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中央テレビ編集 


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自治随想
人口減少、少子高齢化時代の地方創生
~その5、東京をどう考え、大阪をどう構想するのか~
 これまで考えてきたように地方創生は、新たな国づくりでなければならないし、その方向は分極・分権型国土の形成であろう。大都市集中の流れを変えるにも、日本の人口減少を食い止めるにも、国土の均衡ある発展を目指すにも、東京一極集中問題は何としても解決しなければならない。東京一極集中の是正と国土の均衡ある発展は、日本政治の基本的テーマとして全総計画によるインフラ整備など様々に対応し人の流れ、企業の分散を図ってきたが、その効果は限定的、ものによっては逆方向が指摘される。先の東京OP前後に大学進学で上京、花の東京ならぬスモックの東京を体感した世代として記憶が生々しい。江戸、浪速で栄えた東京、大阪を東西の華として蘇らせる二都構想を真剣に考える時であろう。一方において、「東京が老いる」という声を耳にする。戦後の急速な復興過程で整備され来た社会インフラが耐用年数を過ぎその更新と高齢化対策は膨大な経費を要し待ったなしに迫る。また、大都市圏の郊外自治体から空洞化が進み、かつてのニュータウンがオールドタウン・シルバータウン化しゴーストタウンの様相さえ心配される。「大都市は豊かである」とされた時代は急速に去ろうとしている。従来型の上から目線で地方を救う発想でなく、国家の想定外の危機管理上から地方創生を考える分極・分権型の国家形成をどうするか、具体的に支店経済と椰楡される政令指定都市を強くし、人口のダム機能を発揮できるよう名実共に都市を強くする分極型国土を目指すべきであろう。多極分散型国土形成の方向性は正しかったが、実際には二眼レフ(東の東京、西の大阪)の国土構造となり、経済規模(大阪は東京の 2分の 1)、抱える問題も東京は一極集中との戦い、大阪は衰退食い止めの戦いを強いられる状況だ。

