HOME > 連載コラム

中央テレビ編集 


<< 先月のコラムへ    トップへ    >> 次月のコラムへ

自治随想
「中央VS地方」、総体&現場主義の錯覚・ズレ
~その4、三位一体改革の評価と課題~
地方切り捨ての施策か  
 宮城県気仙沼鈴木昇市長は 「国の進める三位一体改革は真の地方自治確立に向けた重要な改革だと認識するが、国庫補助負担金の廃止・縮減や地方交付税の財源保障機能の縮小といった地方の支出削減が先行し、財源の代替えとなる税源移譲が部分的にしか行われないことから地方自治体の財政運営に大きな影響を与えている。 加えて、国の進める公共事業削減や採算性のみを重視した高速道路整備などに代表される国の行財政改革は、無駄なものを求める地方と必要なものが満たされない都市という対立構図と、台頭する中央発信型の傾向を背景とした地方切り捨ての施策の展開と言わざるを得ない」と言う。更に 「社会基盤整備が不十分な地方に暮らす人々にとって、高速交通ネットワークは経済活動のみならず救急医療・災害時輸送代替道路などセーフティネットの役割を担う生命線であり、また、 生活道路においても歩道のない通学路・車のすれ違いが満足にできない子供・高齢者に危険な道路もある。 地域住民に最も身近な行政組織として地方自治体は、あらゆる資源を活用し地域の自立的発展に取り組むに当たり、自助努力や創意工夫だけでは乗り越えられない壁、即ち財政課題がある。 こうした地方の現状に的確に対応しない行財政改革では地方と都市との社会資本格差を一層拡大し、地方の疲弊を招き、 食糧供給・エネルギー供給など生産性機能維持の困難、終局には国土の荒廃・日本経済全体への悪影響、さらに長期的にはむしろ多額の財政負担を国民に強いることになろう」 と指摘する。 一方で、 地方はこうした経済的劣性にありながら、 水源涵養や二酸化炭素の削減、地球温暖化の抑制など環境と国土の保全という重要な役割を担っているが、都市部では効率性を追求した過度の集積による環境破壊やゆとりの喪失などの弊害が顕在化している現実に鑑み、 国土の均衡ある発展を支えるためにこの相対する構図を互いに理解し是正すべく、 将来を見据えた真の三位一体改革を推進すべきだと切実な現場の声を発する。
 福井県丸岡町林田恒正町長は「闇討ち同然の改革」と厳しい意見。曰く「国・地方財政の三位一体改革により2004年度予算で、 地方交付税と臨時財政対策債を合わせた実質額前年度比12% (3兆円) が正式に公表されたのは昨年の暮れ、丸岡町では予算編成の最中であった。 交付税は税収に次ぐ重要な歳入、その増減は予算編成に大きく影響するのに国、県からの何らの説明もなく闇討ち同然、そのうえ児童保護費等負担金 (公立保育所運営費)の廃止、さらに国の廃止に伴い県の負担金も廃止、本町では幼稚園のあずかり保育の充実を目指し特区で認められた二歳児入園を今春から実施し少子化対策の充実を図ろうとしていた矢先だけにガックリ、一時予算編成作業が止まってしまった」と。 県との連絡のなかで、地方交付税2億2千7百万円、 臨時財源対策1億7千百万円合計3億9千8百万円減を確認し、更に国庫及び県補助金廃止として公立保育所運営費負担金1億6千万円、在宅当番医補助金など5百万円の合計1億6千5百万円、一方、所得譲与税は5千2百万円、差し引き三位一体改革による財源不足は5億1千1百万円になったという。 全国の町村から新年度の予算編成ができないという声が相次ぎ、全国町村会は1月30日 「町村財政運営に関する緊急要望」 を総務省に提出。 総務省は「地域再生事業を弾力的に運用する、財政健全化債を拡大する」という対応をするが、この運用ができなかった町村も多く出る。 即ち、依存財源の多い町村においては新年度予算編成に伴う経費節減を従来以上に進めなければならなくなり、その分住民サービスの低下に繋がる。
 そこで丸岡町では三位一体改革による財源不足、住民サービス低下を防ぐために、町役場の中堅職員、区長会の代表、各種団体の代表、 町施設利用者の代表12名で「新年度予算編成に伴う経費削減検討委員会」を設置し短期間、集中的に会合を開く。 その結果、 町営温泉の利用料金の値上げ、 社会福祉協議会など団体補助金カット、 保育料の値上げ、 公共施設の燃料費など維持管理費の削減など合計約1億円の削減案をまとめ町から提案する。 闇討ち同然の三位一体改革における唯一の成果は 「町民の参画を得て予算編成を進めること」であった。議会でも注目され、16年度行財政改革の検討を議会・町民・行政 (役場)で進めることが確認される。さらに大幅な人件費の削減については、平成15年度末退職者13名に対し新規採用を8名に抑え、 勤務手当の大幅削減、管理職手当引き下げなど合計1億6千万円削減、小・中学校・保育園などの備品購入費、 教育用パソコンリース料など物品等経常経費の削減で計9千万円、特別会計、企業会計などの繰り出し金削減で1億6千万円、前出の町営温泉利用料値上げや保育料値上げによる町民負担増、 社協など団体補助金カットなどで約1億円などと、やっとのことで三位一体改革による財源不足5億1千1百万円を賄う。林田町長は「三位一体改革の必要性は認めるし、地方分権の推進も必要だが、その実現のためには国と地方自治体が事前に十分協議すること、各地方自治体が行財政改革と歳出の徹底見直しをすること、国と地方の税源配分を原則1対1にすることだ」と結んだ。
 さらに深刻な指摘が岐阜県宮村の大江哲雄元村長(平成6年就任)から出る。「三位一体改革やその後の地方交付税額や交付状況を見る限り、当村では致命的で予算編成は全くでき得ない状況だ。 小さな村は生きる資格がないのだろうか」と悲痛な声が出る。その一方で「国土を管理しているのは農山村の民、人々である」とされ、従前から国の政策で積極的に針葉樹の植林を奨励してきたが、 昭和30年代から外材輸入が始まり国産材の価格が著しく低迷し収益性が皆無に近くなり、森で働く人々の暮らしが成り立たず森林が放置され、土砂崩れ・土石流の発生など水害が多発する。 森林は豪雨の際に保水力を持ちダムの役割を果たし、下流地域の農耕用水・都市部への生活用水を提供しており、その環境保全にも繋がる。 国土保全の重要な役割を担う農山村は、全国何れの地域においても財政力は弱く、命綱ともいえる地方交付税をカットし、その対応措置が不十分となれば政治の存在意義が問われる。「自主自立の精神で他者に頼らない地域づくりを」というのなら、交付税を配分する国の側に配分能力が問われるのではないか。 加えて平成16年度の地方交付税は全国平均6・5%削減であるが、人口規模の大きい自治体の10%削減と一般会計20億円を下回る小規模自治体(宮村)の削減では、同じ削減率であっても小規模町村に与える影響差は極めて大きく、地方の実情を勘案しているとは言い難く財政力の小さい寒村への配慮に欠ける。村長曰く「よどみない美しい水、水道の蛇口をひねると出る美味しい水、澄んだ空気はどこで浄化され、美味しいコメ・野菜などは農業者が水をやり手間をかけ懸命に生産し供給する、それらすべては森・野山・水辺に住む人々の営みから発している。本来の政治の視点から、三位一体改革交付税改革を見直し農山村の財政力の弱い所にまで光を届けて欲しい」と。


