実的なバラ色と思考停止的な諦めを防止し実現可能性を追求する姿勢を堅持することを心掛けるべきだ。厳しい過疎地の維持では「財政の健全化」即ち「インフラ整備費」が一番の課題となる。しかし有識者の意見の中には「財政の健全化には過疎地を切り捨てても焼け石に水」という意見もある。財政健全化はもっと大きな枠組みで、例えば、ある程度の規模の市街地を有する市町村と、その周辺にある農山漁村中心の市町村を一体的にみて、時間をかけて議論すべきだという北陸3県の中核市を除く市町村の歳出に関する試算からも指摘されている。消滅という過激な表現は控えるべきかも知れない。 自治体は消滅しない、危機を煽ってはいけない 自治体は法的に存立する。どこの住民にも標準的サービスが等しく享受されるよう交付税制度等があり、自治体には破産法適用もない。即ち、自治体は住民・地域・自治権の自治体三要素があれば法的に存立し、住民が1人でも地域にいる以上住民を守る責務を有し続けるのだ。こうした立場から全国町村会は2024年5月「抜本的な少子化対策を求める緊急要望」を提出し、更に地方圏の知事は「子育て世代が一番集積している地域が日本で一番出生率が低いということは、皮肉にも「東京が日本で一番出生率が低いという東京一極集中が出生率を引き下げる要因となっているのは明らかだ」としその対応を要請する。人口動態分析では、東京と地方の対立を招いてはならず、地域づくりの原点・本質に立つべきだ。2024年1月1日現在総務省人口動態調査では日本人住民は全都道府県で減少、都は5万1,234人と全国1位の減少、社会増は11万9,144人(うち日本人5万5,167人、外国人6万3,977人)と外国人住民が日本人住民を超えており、外国人住民(都6万6,304人)の社会増が注目される。言うまでもなく進学や就職に伴って若年人口が東京に流入し一極集中の流れとなり、これを止めるため特に女性や若者に魅力ある地域づくりの実現がカギとなる。一方地方では雇用や高等教育の場確保など政府、地方自治体の地方創生政策が求められる。推計数字や数値自体を目標にすると間違った対策や政策を生む恐れもあるということだ。 地域づくりの本質に立ち返る 日本全体で減少する人口を自治体間で取り合うのは控えたいものだ。人口が減少しても活力を維持しコミュニティの結束や豊かさを感じる地域社会の形成は実現可能だ。これまでは経済性・効率性の観点から人口減少の負の面が強調されたが、人口減少があっても一人一人の個性が尊重され多様性を有する小さくとも生き続けられる地域社会の本質に立ち返ることが肝心であろう。「国土の均衡ある発展」は国家と地方にとって最重要の目標であり、東京一極集中の是正という形で全国総合開発計画・国土形成計画を基に国・地方が協力し合って推進、地方には過疎問題が大都市には過密問題があり双方が同時に解決すべきとの共通認識がある。それ故に、国は地方に対し過疎対策、国庫支出金、地方交付税措置の拡充、さらに地方税偏在是正策を講じ今後もこれら格差是正策は継続拡充されよう。同時に国は、地域特性を有する自治体が相互に信頼し連携協働していく土壌を育成し、対立が生じるような競争を過度に煽るのを避け、地域差をもたらす国の制度があれば見直す必要もあろう。 日本全体で減少する人口を自治体間で取り合いっこをすることが地方創生の目的ではない。人口が減少しても、活力を維持しコミュニティの結束や豊かさを感じる地域社会の形成を目指すべきだ。経済性・効率性の観点から人口現象の「負の面」を強調するのではなく、人口減少があっても一人一人の個性が尊重され、多様性を有する地域社会の本質に立ち帰る、「自主自律」「親和協働」「日新日進」(徳島県立小松島高校校訓)を心掛けたいものだ。 (徳島文理大学総合政策学研究科前教授 西川 政善) |