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中央テレビ編集 


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自治随想
中央・地方政府間関係論
~その8.財政分権こそ三位一体改革のキーワード、地方分権の肝~
 家庭・地域社会、地方政府、中央政府を念頭に改めて日本という国家を考えると、基盤である家庭・家族でも主夫や主婦が財布を自由にできないと、家庭内の物事の決定権を持てない。比べるのは滑稽かも知れないが、これと同じように、日本の地方政府は自前の収入は少なく、財源を国に頼り、いわば財布の自由がないに等しい。公共政策を自己決定できない、自己決定できないところに自己責任は生まれず、不要な公共施設が目立つ。それを改めるべく04年度から3年間の三位一体改革で改革を試みる(小泉内閣)。ところが改革初年度の姿は国の財政再建が優先され、地方には分権どころか「痛み」が先行した。我々地方政府は「三位一体改革は地方分権改革ではなく中央政府の財政再建計画だ、断じて賛同できない」と猛反発。全国知事会梶原拓 会長「闘う知事会」宣言、全国市長会山出 保会長、全国町村会会長(添田町長)はじめ関係者はいきり立った。全国市長会三位一体改革対策協議会役員の私も数人の同調者と共に、「市長職を賭けて」要請活動に徹した。

財政と個別法による中央統制
 中央政府が地方政府をコントロールする方法は三つ、機関委任事務・個別法・財政による統制だ。中央政府が地方政府を思う通りに動かせる機関委任事務は第1次分権改革で廃止され、中央政府と地方政府の関係を「上下・主従」から「対等・協力」に変えることを目指したが、個別法による中央政府の許認可や事前協議など関与を中心にした行政統制は法定化、ルール化されたとはいえ十分ではなく続いている。ところが、財政統制は地方分権推進委員会が自主財源を増やすように税源移譲などを求めたが、当時の大蔵省(現財務省)が強く反対し殆ど手をつけることができなかった。よく言われるように、国と地方の歳入は3対2の割合なのに、歳出は2対3に逆転。地方は歳入よりも歳出が多いわけだから常に歳入不足となる。具体的に02年度の決算を見ると、国民の租税は総額 79.2兆円、うち所得税や法人税・消費税などの国税は57.9%の45.8兆円、住民税や固定資産税・地方消費税などの地方税は42.1% 33.4兆円。それで、国税から地方交付税・補助金など国庫補助金が地方に出され、国債・地方債が加わって歳出総額は150.9兆円で、国が38.1%の57.5兆円、地方が 61.9%の93.4兆円をそれぞれ支出している。これを、04年度当初予算と地方財政計画の関連で見ると税収は国が多く、地方は国からの地方交付税と国庫補助負担金(国庫支出金)を受け、地方債発行で借金をして、歳出を賄っている。交付税の財源は法定5税即ち、所得税と酒税の32%、法人税の35.8%、消費税の29.5%、たばこ税の25%であり、自治体が自由に使えるので一般財源といわれるが、総務省が一定のルールに基づいて配分される。また、国庫補助負担金は各中央省庁が補助基準を決めて、それに合う事業に配分、地方債発行は05年度までは都道府県は総務相、市町村は知事の許可制、 06年度からは第一次分権改革で民間資金を借りる時は自由化されるが、政府資金を借りる時は総務省の同意が事前協議制に変わるだけとなる。加えて、地方税も地方税法で法人事業税・固定資産税などには自治体がよるべき税率として標準税率が決められており、法人事業税などには上限である制限税率があってこれを下回る課税をする自治体は財政的に余裕があるとみなされて地方債発行が制限される。つまり、交付税は標準税率で課税されたものとして税収が多く見積もられて交付税が減らされるという仕組みであり、こうした制裁措置のため自治体は税率決定の自由がないのも同然と言えそうだ。そんな中でも第1次分権改革では、課税自主権の拡大が図られ、自治体は法定外目的税を作れるようになり、また法定外普通税も新設条件が緩和され作りやすくなる。ただし、分権改革後に新設されたのは、三重県などの産業廃棄物処理税、神奈川県の臨時特例企業税、山梨県(河口湖町・勝山村・足和田村)の遊漁税などわずかに止まる。このように自治体は国庫補助負担金と租税、起債による財政統制で自己決定ができない状況にある。ズバリと言えば、自治体に権限と財源があれば創意工夫もするが、権限も財源も少なければ自治体は住民よりも中央省庁に顔を向け、結果的にコスト意識の低下・ムダ・無責任な事業が全国各地に展開される。自治体向けの国庫補助負担金は20兆4000億円(04年総務省当初予算)、補助金による全国一律基準によって、全国に同じような建物・風景が広がり地域個性が軽んじられる弊害や補助金手続きに相当な経費を要している。しかし、権限と財源が限られているから自治体 に自己決定権がない、だから自治体に自己責任は生じない、とは言えない。

