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中央テレビ編集 


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自治随想
市民協働による公共の拠点づくり
~第80回全国都市問題会議の課題~
はじめに  
 これまで各地に存在した共同体では、住民同士が協力して地域の課題に取り組んできた。その後の社会の変化と共に共同体は弱体化し、その一方で時代と共に市民の能力や自己実現に対する意欲を背景に、市民活動が活発化していく。市民は自発的かつ能動的に手を携えて地域社会の課題に取り組むようになる。こうした活動の多くは任意のボランティアとして行われ、1998年にはボランティア団体をはじめとする民間非営利団体に法人格を付与することができるNPO法が制定される。自治体も市民活動に期待を寄せ、1990年代以降市民協働の推進が行政の重要な政策課題となる。そこでは市民と行政または市民同士が、お互い の長所―市民活動の自由・自発性と公平性ーを持ち寄り、短所を補い合うことで課題を解決し、魅力的なまちづくりを進めていくことが目指される。協働により誕生した施策は机上の空論でなく、市民の知恵が反映されたものとなるのだ。かつての共同体における住民同士の協力は、人々が住む地区という固定的な場において行われてきたが、市民が他の市民や行政と自発的に結びつき繋がろう とするのであれば、それにふさわしい場即ち市民協働を実践する「公共の拠点」が必要となる。公共の拠点は、公共施設や民間施設という従来の概念を越え市民 の創意工夫によって育まれる地域社会の活動の場となる。第80回全国都市問題会議開催都市長岡市は、開府400年の節目を迎えた「市民協働」の先駆けの精神が根付く。長岡藩の頃から「領主と領民(士民)協働」によって藩を盛り立て、身分制度が厳しい江戸時代の社会にあって侍と庶民が長岡領内で(まつりごと)を行う。自治体が一方的に公共の拠点を整備するだけでは市民の多様なニーズに応える ことができず、市民活動や協働の充実にはつながらない。公共の拠点づくり自体市民と行政との共同により進めていく必要があるということになる。

市民協働による公共の拠点 
 これまでは公共施設において行政が施設の利用目的を定め行政が示す公共性の枠組みの中で市民活動が行われてきた。一方、市民協働による公共の拠点は市 民が自由な発想で利用することができる場である。市民と行政の両者が互いの特長を生かして協力することで、 市民の自己実現と行政の公共性が融合し施設の魅力がより多く引き出され、予想を超える相乗効果が生み出される。さらにそうした公共の拠点は、多種多様な人々を引き寄せ、結びつけ、新たな化学反応 を連鎖的に引き起こし、好循環を創り出すのだ。具体例として長岡市の複合公共施設「アオー レ長岡」や廃デパートをリノベーションした「ながおか市民センター」等が挙げられる。こうした市民協働による公共拠点づくりを行う好機を見逃さず、自治体は取組を進める傾向が出現した。つまり、(1) 市民活動に参加しやすい時代の到来。いま、市民参加に参加可能な人口の増加、市民の能力や自己実現に対する意欲の高まりなど社会のありようの変化が見える。日本は高齢化社会を経て超高齢化社会の時代を迎えた。 働いてきた職場を退職した人々や家庭での子育てなどに目途のついた人々は、自由な時間をより多く確保でき市民活動に参加しやすい人々の数が増加している。この時、高齢者の知識や技術を積極的に活かすことが考えられる。加えるに、現在では誰でもSNSなどネット等を通じて意見を表明したり培ってきた知恵を活用する機会が増え、 また共通の 目的を持つ人同士が繋がりやすくなり互いに協力し取組むことが容易になった。 (2)都市間交流の進展。全国各地で盛んになった都市間交流を通じて、人々は 自分の住む地域の魅力を再発見し課題を再確認するようになり、それを交流によって地域外の資源(人・モノ・情報)を活用できるようになる。さらに(3)空き施設の増加を公共の拠点とする考えが、少子高齢化や市町村合併等に伴い学校の教室など利用されない施設を市民協働による公共の拠点づくりに使う。

