中央テレビ編集
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自治随想
長崎市の魅力あるまちづくり ~その4.田上富久市長の「まちづくり構想」に学ぶ~ |
| はじめに 九州西端、長崎県の南部に位置する長崎市は面積約405km2、人口約40万超の中核市。長崎港内の平坦な中心部地区に商業・業務機能が集積し、長崎港を中心としたすり鉢状の地形に形成された斜面市街地と相まって独特の都市景観を形成する。第2次世界大戦では広島に続き原子爆弾の惨禍を被り、戦後は世界に2つしかない戦争被爆地として核兵器廃絶と世界恒久平和を訴える国際平和文化都市としての役割を果たしている。昭和17年生の私の世代は、実父・義父・叔父などが出兵し、生還か否かがその後の人生の明暗を分ける世代だった。実父は武漢三鎮方面で約4年、義父は佐世保海軍基地で1年余と苦難の末に帰還、私の兄弟姉妹4人、妻を合わせて5人の家族を生み育ててくれた。特に妻の父は佐世保海軍基地にあって何度か長崎港周辺に赴き、なんと原爆投下の日には陸上訓練で長崎港やまちは見渡せなかったが山尾根を内陸方面に跨いで休息中に原爆投下され山の向こうに原爆雲を見たと随分後になって語ってくれた。恐ろしい話だった。平成第1号の市長に縁あって就任した私は、全国市長会において歴代長崎市長各位と面談し、長崎市の魅力あるまちづくり、国際平和文化都市を念じ意見交換やPR活動に精進させてもらった。戦後世界に2つしかない戦争被爆地として、核兵器廃絶と世界恒久平和を訴える国際平和文化都市長崎に想いを込めて以下記したい。 長崎の交流の歴史 長崎のまちは約450年前の開港から現在まで港を通じて、沢山の人々を受け入れ交流することで栄え、国内外の様々な文化をとりいれながら豊かな個性を持つ都市として発展する。1571年(元亀2)年の開港から江戸時代にかけキリスト教布教、禁教、さらに鎖国と目まぐるしい状況変化の中で、世界の様々な文物がもたらされ文化交流が行われるなど貿易都市として栄える。幕末の嗚滝塾や小島養生所での医学の交流は日本中に近代医学の発展をもたらす。英国人貿易商グラバーなどにもたらされた西洋の産業・技術が明治政府の殖産興業政策に繋がり、長崎独特のまち、歴史・文化・経済発展へ大きな影響を与えていく。第二次世界大戦後は世界に2つしかない戦争被爆地となりながらも復興を果たし観光都市として発展、時代と共に国内観光にとどまらずインバウンド・スポーツ・文化・ビジネスなど人々が都市を訪れる目的が多様化することを踏まえて、昭和の観光都市から変化を遂げ、多様な目的で訪れる観光客や事業者・市民が交流によって得られる成果と共に享受できる調和のとれた「選ばれる21世紀の交流都市」への進化を目指し、交流の輪を広げようとしている。 時代の変革期に対応 近年のめまぐるしい変化や、これまでの人口減少・少子高齢化などに加え、新型コロナウイルスの流行とポストコロナ社会への対応など課題は山積となる。こうした中でワーケーションや仕事を変えないテレワーク移住など働き方・住み方のパターンも増える。2019年に長崎でスタートしたHafH (滞在の仕組み)、即ち世界中の関連宿泊施設を利用し旅行や仕事ができる定額制の住居提供システムであり、新しい旅と働き方のスタイルとして全国的に注目されている。価値観の多様化がますます進む中で従来からの人口の多さや経済力の高さといった数字で比較できる価値の外に、その都市ならではの暮らしやすさや文化・歴史など新たな価値を求めて大都市から地方へと新たな人の流れが期待できるのではないか、というのである。こうした視点からもう一度自分達が住んでいるまちの価値を見直し、人を引き付ける魅力、新しい時代の多様な都市のあり方を見つめ直すべきではないだろうか。 長崎の価値を見出す4つ視点 (1) 具体的な長崎の価値を見つける: 2015年世界遺産認定の「明治日本の産業革命遺産、製鉄・製鋼・造船・石炭産業の構成資産」の1 つである端島炭鉱(軍艦島)が挙げられる。かつての生活者には日常生活の1ページに過ぎないが、産業革命遺産の切り口で見れば世界的な価値が見える。また、2021年開業の長崎市恐竜博物館は長崎と恐竜の繋がりを見る角度を変えることで新たな価値を世間に知らしめた。即ち、「DINOsuRla」を「恐竜」と訳したのは長崎出身の考古学者横山又次郎であり、長崎半島から国内初のティラノサウルス科の歯の化石が発見されるなど「長崎と恐竜」の新たな価値が見えてくる。