日本一広い高山市
 2005年(平成17、2,1) 新「高山市」誕生、宮村はこの1市2町7村合併に加わる。 合併時に高山市長であった土野 守氏は中央大同窓で白門市長会を結成しともに研鑽した同志、激励し協調し合った仲である。 自治省、北海道庁、沖縄開発庁、 新潟県庁出向、自治省官房企画官、 同参事官を経て、1994年市長当選4期務め、2017年80歳で没す。 生前会うたびに「わが市は広いぞー!」 と語り、 自治省出身ゆえに様々に協議、工夫したと聞かされる。 何しろ面積は大阪府や香川県より大きく東京都全体にもほぼ匹敵、日本で最も広い市となった。高山市と久々野 (くぐの)・国府の2町、丹生川 (にゅうかわ)・清見 (きよみ)・荘川 (しょうかわ)・宮・朝日・高根 (たかね)・上宝 (かみたから) の7村、人口 94,606人となる。土野守市長は「世界に範たるバリアフリー都市・観光福祉都市高山」を掲げる。日本一大きな市、飛騨高山と知られる年間約430万人の観光客、 豪華絢爛な年2回の高山祭・歴史・伝統ある名所旧跡、温泉、北アルプスの美しい豊かな自然、 市内90% が山林だが東海北陸高速道など交通アクセスもよくなり、 おもてなしの心のソフト面とハード面のバリアフリー施策とで増々の観光発展を期すと力説する。 京都、 江戸両文化の影響を受けた独特の文化が町民生活に根付き、高山祭の屋台は国の重要有形文化財、屋台行事は同重要無形民俗文化財指定、4月の日枝神社の山王祭 ・10月桜山八幡宮の屋台行事はユネスコ無形文化遺産にも登録されている。市長の招きで数回訪れたが、屋台会館・三町筋巡り・宮川沿いの買い物市場・まちの博物館・高山陣屋・ 城山公園・飛騨民俗村・飛騨の里・各地温泉郷 ・野麦峠 (高根地区)・五色ヶ原等々、 観光資源は多彩だ。 その一方、8万4419人 (2020年) と人口減少に対し 「誰にもやさしいまちづくり条例」などを制定し、高山市のバリアフリー化を高山市民の高齢化対策「市民の誰もが自由に街に出られるように」するために、歩道と車道の段差をなくし歩車共存型道路整備、 車いすやベビーカーの車輪が落ち込まない仕様のグレーチング、 快適公衆トイレの整備、 民間事業者の取り組み支援 (ホテルの浴場や客室のバリアフリー、施設出入り口のスロープ化、タクシーに乗降しやすいサポートシートの導入など)、 さらに点字や音声による観光マップや観光情報を12言語で作成するなど国内外からの高齢者・障がい者が訪れやすいまち、車いすで観光できる街を目指す。 大合併当初、福祉など行政水準は中心たる旧高山市の水準に合わせたため周辺町村の水 準はあがり、財政力指数は合併前の0.74から0.43と下がったが、現在0.56と回復しつつあるといかにも旧自治省出身者らしいコメントだ。「予算も時間もかかり、終わりのない取り組み」を日本一広い面積を有する市域全体でバリアフリー化をどう浸透させていくか、その「実験場わがふるさと高山市に期待している」との声が聞こえてくる想いだ。

(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)