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中央テレビ編集 


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自治随想
中央・地方政府間関係論
~その9、市町村合併・分権から社会的共通資本・新しい公共へ~
 私の市長勇退は05年2月2日、4期16年間と平成年間の体験と文献・資料を参照しながら、04年の三位一体改革、国と地方の役割分担、財布の自由なき地方政府という3つの視点から、地方政府の最終目標「住民自治」の行方を探ってみたい。
  「平成の大合併」と称される市町村合併が全国で展開、全国約3100市町村のうち、約1100市町村が減りそうな勢いを呈した。主導的に国も都道府県も力を入れ、主役であるはずの市町村は大いに戸惑った感もある。「待てよ、合併は合併する市町村単位に築かれていた地域自治が薄れることを意味する、諸手を挙げてついていけない心配がある」「自主財源の確保がハッキリしなければ何もできない」「もっと厳しく国・都道府県のいいなりになってしまうのでないか」「現実は厳しい、国・都道府県に見放されるわけにはいかない」など議論百出。当面のまとめとして自立への模索と、04年5月に成立した新合併促進3法に政府の地方制度調査会(諸井虔会長)の最終答申に沿って盛り込まれた新設の地域自治組織を生かして地域自治を守っていく必要がある。

1961市町村が法定合併協議会参加
 東京都を除く46道府県の1961市町村が参加した579法定合併協議会が設置される (04年6月25日総務省調べ)。傾向として西高東低(西日本が多く東日本が少ない)、すべてが合併にこぎつければ1400市町村が減る計算になるが、法定協が解散する例も出ており最終的には2000市町村を切るかどうか(総務省の見方)の話が関係者間に溢れ返えったものだ。振り返れば 1889年(明治22) 市町村制を初めて導入、江戸時代以来の約7万の自然村を5分の1にした「明治の大合併」、それは「教育立国」を掲げた明治政府が小学校区を基準とし、戦後の新憲法下で地方自治の保障や首長公選となり、新制中学校設置・自治体警察など自治体の業務が急増、概ね8000人以上の住民を有する所を標準に町村合併促進法が1953年(昭和28)に施行され、市町村数は約3分の1(3000台)となる。この「昭和の大合併」により全国の公立小、中学校が市町村立となる。1997年に政府の地方分権推進委員会が自主合併の推進を求める第2次勧告を受けて、政府が市町村を1000に減らすことを目標にした行政改革大綱を決定、現在の「平成の大合併」が始まった。合併を強制する法律を作らず、市町村が自らの意思で選ぶ自主合併を掲げながら、アメとムチで強力な合併誘導策が展開されていく。政府は地方分権の受け皿づくり・少子高齢化への対応•財政難の三つを市町村合併推進の理由とする。即ち、人口1万人未満の市(北海道歌志内市のみ)町村が全国市町村の半数近く1527に上り、これでは事務処理能力に不安があり権限移譲ができない、また、2030年には総人口が今より1千万人減り、合併がなければ5千人未満の町村は今の712から1150と大幅に増え、これらの町村の高齢化率は41.1%に達する、更に、国の借金が04年3月末703兆円・地方の借金199兆円その他と差し引きして約870兆円、つまり赤ちゃんまで含めて国民一人当たり約686万円、子や孫たちが税金で返済しなければならない。 財務省の「平成16年度予算の後年度歳出・歳入への影響資産」(04年1月)によれば、04年度の歳出82.1兆円に対し、税収・その他収入は45.5兆円しかなく、残り36.6兆円は国債(借金)に頼り国債依存度は44.6%。この数字は太平洋戦争中1944年度(昭和19)の一般会計・特別会計・臨時軍事費特別会計を合わせた国債依存度(36.5%)に比べて、戦時中の国債依存度より悪い異常な財政状態という異常な財政状態なのだ。