地域総合整備債
 90年代バブル経済崩壊後の景気対策に自治省(現総務省)が、地方財政を組み入れる狙いで交付税をテコに地域総合整備債を導入する。この地方債は地方単独事業に発行を認め、その元利償還金の一定割合を交付税で後年度に手当てをする仕組みである。前述のように国庫補助事業には各省庁の補助事業による制約があるが、この地総債を使えばその制約はなくかなり自由に事業ができるメリットがあることから、各自治体は自治省の要請に沿って地方単独懸案重要事業化に走る。広大な旧国鉄跡地取得とまちづくり特別対策事業に私も活用した。私なりに言えば「交付税の補助金化」、国の財政難による国債発行制限を地方債が肩代わりした事業と言えなくもない。しかし、それでもバブル崩壊の傷は深く最気低迷は続き、地方財政にも借金がかさむ。バブル崩壊直後の91年には70兆円だったのが、03年には199兆円とわずか12年間で129兆円増えている(総務省 HP)。04年3月末の国の借金は初めて700兆円を突破(703兆円)、国と地方の借金は重複部分を除いて870兆円と、国も地方も借金まみれ、サラ金財政のような状況だ、地方財政難は政府による市町村合併につながり、国の財政難は三位一体改革につながっていく。

三位一体改革
 深刻な財政状況下の01年4月、「構造改革なくして、景気回復なし」とする小泉内閣誕生、国と地方の財政構造にメスを入れる「三位一体改革」をスタートさせた。国庫補助負担金削減には地方統制と天下り先の減少を恐れ、族議員をバックに抵抗する中央省庁、税源移譲に反発する財務省、地方交付税縮小に難色を示す総務省という「三すくみ状態」を打破するには、この国庫補助負担金削減と税源移譲、交付税縮小の3つを同時決着させるしかないという考え方から編み出された。この時期に全国市長会「三位一体改革対策委員会」役員の立場で片山虎之助総務相と頻繁に連絡を取り、「三位一体改革がなければ交付税が減らされるだけだとし、総務相が地方分権のために財政基盤確立が必要だ」と強調、国の財政再建のために交付税削減を狙う財務省に強く抵抗、小泉首相が三方一両損の形で調整する。03年6月「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(骨太の方針)を閣議決定する。「歳入・歳出両面での地方の自由度を高める」ことを目指して、04年度から3年間で約4兆円の国庫補助負担金を削減し、引き続き地方で実施する必要があるものについては義務的経費は全額、他は8割を基幹税で地方に税源移譲する。地方交付税は財政力調整機能と財政保障機能のうち財政保障機能を縮小していくと定める。小泉首相は削減目標の4兆円は「大ざっぱの、おおむねの数字」とするが、20兆円を超える地方向け補助金のうち4兆円を削減しても地方の財布の自由度が大幅に広がるとはいえない。そこで全国知事会、全国市長会、全国町村会は義務教育費国庫負担金など計9兆1200億円の国庫補助負担金の廃止案をまとめる。これまでは自治体から補助金返上というと、関係中央省庁は「それならこちらの補助金も要りませんね」などと嫌がらせや仕返しまがいのことを重ねタブーであった。そのタガ、重しがはずれた格好である。