◆難問中の難問、東京をどうするか
 東京問題を州構想の中でどう扱うか―、東京圏の人ロ・雇用・富・情報の規模が突出して巨大であり (1都6ないし7県関東圏の人口4000万超、日本総人口の3分の1)、他の道州との均衡を失することになりかねない。少し狭めて東京圏 (1都3県)の区画にすれば、人口3500万・総人口の4分の1)を占め、関東圏から東京圏を抜き出す場合には周辺各県をどう区割りするのか、大都市圏の外枠の空洞化を如何に防ぐかなど難題は多い(西尾勝「道州ビジョン―東京圏をどうする」)。東京圏の州知事も他の道州と同じく 2元代表制・直接公選にすれば、東京圏知事の政治的権威は国の内閣総理大臣のそれに並びかねない。だからといって州制度移行が東京問題ゆえにストップさせることにはならない。東京一極集中の解決と中央依存体制の解体は、新たな日本型州構想を進めるためのキーポイントなのである。私は中央大同窓の都副知事・都議・都職員・23特別区のうち5区長らから機会あるごとに教導に預かってきた。第1に、現行の都区関係の特殊性が話題となった。東京23区には通常の府県と市町村との関係と異なり、都区制度という東京都との特殊な関係があり、都区財政調整制度にその特徴が伺えた。本来であれば基礎自治体である23区の税源となる固定資産税・市町村民税法人税分・特別土地保有税を東京都が徴収し、その55%分を23区間の財政力格差の是正や財源保障に充て、残る45%を都の実施する消防・上下水・交通等の事業に投入するという理由で都の財源にしている。つまり、都は府県業務と基礎自治体の一部の業務を担う二重自治体であり、ある意味、東京とは東京府であり東京市である。だから特別区は法律上、特別地方公共団体と呼ばれ一般市町村と区別されて限定された目的を実現する自治団体とされる。特別区は、市町村並みの仕事をしているのにこうした扱いに大いなる不満を抱き、戦後一貫して自治権拡充運動を続けている。そこで道州制をにらんで東京区部をどうするかについて提言がなされる。現行23区体制を温存し強化する (2005特別区制度調査会)、23区部を特別市にまとめ「東京市」とする、都市特別州(都と呼称)として他の道州から独立させる提言などがなされる。そこで第2に、東京○○市構想(東京23区を個別の基礎自治体にする)が提案される。しかし現実には、23区の規模はバラバラで大きな格差もある、富裕区・貧乏区の財政力格差は大きく、行政格差の広がりが基礎自治体連合で上手く調整できるのか、垂直的財政調整から区相互での水平調整方式へ転換可能なのか、不安が残る。そこで第3に、東京市復活構想、東京 23区を基礎に東京市を復活させる案、都から独立した東京市をつくろうという考えだ。ただ、特別(自治)市とした場合に東京区部850万人を1人の市長のマネージメント・100名前後の市議会議員の意思決定という仕組みが基礎自治体として相応しいかどうかという指摘もある。第 4に、東京西多摩リゾート・観光リゾート構想もある。明治26年に神奈川県から東京府に編入された三多摩地域には、1300万都民の3分の1 (450万人)が住む。東京都の都市構造は、都心部(千代田・中央・港・ 新宿・渋谷の5区)と、そこから放射線状に連担する地域(周辺区・市町村)からなる。都心から約1時間という通勤通学圏内にあり、平日は都心へ、土日・休日は西多摩地区へ人の流れは逆流、私の母校中央大も多摩キャンバスに一部移転している。現在の地域財産を有効に利活用して、元気で活き活きとしたふるさとづくりが可能であり、圏民が健康で安心して生活できるゾーンが実現でき、それこそ地方創生の東京版といえるのでないかとする。第5に、東京特別州構想、即ち東京○○市・東京市復活でもない第3の選択肢である。佐々木信夫中央大教授によると、1 都3県を一つの東京州(首都圏州)とし、そのコア部分を同格の特別州とする。それは内部に中核市並みの基礎自治体を有するもので、23 区に武蔵野・三鷹両市を加えた25 区を40~50万規模に再編し、基礎行政、基礎自治を担う形をつくり、広域的な政策は東京圏州とのすみわけの中で特別州が限定的に担う。そしてこの考え方を広げて大阪区域に適用し、東京特別州は首都、大阪特別州は副首都とし特別州を東西に設置し、2都構想を軸に分極型国士の形成を目指すとする。構想の狙いは、国と地方双方の行政を効率化し、世界的な都市間競争にも伍して日本の成長に貢献できるになるとする。特別区の自治権は現行より強めの中核市並み(住民自治の強化)、それ以外の広域行政権限は都市州に包括する(団体自治の強化)、また、都市州が教育や警察、交通、河川管理等の権限を持てば、州知事(都知事)の判断で州民サービスの向上、行政コストの削減、都市外交、防災対策等が迅速に行える。更に、大都市特有の政策を進めるため特別区税と道州税を一元化した 都市州税を協同税として新設も可能となろうとする。

◆大阪都構想の行方に注目
 大阪都構想は、大阪の地盤沈下を食い止め競争力の強い大都市をつくるため、現在の大阪府と大阪市を一旦廃止し、新たに「都」制へ移行することで、大都市経営の合理化を図ろうという改革だ。大阪府と大阪市の機能を一本化した広域自治体としての「大阪都」をつくり、 その下に基礎自治体として公選制の区長を置く特別区を5つ設けるという構想だ。大阪市の行政機能・財源のうち、身近な住民サービスに関わる部分を特別区に、広域行政に関わる部分を大阪都にそれぞれ統合、委譲する。その狙いは、①外向けには司令塔を一本化し強い大阪をつくる②内向けには政令市を分割して市民自治を強化する③大阪の中心部の税金を還元し、大阪全体のレベルアップ、経済成長を図るという三方両得の構想である。
 しかし現行の自治制度の枠の中での改革であることから見えてくる 1つの限界は、これに 伴う国からの権限・財源の移譲がなく、コップの中の仕事の入れ替えに止まりかねない。 地域の制度改革は、歴史的に見ても国の法改正を待ちそれに依存してきた歴史しかない。自力改革で進む大阪都構想で新たなページを刻むべく、270万市民、800万府民に期待したい。                   (