見えていなかったものでも見る角度を変えることで新たな価値を見つけたといえそうだ。 (2)価値に気付く:長崎には「長崎さる<」という言葉があり、団体旅行から個人旅行に代わってきた時代に新しい観光スタイルに対応させるために始めた全国のまち歩き観光の先駆けとなった取り組みだそうだ。「さるく」とは「ぶらぶら歩く」の方言、長崎市に散らばる魅力を見つけながら歩くという意味だ。住んでいる市民が地域資源の価値に気付かないと持続可能な観光は実現しないという考えから市民参加による企画・ガイドに取組み、それによって日ごろから市民がよく通る道なども価値があったことに気付き、愛着が湧き、シビックプライドの高まりにもつながる。この取り組みは特別な何かを創るのではなく、暮らす人にとっては身近にありながらも気付いていない価値に気付くことでまちへの愛着につながるものなのだ。 (3)価値を磨く:長崎市では価値を磨く取り組みで全国的にまれな景観専門 監制度を導入し、一般社団法人地域力創造デザインセンターの高尾忠志氏指導・管理の下、職員の景観に関する意識の醸成と公共デザインに注力する。景観専門監には地域の「部分」と「全体」の関係性への配慮や場所の歴史を踏まえた考え方、市民との協調など職員だけでは気付きにくかった視点から様々にアドバイスをもらいながら、長崎駅周辺再整備事業や出島表門橋などの大型事業や市内各地の公園や道路、建物などの整備・改修を行う。このような取組で見て楽しい景観だけでなく、快適であり、場所の個性を感じたりと、そこに暮らす人にとっても訪れる人にも大切なものとなり、まちの魅力の向上にも繋げたい。更に、取組10年を超えた「まちぶらプロジェクト」は、玄関口の長崎駅周辺や松が枝ふ頭の整備に合わせ、長崎の母屋にあたる長崎らしい歴史や文化を持つ「まちなか」の賑わいを創っていく取組だ。「まちなか」を5つのエリアに分け、それぞれのエリアが持つ魅力を顕在化させ、各エリアを繋ぎ合わせると共に、市民と一体となって賑わいを創る。具体的には、和のたたずまいが残る「中島川・寺町・丸山エリア」では町屋の保存などによる和のまちなみづくりや、市民の取組のスタートアップ支援などにより、地域の資源や市民・企業などがまちの魅力となり、まちの賑わいを高め、価値を磨く取組の積み重ねがまちの価値を高めていく。 (4)価値を生み出す:新たに創造することにより、価値を生み出すこと。その一例は(kk)ジャパネットホールディングスによる「長崎スタジアムシテイプロジェクト」だ。これまで長崎になかった新たな魅力を生み出すプロジェクトにより、日常にもっと楽しさを生み出し交流人口の増加や雇用の場も創出することで長崎市の問題解決に繋げようというのだ。市はプロジェクトチームを作り民間と共に2024年開業を目指し官民一体となった取組を進めている。その一方で長崎大学が進めるBSL(バイオセーフティレベル)ー4も新しい価値の創造を目指す。西洋医学教育の始まりである医学伝習所を起源とする長崎大学医学部には、わが国唯一の熱帯医学研究拠点である熱帯医学研究所が設置され、国際的な医療・保健分野の発展に資してきた。新たにBSL-4施設が稼働し最先端の感染症研究が進むことで、さらなる国際貢献への寄与と長崎に新たな価値をもたらす。その他にも、地域の課題を発想の転換で資源と捉え、新たな価値を生み出すケースも考えられる。例えば市民団体が取り組む坂のまち長崎ならではの「さかのうえん」の取組、即ち、斜面地の老朽空き家除去後の跡地を農園として有効活用し、多世代の交流や地域の活性化に生かそうというのだ。このように、今までネガティブに捉えられていた地域課題をポジティブに捉え直すことで、地域活性化に繋げていく地方都市政策のヒントとなる。 結びに まちの価値に気付く契機には、何といっても「交流」が欠かせない。そのまちに根づき、暮らす「土の人」と、そのまちを訪れる「風の人」が、それぞれ感じ、交流することにより、暮らしている中では見つけにくいその都市ならではの自然、文化、歴史などの新たな価値が見つかり、磨かれ、まちのかちが創られ、そこに暮らす人、訪れる人に魅力ある持続可能な地域社会ライフが構築されよう。 (徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善) |