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中央テレビ編集 


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自治随想
「中央 VS地方」、総体&現場主義の錯覚・ズレ
~その1、地方分権改革・地方創生の取り組みを巡って~
 平成3年三位一体改革スタート、同7年地方分権推進法が制定された。以来、中央と地方の関係が大きく変わりつつある。地方からこの国を変えようとする歴史の変動エネルギーが湧き上がる。奇しくも平成初の市長就任となった私は、同17年2月まで4期に亘って全国自治体それぞれの立場で首長を務める人たちと共に、その現場で変革の突破口を模索する。組織的には知事会・市長会・町村会とそれぞれの議長会ともに地方6団体は全員一致が原則ゆえの事務的会合から変身し、勉強会の全国首長連携交流会(代表:森民夫長岡市長)、学者・研究者による個別・専門学的な会議に加え、全体学的に現場で総合的に諸現象に対応しなければならない現場の首長の迫力ある発言に期待する会議などが数年間の議論を経て、提言・実践首長会が生まれ「議論するだけでなく、成果物を政府に届ける」動きとなり、更に梶原拓全国知事会会長「今こそ地方からの一揆だ」、21世紀臨調(リーダー:増田寛也岩手県知事)が加わり、ここに知事・市長村長一体の議論ができるようになる。一方、同志である穂坂邦夫志木市長リーダーの全国有志市町村長の市町村サミットも改革提言を世に問う。こうした自主的な現場からの提言が「国の常識は地方の非常識」 (PHP研究所編)「地域から日本を変える」(改革の灯を消すな市長の会編)」等となり、全国市長会の機関紙「市政」への各地市長による現場での地方創生実践寄稿となる。さらに私も会員である日本計画行政学会における講演・シンポジュウム・論文など専門家や学生・企業等各界各層の意見も多く交わされ具体的な知見を得ていく。これらの中からいくつかを紹介し参考に供したい。
 日本計画行政学会2022年度45回全国大会 in山口は、9月9~10日新山口駅前 KDDI 維新ホールで開催、大会テーマ「少子化時代の地方大学と計画行政」のもと、基調講演(藤井律子周南市長による「大学を生かしたまちづくり~私たちの街の、私たちの大学~」、パネルディスカッション:「少子化時代の地方大学と行政計画」、パネラー:藤井律子周南市長・ 中田晃公立大学法人福山市立大学副理事長・三村聡岡山大学地域総合研究センター長、コーディネーター:渡邊一成福山市立大学)が実施された。
 わが国の人口は 2008年にピークを迎え、本格的な人口減少・少子高齢化社会に突入し、 かつそのスピードは大都市圏に比して地方都市で加速化しており、地方を担う若者が減少 する中、地域の人材への投資を通じて地域の生産性の向上を目指すため、「地方大学・産業 創生法」が平成30 年5月に成立し、これに基づき首長のリーダーシップの下、地域の中核的産業の振興に向け産官学連携により、地域に特色のある研究開発や人材育成に取組む地方公共団体を重点的に支援している。若者を地域に定着させるには、地域の知の拠点である地方大学が地域の特性を踏まえ、日本全国や世界中の学生を引き付けるような「キラリと光る地方大学づくり」に力を注ぐことが大切である。特に、中山間地域や島しょう部、豪雪地帯などの条件不利地域が多く、他地域に先んじて人口減少・高齢化が著しい中国地方の状況を鑑みると、地方大学における教育研究・社会貢献活動などにより地方創生や担い手の育成に向けた創意工夫を発案し、早急に実行に移していくことが喫緊の課題といえる。具体的には街づくり・公共交通・移住の促進・農商工の連携・地域資源の活用などの分野で、優れたコンセプトと実行力を備えた体制作り・人材育成が急がれる。そして、その推進を行う上で得られた各種の知見をどのように行政に取り込むべきなのか、このことがまさに計画行政に求められている。特色ある具体的な取組を行っている自治体や地方大学の内容を拝聴し、互いに建設的な議論を交わし、各セッションのテーマの下で発表者の提言・質疑応答、座長の進行など様々な視点からの現実的な知見を得る。
 基調講演「大学を生かしたまちづくり~私たちの街の、私たちの大学」藤井律子周南市長:周南公立大学は、徳山大学の名称で1971年に私立大学として開学、当初は学校法人中央学院が運営していたが、当時の文部省の行政指導(大学校舎の距離が離れすぎており、同一大学としての設立認可は困難)により、中央学院大学とは別の大学として開設される。その後、学校法人中央学院の経営悪化に伴い、出光興産(出光佐三氏2億6200万円)を始めとする地元財界の寄付で新たに学校法人徳山教育財団を設立し同財団に運営を移管する。2021 年8月に「地域政策課題の解決、地域経済の活性化、人材の育成・定着、まちの賑わいの創出など、大学を生かしたまちづくりにより、周南市ならではの人口減少対策、地方創生が期待できる」「市民の地域活動や生涯学習の充実に寄与する」ことを目的として周南市議会において公立化(周南市の設立する公立大学法人への運営移管)が議決され当時の高村坂彦徳山市長が推進し、同年12月に山口県知事から設立認可、文部科学大臣から「徳山大学の設置者変更」の許可を受け、2022年4月に周南公立大学となる。