中央テレビ編集
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自治随想
中央政府と1700自治体の温故知新(創造と改革) ~食文化基盤、農林水産業の創生と振興~ |
「都市農業」の現場から価値を再発見 「昭和101年」時代の大きな節目の年に当たり、雑誌ウェッジの「農業をもっとクリエーティブ(創造的)に、もっとイノベーティブ(革新的)に」で学ぶ。我々人類のライフスタイルが狩猟採集から農耕牧畜へと転換したのは約1万年前とされ、現代にいたるまで様々な変化を遂げたが基盤・基本は耕作文化の上に大量生産・大量消費モデル等が形成され、それらの恩恵を享受しながら戦後日本の経済発展が飢餓のない社会によって支えられてきたことはまぎれもない歴史だ。一方で、日本人の便利で安価なものを求める欲望は膨らみ続け、食べ物は工業製品と化す。我々は「お皿の外」の世界で起こっている現実を想像する力を失った。このままでは食の均質化はますます進み、価値あるものを生み出す人たちを食べ支えることは困難になる。だが諦めるのはまだ早い。国内外の先進地では農業が持つ新しい価値を生み出そうと奮闘する人や企業が確かに存在するのだ。価値を生み出す人たちに敬意を払い、日々の消費行動や価値観を見直す必要がある。小さなことからでもいい食べ支える動きや仕組みが各地に広がることで、日本の農業はもっとクリエーティブでイノベーティブなものになる筈だ。大量生産・大量消費モデルだけでは日本の農業は発展しない。人間社会同様、「農業にも多様性が必要なのだ」との指摘に心が動く。「農業の価値再考」「循環型農業や有機農業など次の農業」を目指すべきである。私にとってこうした再考、再発見のキッカケは昭和40年初頭頃から盛んになった学生運動の時代、中央大商学部経営学科に進学した実弟西川馨が東京23区内で最大の農地(東京全体の4割)と約74万人が住む練馬区の農家(牛乳・野菜・果物等直売店)に住込み店員兼通学生として住み込んだことからだった。もう半世紀以上前の話だが、実弟曰く「何より米はじめ食い物・住込み・生活費・授業料稼ぎが一番、全てこれで解決」と大ハッスルして学生生活と都市農業に飛び込み、その農家長男を区議会議員に担ぎ出し見事当選、区政面からの都市農業への関与も経験することになり、時折訪れて弟の下宿先の都市農業の実態と区政との関連等見聞する。近年では米生産直売は勿論練馬大根など「顔の見える農家」が作る野菜の「直売方式」、「体験農園」、西武池袋線練馬駅徒歩10分練馬区立開進第二中学校「農部」生徒の生産・直売という地産地消の学習と実践、外国人観光客ターゲットの「都市農業散策ツアー」等々の創生、実践と実績を伸ばし、更に付言しておきたいのは練馬駅から約60分北上して「有機農業の町」埼玉県小川町では、昭和45年代に一人の農家が始め徐々に仲間を増やし、今や町ぐるみで有機農業の活性化に取り組み実績を挙げていると聞く。思うに「日本人のコメ離れ」が叫ばれているが、単に「ごはん」としか見ていないからそうなるのではないのか、様々な商品の素材に使われ始めた試みが全国的に広がりを見せていることを忘れてはならない。コメが持つ無限大の可能性への取り組みを都市、地方を問わず広げていくことが大切なのだ。であるのに減少するコメ需要は毎年10万㌧、10年間で約100万㌧とか。需給バランスを図るために国は年間400億円の血税をつぎ込みコメから他の作物への転換を図っている。今、問われるのは全国各地での逆転の発想と取組を地域の個性に応じた創意工夫によって可能性を追求することだ。以下、各地の事業展開のいくつかを取り上げ、農業を巡る多様性へのチャレンジもまた国・地方の将来の基盤であり、生きるための原点であることを考えて行きたい。 用途が広がるコメに着目 「今年はコメ不足」、「米価高騰」等々昨年(令和6年)8月からコメ不足が社会問題化し「令和の米騒動」と騒がしい。消費者は戸惑い、農家は歓迎する一面もある。歴史を翻っても江戸から明治に時代が変わる10年間でコメの値段は10倍、太平洋戦争の終戦の前年(昭和19)からの10年間では200倍になっている。どちらも時代の転換期約80年サイクルで訪れている。「日本人の主食」ゆえに、こうした歴史を踏まえて温故知新の対策で国民に安心して食が行き渡る方策を講じる一方、日本人のコメ離れは「コメ」を、単に「ごはん」としか見ていないからであり、「様々な商品の素材に使われ始めたコメ」「用途広がるコメ」「コメには無限大の可能性がある」との発想の転換により広範な企業化など新たな付加価値商品、多様な販売化等々を広範囲に研究・実践すべきであろう。米は古くから清酒・みりん等醸造用原料、ぬか漬け・糊などの用途に、最近ではコメを原料にした化粧品や衛生用品、バイオプラスチックまで登場、いずれも農水省が指すコメ需要に含まれないが付加価値のある商品として期待されている。更に新たな視点と技術で生れた世界初のコメ由来の植物性乳酸菌を使い乳幼児向けおせんべい、青汁、チルドデザートなど様々な殺菌と栄養価の高い製品化、玄米・米ぬか等に含まれる豊富な栄養素を滋養強壮・栄養補給のための医療・化学など幅広く対応している。また食べるだけでない新たな付加価値商品を求めて全国各地の農協やコメ生産者組織が挑戦を始めている。妻が言うには米エキスを使った洗顔料、化粧水、乳液も数年前から手に入るそうである。コメ生産には連作障害は少なく降水量が豊富な日本に最も適した農産物であることから、需要に合わせた生産拡大もできることを再確認し、莫大な税金を投入してコメ減らしをする政策を抜本的に見直して、コメが持つ新たな価値を見出す政策、例えば用途や品質に応じて小売りや加工、消費者が望む農産品等多様化に対応ができる農業経営を目指すべきである。生産者の顔とその風情や味がうかがえる「こだわりの農産物」を並べて、「売れればいい」から脱しその価値を伝達する小売業の役割も大きい。JA東徳島農協は近隣市町村と協調して合併、価値ある農産物生産、生産経営の合理化、価値のある商品を見出し顧客の共感を得て販売、生産と生活を繋ぐ価値の創造「あいさい広場」を国道55号と「ふるさとの川:立江川」との交差高台に造り、現在、定期バス・観光バス、広い駐車場が満杯状況だ。母校南小松島小学校正門の二宮尊徳(江戸時代の農政家)像の言葉「凡そ商品は 造って喜び 売って喜び 買って喜ぶようにすべし」を思い出す。今にして「昭和型地方分権」から、今、「令和型地域再生の最前線」を見る感がする。 (徳島文理大学総合政策学研究科前教授 西川 政善) |