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中央テレビ編集 


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自治随想
「関係人口」概念の新たな提起と、 その創出手法如何
はじめに  
 人口急減・超高齢化の課題に対し、政府が一体となって取組み各地域がそれぞれの特長を活かした自律的で持続的な社会を創生しようと策定・実施された第1期「まち・ひと・しごと創生戦略」は、殆どの地方自治体において目標とする定住人口の増加や減少レベルの鈍化を果たせなかった。その状況下で政府は新たに関係人口という新たな概念を提起する。 総務省は、「関係人口」とは移住してきた「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口Jでもない、地域と多様に関わる人々を指すとし、関係人口を新たな地域の担い手とすることにより、人口急減・超高齢化という課題への 定の対応を図ろうとする。しかし定 住人口と交流人口を除外したうえで地域と多様に関わる人々を関係人口とする 定義は極めて曖昧であり、その結果関係人口創出を図る地方自治体にとってどのような取組が適切であるのか、 殆どの場合事務レベルで検討できず、勢い関係人口創出の事例紹介・情報交換をしてお互いに支援し合うのが現実的と言うことになる。

関係人口の段階的把握 
 東海大学文化社会学部河井孝仁教授は、総務省の関係人口の定義を基礎に、地方自治体がそれぞれの地域において細分化・横断化する地域における課題解決に必要な関係人口を再定義することが求められると提言する。その第1に挙げられるのは、地方自治体側・地域側が「あってほしい存在」と考える関係人ロを「潜在的関係人口」と定義する。この潜在的関係人口は、あくまで地域側が「こういう存在」が定住・観光交流以外の形で地方自治体・地域に関わることで地方自治体・地域の課題解決につながるという言わば「片想い」の存在と位置付けられる。なんとなく関係人口的なものの数を増やすのではなく、それぞれに具体的な課題と可能性を持つ地方自治体・地域にとって必要な関係人口を創出することになる。そこで第2段階として、潜在的関係人口に対し的確なメディア活用および取り組みにより地方自治体・地域への「関与意欲を向上」させ、更に意欲を向上させた対象に地方自治体・地域が期待する行動の契機となる「関与の窓」を設け、「関与意欲の向上」と「関与の窓の設計Jによって「潜在的関係人口」を、実際に地域を多様に担う存在、 両想いの「顕在的関係人口」にすることが可能となる。 次の第3に「顕在的関係人口」を「創発的関係人口」に繋ぐことが大切である。 顕在的関係人口は地方自治体・地域にとって、期待する行動を実現するために一定の支援となるが、この段階の議論では得てして地方自治体・地域の思惑の範囲の中で思考し行動し、関係人口となる人々の自発・ 自律的な思いや動きが阻害されかねず、 両想いのつもりでも一方が一方に束縛され関係の継続が難しくなる。そこで創発的関係人口は、関係人口となる人々自身が地方自治体・地域側の思惑を超えて地域の課題や可能性を発見し自ら行動を始める、外から見るからこそ見えるものを発見する存在として「創発的関係人口」が位置づけられる。これによって地方自治体・地域と、関係人口となる人々との持続的な関係が構築され、地方自治体・地域の新たな可能性が生まれる。

関与意欲の向上と関与の窓  
 潜在的関係人口を実際に行動する顕在的関係人口として創出するためのステップ・ワンは「関与意欲の向上」であり、ステップ・ツーは関与意欲を向上させた対象を実際の行動に導く「関与の窓口」設計となる。この段階ではメディア戦略を活用して、傾聴・認知・関心惹起・探索誘導・着地点整備(信頼供給・共感形成)・行動促進・情報共有支援・さらに深まる傾聴という、8つのフェイズを進むことによって、地方自治体・地域側が当初区分していた潜在的関係人口が実際の行動を起こす顕在的関係人口に繋がっていく関与意欲の向上を手にすることになると河井教授は提起している。その次に必要なのは意欲を状況に繋げる「関与の窓」の設計だ。たとえ地方自治体・地域の魅力や課題を認知し関心を持ち地方自治体・地域を信頼し共感したとしても、行動を起こさなければ顕在的関係人口にはならない。この一押しが「関与の窓」の企画・政策に期待が係わっていく。

「創発的関係人口」創出スパイラル(開発・改良) 
 潜在的関係人口から顕在的関係人口、そして創発的関係人口への創出スパイラルヘの参画をいかに成功させるのかが、次のステップとなる。関係人口創出スバイラルは、一定の人数の参加により、①地方自治体・地域の個別の魅力及び参加者の想い・カの発散、②発散した地方自治体・地域の魅力及び参加者の想い・カの共有、③共有した地方自治体・地域の魅力及び参加者の想い・カの編集による可能性としての地方自治体・地域の提起、④可能性としての地方自治体・地域の提起と現状のギャップによる課題発見、⑤発見された課題解決への関与行動、という5つのステージを開発・改良の視点から見ていくというのだ。目新しいものに接し、現地訪問や意見交換など多様な方法で共有された魅カ・「おもいやちから」が、可能な地方自治体・地域への発想提起となる。その編集ステージでは、概括的な地方自治体・地域の理解に止まらずより具体的で身体性のある地方自治体・地域としての把握を促すため、参加者のディスカッションにより当該地域での希望を実現しようとする改良・開発の設定を行い、そのペルソナの示す希望に向かうストーリーを設定する。そのペルソナには、一時的成長ー挫折ー再起ー二次的成長ー希望の実現というストーリーを明確に記して共有し、その上に、ひと・もの・ところ・しごと・わざ・くうき・「おもい・ちから」をさらに活用する。こうすることで地方自治体・地域を線引きされた地理的範囲ではなく、希望に向けたストーリーのある連鎖としてとらえることを可能にするというのだ。だが、こうしたストーリーは理想形でもあり、具体形を求められよう。 地方自治体・地域の現状とを充分に比較し、見極め、そのうえでギャップを埋めるための努力が必要だ。顕在的関係人口前後にある人々やその周辺にある人々にさらに「おもい・ちから」を発揮できる機会を提案する、そうすることで新たな「関与の窓」が誕生し、自発的・自律的な取組を行う「創発的関係人ロ」として前進が期待できるであろう。

(徳島文理大学総合政策学研究科前教授 西川 政善)