経済学部:現代経済学科(現代経済コース・コミュニティ経済コース・ファイナンスコース)、ビジネス戦略学科(経営コース・知財開発コース・スポーツマネジメントコース)、福祉情報学部:人間コミュニケーション学科(社会福祉コース・社会福祉専攻・介護福祉専攻• 生涯スポーツ専攻)、情報コミュニケーションコース(メディア情報専攻・心理学専攻)がある。創立50周年時の卒業生約1万7千名はじめこれから学ぶ若い世代は周南の宝、地元大学を生かした地方創生を市長選立候補の公約としたと力説し、「怖いもの知らず」の積極性をもって「大学は文理融合・領域横断型の人づくり(学生も市民も、職員・会社員も学びたい者が気軽に参加でき学べる)」―そんな公立大学を市民とともに考えたい、そのために地域の応援団・DXセンター・インターンシッププログラム・地元コンビナート産業などとの大切なつなぎの形成、周南大学と行政の極めて密な連携、履修生の報告レポート・インターンシップ教育の充実等を熱っぽく語った。そして「公助と協同」をどう組み立て社会実相するのか、地方大学における人づくりと、地域産業発展のために大学と企業の連携、「公・共・私」による暮らしの維持、「自助、共助、公助」連携のプラットホーム・ビルダーへの転換、更に「地方大学に求められているのは何?」について「こうあるべきもいいが、変化や矛盾を考えたうえで現実を受け止めて頑張る!」(中田パネラー)、学生が地域びと・社会から学び、地域と共に推進するために地域に学生をグローバルに出して学ばせ、地域に戻す。学生が無限の可能性を持ち続けるように夢を抱かせ、地域で支えてもらうために地域レガシーをいかに選んでいくのかが大学の役割、学生に気づかせ生きる力を持たせる(三村パネラー)。「自助・共助・公助」を「私たちのまち・私たちの大学・私たちの産業」と置き換えて精進したい(藤井パネラー)。渡邊コーディネーターが「そうした地域循環空間をどうつくるか」とまとめた。 大会2日目のワークショップではわが徳島文理大学大学院島田早季子さんが「基礎自治 体におけるDX推進の課題~人材不足の観点からの問題提起~」と題し、修士論文中間報告 をする。各種文献、徳島市役所現場や国対応の組織・人材不足対応などしっかり報告する。 川瀬晃祐東洋大教授との質疑、「どのような人材を求めるのか、どういう仕事をやってもら いたいのか、はっきりさせること」とのアドバイス、座長の三村聡岡山大学教授からは中国5県の経費節減の紹介と修士論文が完成後改めてこの会での報告に期待すると激励された。
 学会出席の合間を縫って、約30年ぶりに新山口駅から7つの駅(徳島―小松島間より少し長い)を経て、県庁所在地山口市役所(当時は佐内政治市長)を訪れた。懐かしい限りであったが伊藤和貴現市長はじめ陣容は変わり、それでも親切に市政の現況を教えて貰えた。 混迷の幕末に長州藩は藩庁を萩から山口へ移す。藩庁は山口政事堂と呼ばれ、討幕運動の拠点となる。明治になり廃藩置県が実施され、長州(山口)藩庁は山口県庁にそのまま移行、県政の中心地であり続けている。長州藩の藩校(明倫館)は藩庁移転の際に私塾山口講堂、山 口明倫館と改称、旧制山口高などを経て現在の山口大学へとつながる。山口大学は1973 年に平川へ移転したが、山口明倫館跡地には県立図書館・同博物館・同美術館が整備される。 合併・分割の変遷は、昭和4年が初代、昭和19年が2代、そして2005年(平成17)が3代山口市(1市4町、山口市・小郷町・阿知須町・徳地町・秋穂町)と変遷し、県内最大の市域面積、人口19万2300は下関・宇部・周南各市に次ぐ県内第4の市となる。
 産業に目を転ずると、山口市は県庁所在地ではあるが、主たる産業は公共施設や公共事業等を除くと観光業、流通業中心であり、日本では数少ない言わば行政都市に特化した印象が強い。例えば、私たちの学会総会場のKDDI維新ホールは小郡地区(旧小郡町)駅前にあり、道路網や鉄道網が新山口駅を中心として四方につながる県央地域の交通拠点となっている。 このため、同地区では小郡時代から全国企業の山口県統括担当となる支店や営業所、ホテル等が多く設置されており、商業、特に流通業に特徴が見える。商業地の標準地公示地価も市内の他の標準地に比べて旧小郷町JR新山口駅南側が突出しているようだ。また、宇部市を中心とした宇部都市圏を主な商圏とする阿知須地区が市内にあることもあり、山口市の年間商品売上額は山口県内第1位となっている。瀬戸内海に面する地域に秋穂漁港・相原漁港・阿知須漁港・山口漁港があり、内水面漁業によるアユの養殖も盛んだという。歩いてみると、山口駅周辺の市中心商店街、歓楽街の湯田温泉の宿泊施設、地元百貨店、大型ショッピングセンターなどが今一つ元気がないように感じられた。特に約30年前の湯田温泉街から山口駅周辺にかけての活況を知る私の想い出からすると、相互協力と商店街相互の再生策、産官学連携の知恵、公・商・私の支援など今様に工夫を凝らすコミュニティの中からアイデアと活力が見いだせるのではないかと思う。諸行事終了後、藤井律子市長と意見交換、徳山港周辺の工場夜景視察を伝え、「ある物探し、気付きの地方創生事業だネ」と激励すると、「今1期目、この気持を忘れず頑張るわ」と笑顔がたのもしかった。

(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)