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中央テレビ編集 


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自治随想
コロナ禍を契機にして
~その3、個性を活かした「魅力ある」地域・まちづくり
 謹賀新年、各位のご清福を祈ります。

はじめに  
 わが国は、2000年代より人口減少社会に入る。少子高齢化、労働人口の減 少、地域経済の衰退など日本社会は様々な課題山積だ。その具体的な課題は勿論地域によって異なるが、将来にわたって持続可能な都市であるためには、その地域に一定密度の人口が維持されなければならない。そこで各自治体は、人口の量的維持・拡大を念頭に様々な分野での直面する諸課題に取り組む。その時、新型コロナウィルス感染症のパンデミックが発生、世界中に大打撃を与える。感染拡大時期は人の移動自体を自粛し人と会う・集まる「当たり前の日常」が奪われる。その結果、経済活動の制限・個人消費の低迷などに伴う深刻な影響が様々に発生する。その一方で当たり前の日々が形を変えることにより、社会の在り方や人々の価値観に変化の兆しが生じ、オンライン会議やテレワークの普及・勤労世帯の地方移住の動きなど働き方・住まい方を変化させる現在は、大都市への集中という従来の流れから、働き方・住まい方の多様性を含む包括的な意味での「分散型社会」への流れの転換点にあるのではないのか。こうした大きな時代の転換点にあって、各都市はそれぞれに「将来的に移住・定住先としての選択肢になる」ことを視野に入れながら、「人々が訪れ・集まり・交流する場所として選ばれるような個性を活かした魅力ある地域づくり」について考えることが求められる。  
 ならば魅力ある地域・都市づくりのために重要な要素は何か。そもそも都市とは不特定多数の人が集う場、そこでは暮らしの便宜を図るため商業や様々なサービスが発達し、更に人が集まり交流が促される。地域外から都市を訪れる人々は、客観性や自由・普遍性を都市にもたらす源である。全国市長会主催の第84回全国都市問題会議の開催地長崎市は、国際的に開かれた貿易港、観光港など時代によって交流の形を変えながらも、異なる価値観・文化を持つ不特定多数の人が流動的に出入りし集積することで新たな文化や産業を創出し、独特の個性を獲得してきた歴史がある。また時代の変化と共に都市間交通手段の充実・モビリティの革新などによって交流の機会がますます増加し、地域外から訪れる目的や交流の中身も大きく変わっていくことが予想されよう。こうした中で都市が持続的に発展していくためには、広い視野で人と地域の様々な関わり方を実現していく必要があり、地理的条件や地域資源・さまざまな都市の個性を活かした魅力あるまちづくりに取り組み、地域外の人が継続的・定期的に訪れる機会を創出するための方策をとることが重要となろう。要約すれば、また訪れたくなる、魅力ある地域づくりのための基本的な考え方や処方箋を検討・議論・実践することになろう。

地域外の人との多様な関わり、その機会・仕組みづくり  
 2003年に観光立国化を目指した政府が策定した「観光立国行動計画」では、「ー地域一観光」に向けて地域の魅力あるコンテンツを生み出す活動を支援していくことが謳われている。観光で訪れる人は消費者としての側面だけではなく、地元の人との交流などを通じてその土地の新たな価値に気付かせてくれる存在でもあり、交流人口の増加は地域活性化にとっても重要な施策となり、地域外の人が継続的・定期的に訪れることの意義に着目すべきである。人と地域の関わりにも多様な様相があり、訪問の形態についてもつぶさに実態を見れば、観光・仕事・ボランティア活動・2拠点生活・移住・定住などグラデーションがある。特定の地域を継続的・定期的に訪れ地域に関与する地域外の人は、その地域に愛着を持ち将来的に移住へと移行する可能性もありうるし、また継続的・定期的に地域とかかわりを持って地域活動に関与してくれる関係性が期待できる。都市にとって地域外の人の意義は、集団の一面的な傾向にとらわれない特有の客観性にあり、地域外の人が地域課題に関わることで、地域住民にはない新たな視点で地域の課題や魅力を発見できたりする。また地域住民と地域外の人が対等に協働することによって、地域創生の主体となり創発的な解決が期待できる。更に何度も訪れ継続的・定期的にかかわることで、地域にとって新しい風が常にもたらされる状態が期待でき、そこに一定の産業分野の発展や一時の経済の活性だけではなく、多様な主体が支え合い快適で安心な暮らしを営み続ける持続可能な地域づくりへの追い風になるかもしれない。次に地域外の人に訪れてもらう機会や仕組みづくりはどうするか。思うに、画ー的で紋切り型の政策では不十分だろう。先ずは各都市・地域それぞれが保有する地域資源を点検・発掘・強化し、それを各都市・地域固有の魅力としてプロモーションしていく。シテイプロモーションは新聞・雑誌・テレビなどのメディア、ソーシャルメディアや発信力の高いインフルエンサー及びSNS媒体を活用することも考えられる。また、地域に関心を持たせる仕組みとして、オンラインでの関わりの構築も考えられる。ソーシャルメディアの活用などオンラインの接触率を高めることは、直接地域に赴いてもらう契機のひとつになるだろう。