市民協働による公共の拠点づくりの重要な視点  
 それは、市民協働を役割分担としてとらえることであろう。市民活動は決して「行政の下請け」ではないことを明確にすることである。心すべきことは、先ず、
(1) 市民協働に携わる人材育成。地域の魅力を理解しまちづくり NPO 活動などの担い手となる「地域公共人材」 の養成が欠かせないであろう。例えば、千葉県浦安市の「うらやす市民大学」では、学習の成果を確実に地域に活かすことを最重視し、 「市民自らの可能性を広げ、地域づくりに参画する共同の意識を育み、知識や技術を学ぶ機会を提供」することであり、協働の意識を育む 「うらやすに出会う科目群」、地域が持つ課題や問題点について学習する「気づきの科目群」、協働を担う人材として求められる知識・技能を学習する「協働の担い手要請科目群」などが授業科目となる。2016年度から運用、延べ在籍期間5年に達した人々が卒業し、こうした人材が NPO 法人や市民団体の担い手として活躍している。勿論、NPO法人や市民団体の育成も大切である。NPO 法人は行政の弱点となりがちな意思決定の速さや柔軟性、機動力を備え、また利益追求よりも社会的問題の解決に根差したミッションの達成を優先する傾向にある。これらの理由から NPO 法人は、行政や民間事業者と並び公共性の高い業務の第3の担い手として成長している。法人格を持たない市民による任意団体も同様の性格を有し、いずれも公共の拠点づくりを進めるうえで欠かせない担い手であることから、市民や行政の手による育成が求められる。
(2)公共の拠点となる場所の活用。図書館や子育て支援施設などを地域の公共の拠点として捉え、支える取り組みも考えられる。神奈川県藤沢市では市民を単なる図書館利用者にとどめおくのではなく、市民力を活用した図書館運営即ち、子供のために本や紙芝居などを読み上げる藤沢市おはなし会、絵本を通じて親子のふれあいを深めるブックスタート・書架整頓等ボランティア活動が活発だ。 各地に存在する子育て支援拠点は、保護者や子ども同士と地域の繋がりを作り 出し、絵本の読み聞かせや昔遊びの伝授などこれから親になる中高生と子ども ・高齢者と子どもといった多世代交流の場へと広がりにつながるケースも期待できる。民間が設置・運営する子ども食堂も同様に、支援対象者のための役割のみならず、多世代間の交流をもたらすだろう。学校施設は地域の重要な資源である。少子化により生じた空き教室は、地域活動・世代間交流・生涯学習拠点として用 いられ、廃校となった学校も、地域活性化拠点として改めて注目され、地域の課題解決や賑わいを取り戻す取り組みに繋げやすい。例えば、廃校となった学校を介護施設に転用し介護・福祉サービス向上に繋げていく。
(3)まちづくりでの転用取組。 まちづくりの視点を踏まえながら公共施設の 複合化・リノベーション ・ 中心市街地の再開発などに取組む事例は数多く、これを市民協働による公共の拠点づくりのキッカケにする。 青森県八戸市のポー タ ルミュ ージアム「はっち」は、市民活動スペースや市民活動の支援コ ーナーからショッピングや飲食・休憩する場まであり市民や観光客の交流拠点となってい る。「新たな価値を生み出すものづくりの場、 再発見や自己変革を促すアートプロジェクトの拠点、市民が主役となる新たなステージ、中心街への集客の中継点として機能しつつ、八戸のシビックプライドを醸成する」施設として高く評価され、2013年度のグットデザイン賞(公共のためのメディア・ソフトウェア ・コンテンツ)に選ばれている。そこには複合施設を設置するだけでなく、公共の施設として如何に活用するのか、市民と行政が一緒になって検討し実施していくことが重要であり、とりわけ市民の活動を行政がどう支えるかが問われている。

結びに  
 「市民協働による公共の拠点」を選択する手法や組み合わせは、地域の状況によって千差万別だろう。そのため首長や職員、議会には地域の現状や課題を踏まえて取り組むことが期待され、そのことこそが地域の魅力をより引き出すことになる。そのためには、市民協働に携わる人材の育成、公共の拠点となる場所の活用、まちづくりでの取組を念頭において市民や市民団体の活動とこれに対 する行政の連携・支援のあり方、さらに今後の地域社会の在り方などを展望しな がら取り組まなければならない。

(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)