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中央テレビ編集 


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自治随想
人口減少、少子高齢化時代の地方創生
~その7、日本型州構想の設計と実現に向かって~~
地域主権型道州制の設計と分権型地方創生
 国民あるいは地域主権型という新たな日本のかたちの考え方は、内政の拠点を国民に身近な約10の州と2つ程度の都市州及び市町村が中心的役割を担うという国家像だ。それぞれの州が地域圏の特性を踏まえた成長戦略、都市戦略、公共経営を展開できるように省庁・出先機関・都道府県・政令市・中核市・市町村を再設計する。小規模町村の切捨てや大都市の優遇ということでなく、分極型の国土形成は地方分権を進める分権型制度と一体でなければ実現しないし、そうすることでいま進める集権型地方創生とは異なる新たな展開ができる。ほぼ整備が一巡した道路・橋・鉄道・空港・公共施設など社会インフラを如何に使いこなすかを地域ブロック圏で構想でき、分権型地方創生実践のポイントとなる。東京一極集中に歯止めをかけ地方圏に雇用の場と産業を創出するブロック圏の形成を目指してこそ、 地方創生ができ国土の均衡ある発展が望める。ハードインフラ整備が一巡した今、今度は統治機構改革、ソフトインフラの分権型整備こそが改革の本丸、そうすることで大都市より相対的に高い地方での出生率の成果が生かされ、日本の人口減にも対応できよう。これまでの現実対応策に止まらず、若い人に夢を与え大都市に向かう流れを変える骨太の統治機構改革こそが、手をつけるべき日本の改革、州構想実現への政治主導による体制転換だといえる。 現在の日本の地方制度は従来の右肩上がり時代の、中央集権体制を背景にした時代のものから大きく変わっていない。改めて人口減少、都市国家、経済成熟社会に相応しい地域主権体制確立の視点からの地方制度構想、即ち日本型州構想が待たれる。市町村・都道府県・省庁体制を新しい考えのもとにデザインしなおすこと、外圧でしか変われない日本ではない、国民の教育水準・生活水準も世界のトップレベルにある日本が自ら変われない筈がない。