何度も訪れたい場所、新しい働き方の場  
 何度も訪れてもらいたい場所となるために、歴史・文化・景観・風土などその地域における固有の地域資源を最大限活かした魅力ある街づくりに努める。近年の観光の傾向が変化し従来のように有名な観光スポットや風光明媚な景色だけではなく、維続的・定期的な訪問に結びつきやすく工夫する。PRしやすい既存の地域資源だけでなく特定のテーマや趣味活動などターゲットに応じて既存の地域資源を活用する仕組みづくりをする。例えば伝統的・歴史的な街並みは、来訪の目的になるだけでなく地域住民の愛着や誇りに結びつき、まち歩きは街並みを身近に感じる「コト」消費観光の代表となり得るし、さらに工夫して地域住民の地域特性を活かす観光まち歩きツアーガイドを加え、シビックプライドの再生に結びつける。こうした「地域住民によるまち歩きガイド」は東京都下町の「谷根千」(谷中・根津・千駄木)で評判となり、日常生活空間を楽しむ場所となっている。また、まちを1つの宿と見立て宿泊施設と地域の日常をネットワークさせ、まちぐるみで宿泊客をもてなす「まちやど」手法で、加賀市の「まちやど普及事業」は空き家問題解決に寄与し、地域の持続可能な仕組みづくりに繋げている。さらに地域資源とスポーツを連携させ、スポーツを見る(観戦する)、する(楽しむ)だけでなく、周辺の観光も同時に楽しむスポーツツーリズムも人気のようだ。地域の自然環境・気候・立地・インフラなどの特性を最大限に活用できるスポーツを資源として快適な環境を整備し、イベント・大会などで来訪者を創出する試みが全国各地(スポーツのキャンプ・各大会など)で見える。地域活性化に寄与できる存在は食文化・音楽文化・地域に根付いた伝統文化など多様な地域資源を見つめ直し、地域住民や訪れる人々と共に地域の魅力を高めていくことが重要だろう。そのためには今後、交流・参加の機会をつくるために地域側のニーズと地域外の人の関心を結び付ける試みが必要だ。グリーンツーリズム・ワーキングホリデー・山村留学体験など多様な交流活動が考えられる。かつて交流のあった八幡浜市は、毎年短期でミカン収穫作業を手助けする人を全国から募集し交流の場の提供・地域の魅力を感じてもらいリピーターとして地域へ定着を誘導する。更に進んで昨今の働き方の多様化・新たなライフスタイルヘの移行傾向・新型コロナウイルス感染症のパンデミックで人流が抑制されてサイバー空間が広がり新しい働き方が定着しつつあるなど、都市は新しい働き方の場を提供するリアルな場として期待されている。自治体にとっては、地域と企業とのつながりや個人間のつながりの創出に期待し、新たな長期滞在・頻繁な来訪目的を創出すべきだろう。和歌山県は全国に先駆けてワーケーションヘの取り組みをはじめ、企業のサテライトオフィス開設、ICT企業の誘致なども推進し実績を積む。長野県妙高市の「ラーニング型ワーケーション」の取り組みも魅力的で、両県は2019年11月「ワーケーション自治体協議会」1道23県184市町村(2022年時点)を設立、豊かな自然を活かし自然体験の中でのマネジメント、農業体験 など人材育成を研究する。また、都市部と地方部に拠点を持ち生活する2拠点(複数拠点)居住は、アフターコロナの社会でも注目されよう。福岡県那珂川市の「こととば那珂川」事業は、公共施設「ナカイチ」を運営し新たな仕事や働き方を志向する人、時代の変化に柔軟なアーティストやクリエーター、まちでの活動に意欲的な人、移住を考えている人が集まり偶発的に新たなパートナーシップを結ぶ「場」を設けていると聞く。一度視察してみたい取り組みだ。

結びに  
 第84 回全国都市問題会議(全国市長会主催)「個性を活かして選ばれるまちづくり」を参照しながら考えを述べてきた。何度も同じ都市を訪れ地域とのより深いかかわりを持つ来訪者にとっては、人間関係を新たに構築し体験を深め自由で創造的なライフスタイルの選択肢になろう。都市にとっては地域外の人に繰り返し訪問され密度の高い関わりをもらうことで地域の新たな魅力を形あるものとし、地域の活性化、持続可能な地域社会に結びつけて行けるであろう。「また訪れたくなる、何度でも訪れたくなる」魅力ある地域づくりは、すでに全国の自治体で展開されつつある。それらの取り組みに共通する要素やその取り組みをより発展させるために必要な視点に注目しながら更に前進したいものだ。

(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)