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中央テレビ編集 


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自治随想
~その3、道州制構想から新たな日本型州制度へ~
道州制論議
 前出の佐々木信夫中央大教授によると、 1927年(昭和 2)、田中儀ー内閣行政制度審議会での「州庁設置案」を巡る議論に始まり、 1945年戦時体制下の都道府県を包括する地方総督府を設置した際にも議論され、戦後第 4次地方制度調査会の「地方庁」を始め諸機関・団体から様々な道州制構想が繰り返され、実態不明の幻の改革構想と椰楡された。その共通点は「47都道府県を廃止し、それに代わる広域の自治体を新たに創設しようという制度構想の総称」(西尾勝「地方分権改革」)とされた。構想の共通する点の 1つは、州単位に地方庁を置く案で議会を公選としながらも国の大臣に相当する官選知事ないし任命副知事を置き、自治権の小さな地方府(庁)とする(中央集権型道州制)案。 2つは、州単位に自治体としての道州を置く案。これは憲法を改正せず府県制に代えて都道府県の統合と国の出先機関を包括し、国からの行政権限を移し内政の拠点性を持つ広域自治体としての道州を置く考え方(地域主権型道州制)。 3つは、連邦制を前提に州政府を置く案。これは憲法を改正し、 アメリカ・ドイツ・カナダのような連邦国家に移行し、各州単位で立法・司法・行政の権限を有する独立した地方政府(道州)を置く考え方(連邦制型道州制)だ。佐々木教授のいう日本型州構想は 2の地域主権型道州制を基本とする考え方である。
 ここで改めて現在の 47都道府県制度を考察すると、わが国の広域自治体に当たる都道府県制度は明治の近代化から、歴史的に新たな第3の段階にあると思われる。即ち、1945年までの第1段階の府県制度は明治憲法下の立法政策上置かれた府県制度で、中央集権体制 の足場となる官選知事をおく国の総合出先機関の性格が強い。2000年までの第 2段階の府県制度は戦後憲法下で地方自治が憲法上保障され、公選知事制に切り替わり制度上は完全 自治体となる。ただ、2000 年3月までは中央集権体制を前提とする大臣の地方機関として国の業務を大量に執行委任する機関委任事務制度下の知事制度であった。つまり、都道府県は完全自治体といえどもその実態は、業務の 8割近くが国の通達によって委任業務を処理する自治体であったのだ。それが2000年4月以降、第 3段階の地方分権改革後の府県制度となる。同年4月地方分権一括法施行で機関委任事務制度は全廃され、上下主従の中央地方関係は法的に崩れ、税財政面での上下主従関係は残るものの、国の差配を受けない8割近くの自治事務を有する広域自治体に変わったのである。しかし、税財政面での上下主従関係を残したまま、47都道府県広域自治体体制もそのままに市町村合併を強く推進する改革は、地域•現場の事情を巡る現実的な課題に突き当たる。こうした現状に対し全国市長会役員として地方6団体の立場から、本当に厳しい対応に日々苦悩したことを思い出す。

◆地方分権改革の理念
 「器を作って魂入れず」の格言ではないが、広域自治体体制をしつかり見直すこと、内政は最約的には地域にかかわる政策であることを念頭に、 人口政策、産業政策、教育・福祉政策・交通政策、環境政策、環境政策等々、自由に政策展開できる政策環境づくりが基本でないかと思われる。国土交通・厚生労働・文部科学・農林水産・税財政などの権限を依然国の各省が握ったままではならない、この受け皿となる広域州をつくる、出先機関も含め本省業務の大幅な移管を可能にする、そうした州政府を内政の拠点にするよう行財政権限を大幅に移管してこそ広域行政が可能となり、広域化した時代の環境にあう政策展開も可能となろう。