◆地方都市、市町村はどうするか
  地方創生の主体となる基礎自治体としての市町村の実態は、平成の大合併で市町村数が 半減しそれに追い打ちをかけるように人口減少が襲い、 2040年には人口が半減する市区町 村が半数になるとの予測もある。地方制度調査会調査資料によると、全市町村と東京 23特別区を加えた日本の基礎自治体を人口構成で見れば、人口 5万人以下の市町村数が 7割を 占め、日本の人口全体の2割に過ぎない人々が住む国士面積の割合は相当大きい。一方、人口構成で8割を占める5万人以上の都市部に3割の都市自治体がある。人口が少ないからといって、自治体としての自立性が弱いとはいえない。しかし人口予測では小規模町村の人口減が半減あるいは消滅するという厳しい見方もあって不安が募る。さらに地方中核都市(約100都市)に目を転じると、第30次地方制度調査会は今後の日本において地方中核都市に隣接の小規模な市町村も含め拠点都市としての役割に期待するとし、中心市と近接自治体との間で都市機能の集約とネットワーク化に期待し連携を求めている。この水平補完の考えは、最近、20万人以上の拠点都市と、周辺市町村が協力して地域活性化に取り組む圏域を連携中枢都市圏とし、これに政府は財政支援策を2015年度から行う。連携中枢都市圏は、拠点都市を中心に教育や就職、医療、福祉などを提供できる圏域をつくり東京・名古屋・大阪の三大都市圏への人口流出を防ぐ狙いだ。この「助成行政」方式が奏効するかどうか。次にコンパクトシティ(集約型都市)の考えは、中心市ないしそれに近い都市に諸機能を集め効率性や利便性を高め、隣接の条件が不利な地域でも生活が成り立つよう工夫する、即ち、都市内の中心市街地や交通結節点周辺に医療・介護•福祉施設を集め、学校等教育施設・文化施設など生活に必要な都市機能を集積し公共交通の利便性を高めることで公共サービスを提供し生活者の安心•安全を担保し、賑わいや交流機会を増やし生きがいも生み出そうとするもので、中央大同窓の森雅志前富山市長の取組が全国に範を示した。地方都市の都心をコンパクト化し、郊外に拡散した住宅・商業施設・公共施設を都心に集約し魅力ある住空間・商業空間・ビジネス空間へ転換しても、現実に人口減少の大勢は不安だ。だから周辺の農村を含む広域的な生活圏を形成していく必要も出て来て当然であろう。


◆日本の地方制度の枠組みとパラダイム転換
 明治以来大きく変わらない日本の地方制度は、県―市(政令市、中核市、特例市、一般市)―町村という固定的な枠組みに全ての地域をはめ込み、未だに国が一元管理する中央集権構造である。この枠組みの中で州制度に移行する際には可能な限り大都市を主体として位置づけ、それを補完し包括する形で各州が存在する形状が適切だとし、1956年(昭和 31) 政令指定都市制度がスタート、現在全国の20都市で適用されている。しかし、この制度は基本的に一般市町村と同一の制度で、自治制度上大都市の位置づけや役割が不明確であり、事務配分も特例的で一体性・総合性を欠き府県との役割分担が不明確なため二重行政、二重監督の弊害に繋がり、さらに府県業務は政令市に移してもその財源となる府県税はそのまま府県に残る等役割分担に応じた税財政制度になっていない構造的問題を抱えている。現在の20指定都市は、機能的に明確な大都市(名古屋・大阪・横浜等)と、広域中核都市(ブロック圏の中核)と、大都市圏ないし地方園の中心市というように地域で果たす機能が異なるのに関わらず、これらを一律に扱っている。ドイツのミュンヘンやケルンの都市州や特別市に近い制度や韓国の広域市などを参考にして、大都市の隣接市町村との広域連携が可能となる制度の構想も必要だろうし、小規模町村の水平補完機能を含めた大都市圏行政の制度による包括的な連携方式は、英国に先例があると佐々木中央大教授は指摘する。わが国の地方制度のパラダイム(枠組み)転換が求められている。

(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)