小さな税源移譲、大きな痛み
 思い出すのも嫌だが04年度予算編成過程では、中央省庁と族議員、地方6団体が激しく対立した。首相が1兆円の補助負担金削減を打ち出したのを受けて、厚労省は80年代の補助率引き下げに逆戻りしたように生活保護費の国庫負担金を現行の4分の3から3分の2に引き下げて約1700億円を生み出そうとする。文科省は義務教育費国庫負担金のうち今後急増する退職手当の一般財源化を求め、財務省は税源移譲にた ばこ税を充てる(政府税制調査会答申)とした。これに対して全国知事会(梶原拓会長)が「闘う知事会」を掲げ猛反発、生活保護費の国庫負担率引き下げは押さえ込み、たばこ税は自民党税制調査会が呼応し、所得税から住民税への本格的な税源移譲に持ち込む。退職手当は一般財源化を呑んだが、税源移譲予定交付金として将来の増加への手を打つ。しかし、三位一体改革の初年度の姿は、国の財政再建が優先され、小さな税源移譲と引き換えに大きな痛みを地方にもたらした。各自治体は04年度予算編成に非常に苦しみ、財政調整基金の取り崩し、職員給与のカットなど行政改革でしのぐ。梶原会長日く「財務省は国の赤字を極力地方に付け回すのが狙い、地方側は分権のチャンスと受け止めた。コインの表裏、同床異夢。地方はよほど頑張らないと赤字のツケを一手に引き受けさせられかねない」と、悲痛なコメントを発した。

地方の3,2兆円補助金削減案
 地方側は自民党を突き上げ、04年7月参院選前に「おおむね3兆円の税源移譲を O5,06年度で行う。その前提として地方に国庫補助負担金の削減案を取りまとめるよう要請する」との削減案を自治体に委ねた「骨太の方針04」閣議決定する。応じた地方六団体は削減案づくりに取り掛かる。具体的に見ると、地方向け国庫補助負担金 20,4兆円のうち約6割(11,7兆円)を社会保障関係が占め、高齢化の進展から増えていき支出方法も決まっており仮に移譲されても工夫がしにくい。そうなれば、公共事業か、文教・科学振興の義務教育費国庫負担金かどちらかの選択となる。公共事業は補助金が付くから実施する傾向が強く移譲されれば自由度が増し望ましい。しかし以上には公共事業族や地方政界からの反発など政治的な難しさがつきまとう。義務教育費国庫負担金には「義務教育は国の責任、それを担保するのが国庫負担制度」との知事側の意見も多く難航する。全国知事会(於新潟04年8月18、19日)は深夜に及ぶ激論の末、義務教育費国庫負担金(中学校教職員分)や公共事業分を含めて3兆円分の税源移譲に見合う3,2兆円の国庫補助負担金の削減案(第1期分)を40対7の圧倒的多数の挙手採決で決め、これに全国市長会、全国町村会なども同意し地方六団体案とした。梶原会長らは小泉首相と会談、首相から「誠実に対応する」との回答、官房長官を中心に政府との協議機関の設置に応じたので削減案を政府と経済財政諮問会議に提出し協議に入る。削減対象となった8省庁の多くは反発、交渉は04年度末の05年度予算編成にもつれ込む。削減案は、06年度までの第1期に3,2兆円の国庫補助負担金を削り、3兆円を所得税から住民税への税源移譲を求める。09年度までの第2期に、3,6兆円の国庫補助負担金を廃止し、地方消費税の増額による税源移譲を求める。  
 議論白熱のなか特に厳しかったのは義務教育費国庫負担金を削減対象に入れるべきかどうかであった。挙手採決に当たって削減案に反対した群馬・山梨・長野・三重・広島・愛媛・大分7県の少数意見を付し、反対派急先鋒の石原都知事も「義務教育費国庫負担金の扱いは最終的には国の問題。全国知事会としては長時間にわたって真剣に議論し、少数意見も付記されるなどフェアだったので、これに反対することは民主主義に反する」と賛成に転じた。会議終了後、梶原会長は「明治維新が中央集権改革なら平成維新は地方分権改革。全国一律、縦割り、過剰干渉による無駄を省けば、高コスト・不満足社会を分権で低コスト・満足社会に変えられる」と記者会見で述べる。  
 思うに、「国主導の発展途上国型政治構造から先進国型の地方分権・地域自立システムへのパラダイム転換の道をわが国がどう切り開いていくのか、新しい中央政府・地方政府関係をどう樹立していくのか、当事者意識を持った英知と勇気が求められるこれからとなろう。

(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)