大都市圏をはじめ地方の広域圏、基礎的自治体の市町村それぞれにおいて地域政策としての都市経営を可能とする「理念を持った地方分権改革」を目指すべきであろう。憲法は、 前文で「主権が国民に存することを宣言」している。国民一人ひとりが自主、自立の精神を持ち、地域の政治や行政に主体的に参加し、自らの創意工夫で地域の特性に応じて多様な地域づくりができる統治体制、それが地方分権改革を進めて確立される地域主権という体制である。地方分権は、中央集権体制下で国の持つ権限、財源を地方へ移譲することを意味する。換言すれば中央集権体制から地方分権改革を進めること(手段)によって、地域主権の国(新たな国のかたち)を創ること(目的)であり、地方分権は手段、地域主権は目的なのだ。そこで佐々木教授や私たち有志の市長が主張した地域主権の日本型州制度の骨子は、①日本を地方分権の進んだ地域主権の国家体制にする ②東京一極集中を是正し、各圏域が自立できる活力ある競争条件を整える ③国・地方の統治機構を簡素化し、政策力の高い賢い政府システムに変えるなどである。つまり、国は中央政府としての役割、各州は広域地方政府としての役割、市町村は基礎自治体の役割を担い、国・州・市町村の3者は縦の関係ではなく、役割の異なる対等な政府として横の水平的な関係を保持すべきであろう。
 また国、地方の役割分担については、これまで国の事務とされてきた事務権限について改めて精査し、自治体の事務に移譲しても支障がないものをしっかり選別し地方に移譲し、更に行政権の移譲のみでなく、立法権についても国の法律で決める範囲と州・市町村条例で決める範囲の適切な線引きを前提に、可能な限り移譲すべきであろう。もとより国は国家の存立に関わる事務(外交・国防・危機管理など)、全国的に統一されるべき基本ルール、国家規模でのネットワーク形成(幹線網の整備など)、高度な科学技術、希少資源に関する行政、国の行政組織の内部的管理に関するものなどに集約されるべきであろう。
 次は州の区割りについての試案である。重要な視点は、①経済的にも財政的にも自立が可能な規模であること ②住民が州に帰属意識を持てる地理的一体性、歴史・文化・風土の共通性があること ③生活圏、経済圏、ないし大都市圏をカバーするよう圏域の一体性を重視すること等が考えられる。こうした客観的条件を踏まえながら各州の住民の意思を可能な限り尊重し、法律によって全国を10程度に区分する、関東・関西を代表する2大都市東京と大阪を都市州(特別州)とし、北海道・東北・北関東甲信越・関東・東海・関西・中国・四国・九州・沖縄と東京特別州・大阪特別州の 10 州+2 都市州という案である。この試案に対する諸説が当然存在する。東京だけが突出する一極集中型の日本を続けることは望ましくなく、むしろ多極分散型の新たなこの国のかたちづくりが第1歩であろう。

◆州制度試案を巡る諸論
  第1に州制度の性格を巡って、①集権型、②地域主権型、③連邦制型等などが考えられる。 中央集権体制を維持したい集権型道州制の主張は、新しい州を各省の地方総合機関と都道府県に代わる広域自治体の性格を併せ持つ団体にしようとする考え方で、これでは戦前からの府県制度のような不完全自治体の復活、戦後の民主化・地方自治強化の流れに逆行し兼ねない。また地方分権を徹底的に進めるべきだとする連邦型道州制の論には、天皇主権から始まった日本の成り立ちや米カリフォルニア州1州の面積しかない国を連邦制に分割する意義、連邦制には憲法改正が必要だといった議論もある。そこで合意の得られる可能性を考えると、地方分権を進め現行憲法の枠内に収まるのは地域主権型道州制ではないか。国民主権の延長線上に地域主権があり、広域圏を1つのマネージメントの主体と考え公選の知事と議会を置き内政の拠点性を持った地方政府を作り政治行政の中心にするやり方だ。