政府の本当の狙いは地方交付税減らしか
 この状態を地方から見れば、合併推進は財政難が最大の理由と映る。国債費は国債の元利償還費のため減らせない、社会保障関係費は少子・高齢化でむしろ今後増えると考えていくと、削れそうなのは地方交付税と公共事業関係費、教育や防衛などに絞られてくる。公共事業はすでに年3%削減されており、ターゲットは地方交付税だ。総務省の試算では、全国市町村合併の効果を4~5兆円の歳出削減につながるとしている。政府がアメとムチで合併誘導に走る筈だ。主なアメは、市町村合併特例法の05年3月末までの期限内に合併すると、効率化で減る普通交付税を10年間は合併しなかったものと仮定して算定する特例措置を取り、その後5年かけて新自治体の算定にする、つまり合併すると交付税を15年間優遇する。また合併の準備費用やコンピューター対応などに特別交付金を出す。合併補助金は合併協議会に1市町村当たり500万円、合併後の市町村建設計画事業に1市町村当たり6000万円から3億円、各都道府県も補助金を出す。更に市町村建設計画に盛られたハコ物建設を中心にした事業に合併特例債の発行を認め、その元利償還金の7割を後年度に交付税対応する。ムチはどうかというと、公共事業の削減で今後も毎年3%カットされ、小規模町村に手厚かった交付税の段階的補正も削減する。交付金は人口10万人の市を標準に算定されており、それ以下の市町村は行政効率が悪いことから割り増しされる、それを02年度から3年間で約2000億円削減され人口4000人規模の町村で年に1800万円カットになり、一般財源だけに小規模町村を合併に追い込む兵糧攻めのムチといえる。加えて、地方制度調査会は現行合併特例法の期限が切れる05年4月以降も合併特例債なしの新合併促進法制定を03年11月の最終答申で打ち出し、都道府県も合併構想を策定して知事が斡旋に入るなどして合併を推進するというのだ。こうした一定期間後にも合併しないで残る概ね1万人未満の市町村には、都道府県が半ば強要することや広域連合型市町村、窓口業務だけの市町村にする道を開く。これらを受けて政府は、市町村合併特例法案・市町村合併特例法改正案・地方自治法改正案の合併促進3法案を国会に提出、04年5月成立させた。新しい市町村合併特例法は総務相が合併推進の基本指針を策定、それに基づき都道府県が市町村合併推進審議会を新設し、その意見を聞いて合併推進構想を作る。その構想に沿って知事は合併協議会設置の勧告を行うことができ、勧告を受けた市町村長は合併協設置を議会に諮る。議会が否決した場合には住民投票にかけられる。また、知事は合併協に協議を進めるように勧告し、協議が進まない時には合併協委員の過半数の同意により市町村合併調整委員を任命し、斡旋・調停できるとした。「合併ありき」が先行、「地方分権は何処?」の感を覚えた時期であった。

合併旋風下で自治を守ろうとする動き
 福島県矢祭町(人口約7000人)は、01年秋、町議会全会一致で「合併しない宣言」を全国に先駆けてする。根本良一町長は「合併しても行革は必要、だから行革をすれば合併しなくて済む」と強調して、職員条例定数は109人だが現員は86人にし、更に職員自らが係長制を廃止する機構改革を提案、10年後には50人台にする、議会も定数を18人から10人に減らすなど国のムチに耐えられるようにスリム化を進めている。長野県の小規模町村への自立支援策、鳥取県との県境の島根県東出雲市等住民投票による合併しない選択も増える。
 そうした動きの一方で、新しい地域自治組織で新しい公共空間を作ろうとする試み、即ち、地方制度調査会答申による新合併促進3法で新設された地域自治組織 (都市部で薄れているコミュニティの再興と合併で周辺部となる町村が抱く衰退の不安を防ぐための組織)を「新しい公共空間」として活用し、地域のセーフティーネット化しようとする試みもある。 都市内分権化によって到来する少子・高齢化社会に、行政と住民・NPOなどが協働して安全で住みやすい地域の新しい公共空間を作ろうという動きや、合併による広域行政化によって起こる自治の縮小に対し、狭域化の主張が常に起こる。昭和の大合併後においても自治省は、モデル・コミュニティ地区指定などで全国各地に新しい公共空間づくりを始めている。合併するにしても、合併しないにしても、行政改革、行政経営に努めるとともに、薄れがち な地域自治を守り、育てる新たな手立てを講じなければならないことは言うまでもない。
  更に大きな視点からの宇沢弘文東京大学名誉教授の社会的共通資本の考え方に共鳴する。「社会的共通資本」即ち、自然環境(大気・土地・水・森林・河川・湖沼・海洋・沿岸湿地帯・土壌など)と、社会資本(道路・交通機関・上下水道・電力・ガスなど)および、制度資本(教育・医療・金融・司法・行政など広い意味での資本)を、豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持することを可能にする社会装置としての社会的共通資本の役割を見直しつつ、如何に管理・維持して持続的な経済発展を可能にするかという考え方である。近年特に心配される地球環境問題、ウイズ新型コロナ社会などを加えて例え幼稚であっても率直に考え、堅実に行動していかなければならない。

(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)