◆日本型道州制への移行シナリオ
 その前提として、先ず明治維新に学ぶべきだ。全国民、省庁、府県、市町村、国会、道府県議会、市町村議会等を巻き込んだ大改革は、ー朝ータにして成らない。約150年前の明治維新の大改革も、先ず長州藩の高杉晋作らが、武士身分にこだわらない奇兵隊を率いて藩体制を壊し版籍奉還、廃藩置県を目指したことに端を発し、約20年後の明治18年に明治政府ができ近代国家日本が生まれた。この新たな近代国家日本の扉をこじ開けた志士の多くは地方出身の人たち、改革の始まりは蟻の一穴、小数の志士たちの強い決意から始まった。堺屋太一著「維新する覚悟」で、「いまや、経済も社会も文化も敗戦時の混迷と変わらない状態にまで落ち込んだ日本を再生再興するためには、お金をバラ撒く前に正確な情報(官僚に操作され歪められていない)を国民に知らせ、国民に身近なところで事業を決めるやり方を広める必要がある。 第3の敗戦というべき長期下落にあえぐ日本を根本から蘇らせるためには、抜本的な大改革つまり維新する覚悟と維新する知恵が必要だ」とされている。さらに、中央集権体制の制度疲労に気づくべきだ。 20世紀後半までは、全国に統一性・公平性を担保するために国が強い指導力を発揮しナショナルミニマムが行き渡り、社会資本が急ピッチで整備され全国が底上げされた。高度経済成長も追い風となって、国は地方に対し「自治の原則」より格差を是正する「均衡の原則」を重んじる自治体政策を取り続けることができ、地域のどこに住んでいても同じサービスを受け、争いも起こらず、潰れる自治体もなかった。しかし 21世紀の今、高度に都市化し、多様な価値観を持ち多様なサービスを求める社会には同じ手法は通用しない。変貌した社会では、税金の使い方も単なる統一性・公平性重視でなく、多様な使い方・集中と選択を重んじる。つまり、これまでの中央集権体制は制度疲労の状況にあり、これからは自己決定・自己責任・自己負担の原則、即ち均衡の原則より自治の原則で地域経営を行う地域主権型国づくりに向かうべきでないか。
 次の具体的な州制度移行ステップは、法治国家である日本ではやはり国会に例えば「道州制基本法」を提出し、慎重審議のうえ改革の基本法をつくることだ(佐々木信夫中央大教授)。その内容は、州制度移行の目的から始まり、制度設計の基本方針としての州の区割り、州都、大都市制度、東京のあり方、市町村のあり方、州と国・市町村との役割分担、州の公務員制度、州の議会・選挙制度、州知事の権限及び州政府の仕組み、道州の立法権、基礎自治体の規模、州の税財政制度及び調整制度などが示されなければならない。政府の道州制ビジョン懇談会は、「道州制基本法」の制定(基本理念・実現への行程表・道州制の検討体制)―「道州制実施法」(道州の役割・権限、区割り、税財政、公務員制度など)―「道州制法」の制定、実施という 3段階の移行過程を示し、これを受けて2014年春の通常国会に与党(自公)が提出しようとした法律原案では、先ず3年間、道州制国民会議を設置しその中身を有識者や政治家で議論し、その結論がGOならば、道州制実施本部を創設し具体的に移行の目標年次を定めて進めるというものであった。しかし、その後の衆院選・統一地方選を意識するなど様々な配慮からか、基本法の提案を見送っている。
 当然のことながら国民的なコンセンサスがなければ、改革の結実は難しい。道州制基本法を先ず制定したあと、区割りを含めた具体的な制度設計は専門家や自治体関係者参加の制度設計委員会で案を作らせるにしても、それを都道府県に知らせ様々な意見を吸収し再度練り合わせ成案を得る地方と国のキャッチボール過程、ボトムアップ型の意思形成が必要だろう。国民への啓発活動・世論喚起―首相の決断(内閣の統一)―道州制基本法の提案―道州制基本法の可決・成立―道州制担当大臣任命―道州制諮問会議(国民会議)の設置―区割りの決定―税財政制度の決定―諮問会議の答申―道州制実施法の可決・成立(国会)―都道府県の廃止・住民周知ー州知事・州議会議員選挙ー各州の基礎的自治体の体制整備―日本型州制度への移行という移行シナリオが考えられる。 各党における贅成・反対、各党内の積極派・慎重派・消極派・中間派とまちまちに展開されるが、特に税財源の移譲や交付税改革となると各党の違いが鮮明になる。さらに州の区割案、国・州・市町村の役割分担の見直し、州政府の統治制度といった個別具体になれば地域間の優劣や選挙地盤等各党の政治的判断も加わって一段と複雑化するであろう。
 一筋に地方自治を歩んできた私は、ここでこれまでの地方分権改革に学び、活かすことを強調したい。国民との合意形成の観点から考察すると、各党やそれぞれの立ち位置によって道州制への考え方は微妙に違う。大まかに言えば、国は外交や防衛・マクロ経済政策などに特化すべきであり、内政は都道府県を再編し道州と市町村に委ねるということで概ね一致する。勿論、道州制は現在の都道府県割が出来た明治以来の大改革だけに、その実現へのハードルは高い。早い話が「地方分権を進めるべきだ」と声高に主張してきた私たち地方でも、道州制については慎重だし、特に市町村は「再び合併を強いられる」と危惧し町村は反対を表明する。平成の大合併が動き出す前1999年(平成 11) に3232であった市町村が1718にほぼ半減という現実を目の当たりにし、また道州制を府県合併と誤解する見方もありそうだ。民主党政権の3年余を経て自公政権に戻って 10数余年、地方分権は進まず合併の旗も振られず自治体側も消極的な動きになっている。その一方で人口減少は進み、自治体の消滅可能性が議論される事態となって、基礎自治体のあり方が「待ったなし」の状況となり、もう一度「基礎自治体のあり方論」が、これまで全国各地で展開されてきた地方分権改革の実践を下敷きに、 積極的な議論• 取り組みがなされなければならない。
 「新しい国のかたち」の日本型州制度の第一歩は、国の役割をしつかりと絞り込み、それに伴う中央省庁や国会の新たな姿を先ず示し、それを国民の間で広く議論し、一定の理解が進んだところで道州制の区割りや市町村のあり方を議論する手順を踏むべきであろう。また、 分権国家の究極の姿である道州制を目指す前の段階で、今すぐに現在の都道府県制のままでもやれる改革や先進自治体で取り組んでいる多くの地方分権実践例に学ぶ活動が必要だ。 国・自治体共に、今すぐできる改革をないがしろにしてはならない。かつて国から自治体に丸投げされた国の補助金改革、先行すべき国の歳出削減と統治機能の無駄を省く改革を思うにつけ、「改革なくして成長なし」「成長戦略は統治機構の改革から」「先ず隗より始めよ」(佐々木信夫中央大教授)ということであろう。総合政策学部 4回生講義のまとめとして、 5つの原則を伝えている。第1に、基礎自治体優先の原則をとる、適正規模の確保に再編などの方法をとること。第2に、地方税の固有税化を図る、共有税等で水平調整し格差を是正。 第3、集権型道州制への移行は絶対阻止、地域主権型州制度へ憲法改正も視野に。第4、地域コミュニティの重視と強化策、市内に地域自治区等をつくる。第5、増税に繋がる統治機構改革を避け、簡素で効率的な賢い統治機構を目指すべきだと。
 人口減少時代の真の地方創生は、身の丈にあった新たな国のかたち、統治の仕組みをつくりだすこと、国民・地域主体の地域主権型の新たな国家体制の下で、地域圏からエネルギーが湧き出るものでなければならない。人口減少、少子高齢化社会など新たな社会動向に加え、地球温暖化、多発する自然災害、感染症の世界的流行、2050年には百億人が推測される世界人口、国際社会の不協和音等々不安状況は限りなく大きく深い。しかし、その根幹には私たち1人ひとりの当事者意識、地域社会、国家のあり様が問われている。憲政記念館にある憲政の神様・尾崎行雄の「人生の本舞台は、つねに将来にあり」の言葉を噛み締めたい。
  地方の創生、日本の創生はまさに国家百年の大計、それだけに真剣に、時間をかけて、国民主体・地域主体のボトムアップ型の地方創生、そこから新たな日本のかたちが生まれてくると思われる。


(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)