  第2に「州」の所掌事務の範囲については、国の役割を外交ほか対外政策と国内統一事務に限定し、あとは州政府と基礎自治体の地方2層制に委ねて地方政府を作り政治行政を担わせる(道州制ビジョン懇の示す役割分担)のが基本であろう。心しなければならないことは、国と地方の役割分担を巡る議論では州政府に移行するなら、あらゆる仕事に国が口ばしを挟む、補助金によってコントロールしようとする体制は採用しないことが大前提だろう。更に、道州制度の柔軟性や移行方式をどうするかの問題もあろう。国による一斉移行や条件の整った区域から順次同州に移行すべきだと言った諸論が当然出るだろう。ここで我々は市町村の平成の大合併で学んだことを忘れてはならない。「自主合併」を原則として進められたが「地域お任せ式」の傾向のために区域がまだら模様のような合併状況が現出した。道州移行に際しても漸進的な移行方式をとると、合併しない宣言•離脱宣言をする県が出る可能性も考えられる。だとすれば、道州移行に当たっては「新たな日本のかたち」の基本構想に関わるだけに、関係都道府県の意向を尊重しながらも最終的には道州設置法(仮称)といった一般法の制定で全国一斉に移行する方式に説得力がありそうである。
 次に道州政府と基礎的自治体との関係の設計も重要だ。即ち、都道府県から市町村への所掌事務の移譲を具体的にどう進めるか、20都市まで増えた政令市・さらに80近い新中核市・東京特別区など国民全体の50%をカバーするまでになった都市自治体の扱いをどうするか、小規模な自治体として残る町村と道州との関係はなど、様々なレベルの課題が想定される。例えば小規模町村は窓口業務などに限定する等身軽な自治体にするのか・道州が基礎的自治体の事務を垂直補完するのか・近隣の都市自治体が水平補完するのか、また離島や中山間地など地理上の理由等からどのような仕組みを取るのかといった問題である。
 こうなると第3の課題としてこれまでの道州制論議の中で大きく欠落しているのが、政策の主体となる道州政府の統治機構の設計論議である。大きくは立法権・行政権の大幅な権限移譲をどう設計するのか、司法権についても基礎自治体や道州レベルに限定される道州条例違反などの裁判を道州高等裁判所で処理するのか。道州の執行・統治機構について、議会制度・選挙制度をどうするか。議員数・小選挙区、比例区との組み合わせ、中選挙区など選挙制度のあり方など政治参加の仕組みの問題、執行機関である州知事の権限・特別職の範囲と数、道州公務員の制度設計として国家公務員と地方公務員の融合、議会の役割構成、道州知事の役割・権限、ブレーン組織をどうするのかも検討すべきであろう。
 さらに重要にして難題なのは新たなる税財政制度の構築と財政格差の調整だ。租税民主主義から言えば、受益と負担はどこに住んでいようと原則的に一致させなければならない。しかし日本ではこれまで「自治の原則」より 「均衡の原則」「財政の均てん化」を重視し、その結果、受益と負担は例えば東京都と鳥取・徳島県などとの税還元率は 10倍近くの開きがあり、都市住民には税に対する不公平感、還元率の高い地方には国に対する依存心が高まらざるを得ない。このギャップを州制度移行に伴う税制システムでどう対応できるのか。この点で江口克彦著「地域主権型道州制」は、連邦国家であるドイツと単一国家である日本の道州制とは異なるが、考え方としての参考事例としてドイツの連邦と市町村の税収構造を例に挙げて、それぞれの固有税(連邦税・州税・市町村税)が約 28%で、残る約 72%を共同税とし、協調的連邦主義との考えから生まれた共同税を連邦と州の共同事務(大学の新設・拡張、地域経済の構造改善、農業構造の改善等)や州の仕事でも生活関係の改善のため連邦の協力が必要な場合にこれを州と連邦の共同事務とし、市町村がかかわる場合もその費用を共同税から支出すると主張している。こうした自治体間の共有税による水平調整システムは参考にすべきだとする。

(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)