HOME > 連載コラム

中央テレビ編集 


<< 先月のコラムへ    トップへ    >> 次月のコラムへ

自治随想
中央・地方政府間関係論
~その7.自立への模索と新しい公共空間~~
 謹賀新年、各位様のご健勝・ご多幸を祈ります。  
 私の全国学生弁論大会の演題は、都内大学では「東京診断」、地方大学では「地方自治の確立を願って」であった。その後、時代の経過と共に地方分権のあるべき姿を求めて諸議論・取り組みが進行する。  地方政府の議会は、分権改革で機関委任事務か廃止され、地分政府のすべての事務をチェックできることになって権限が広がり、それに応じた議会活動の活性化が急務となる。一方の執行部側は財政難が厳しくなり、効率のいい行政が求められるとともに、公正の確保・透明性の向上も必要だ。そこで、官民の役割分担の見直し、非営利団体 (NPO) の活用、入札制度改革など行政改革が緊急課題となる。 今更言うまでもないがわが国は、中央政府は議院内閣制、地方政府は首長と議員を別々に住民が直接選挙で選ぶ二元代表制だ。国会は議会の多数党のトップが首相となり、閣僚を任命し、内閣を組織する。従って与党、野党が生まれ、地方政府では首長と議員はそれぞれ住民代表なので与野党関係ではなく、議会は住民を代表して首長をチェックする役割を担う。首長と議会がチェック&バランス機能を果たすことで、地域の民主主義を実らせようというのである。

第一次分権改革の制度改革
 明治以来続いていた議員定数の人口段階別の法定制を廃止し、自治体が自ら定数を条例で決めるようにし、定数の上限を人口段階別に法定(多くの地方政府が減数条例を制定して法定数より議員定数を削減)する。更に、中央政府の仕事であった機関委任事務は議会が条例を制定できず、百条調査権の対象にできない上に監査・検査の対象にも制約があったが、これら制約が取り払われすべての事務に議会権限が及ぶこととなる。分権改革により議会活動の活性化が強く求められることから、議案・修正案提出に必要な議員数を定数の8分の1から12分の1に引き下げ、最小の定数上限 12の町村議会では1人でも議案を提案できるようにする。また、議会の招集権は首長にあり、「議会は定数の4分の1以上が会議に付すべき事件を示して臨時会の招集をした時には首長は議会を招集しなければならない」(地方自治法 101条1項)の解釈に、臨時議会の招集要件の緩和を求めた地方分権推進委員会第2次勧告に沿って招集できるようにする。「議会を住民に開かれたものにする」ことも重要だ。本会議は原則公開、実質審議の委員会も公開が必要だ。IT利用も進み02年には 698市のうち9割近い599市が議会情報をホームページで提供、町村でも 03年に約半数の1240町村が開設している。夜間議会や休日議会の開催も試みられてきた。議会の権限拡大に伴い、議員を補佐する議会事務局の調査能カ・政策立案能力を向上させる(地方分権推進委勧告)必要がある。この頃の調査によると、都道府県では平均約44人の職員が約62人の議員を補佐し、市では職員平均9人で約28人の議員を補佐、町村では議会事務局の大半が選挙管理委員会や監査委員会の事務局を兼ねている。事務局職員の在任期間も、都道府県で約5年、市で約 4年、町村で約 3年、その身分についても自治体は執行部、議会などの区別なく一括採用で、採用後に議会事務局へ「出向」という形で異動する。従って職員の意識も当初採用された自治体執行部の職員という意識が強く、在任期間の短さと相侯って執行部を批判、監視する議会事務局職員としての意識が育ちにくいのが実情だ。これらを質した小松島市議会初当選直後の私の処女質問「議会事務局の在り方と付属図書室の充実について」を思い出す。議会論議の活発化のためには、議員構成の問題も大きい。日本社会は大半を勤労者、サラリーマン層が占める。これらの人々の意見を議会に反映させるには、勤労者が立候補しやすい環境を整える必要があるという地方分権委の勧告が現状はなかなか進まず、その一方女性の政治進出が徐々に増えてきている。しかし、欧州各国議会の女性議員の割合 (2002・2現在)は、スウェーデン 42.70% を筆頭に北欧が高く、オランダ・ドイツ・スペイン・オーストリアなどが 36~26%、ベルギー・ポルトガル・英国・ルクセンブルグなどが 23~16% フランス・イタリア・ギリシャが 10.9~8.7%、これに比べて日本は7.3%である。女性の議会進出を促進する手法として、候補者を選ぶ際に、女性に一定の比率を割り当てるクオータ制を法律で義務づける(ベルギー・アルゼンチン・フランス)や、フランスの02年総選挙から各政党に候補者の男女比を等しくするように求めた男女同数法(バリテ法)がある。日本では日本新党が議会などにクオータ制採用をうたったが実現していない。

定員、給与削減が進行
 地方政府の仕事が地方分権で増えても、安上がりで効率の良い行政が求められる。一方、財政難は続き、行政改革は緊急課題である。定員と給与を総務省統計 (2003・ 4・1当時)で見ると、地方公務員数311万7004人、95年から9年連続減少、この間16万5488人減。都道府県に52%の約163万人、市町村に約148万6000人いる。分野別には、教育、警察、消防の特別行政部門が一番多く51%の159万人、管理や福祉など一般行政部門が34.8%の108万6000人、病院、水道、交通などの公営企業部門が14.2% 44万1000人。一般行政部門では02年からの1年間に約1万4000人減ったが、公営企業減少や県出先機関の統廃合、ごみ処理・保育所・高齢者福祉施設などの民間委託などで一般管理、福祉分野共に約7000人減少。公営企業部門もバス事業の運行見直しや上下水道事業の統廃合などで4700人減少。特別行政部門も8136人減、これは警察が検挙率の低下やテロ対策などで4276人増、消防464人増えたものの、教育部門が少子化による児童・生徒数減教員が1万2800人減少したためだ。一方、給与は、地方公務員のラスパイレス指標(国家公務員の職員構成を基準として、職種ごとに学歴別、経験年数別に平均給与額を出し、国家公務員と地方公務員を比較し、国家公務員の給与を100とした場合の地方公務員の給与水準)は、1974年には全自治体平均で110.6と高かったが、自治省(現総務省)の抑制指導により03年には前年の100.6から100.1へと低下、都道府県 101.7、政令市102.2、市100.7特別区102.1町村95.7。公務員給与1964年、当時の池田首相と大田総評議長とのトップ会談で、民間準拠の原則で合意。これに沿って国家公務員の給与は人事院が全国約7000の企業の給与を毎年調査して、人事院が政府に給与水準の改定を勧告、それに基づいて政府が決定する。人事院勧告が公務員にはないスト権の代償機能を果たす。都道府県と政令市には給与勧告をする人事委員会が置かれ、特別区と15万人以上の市は人事委員会と公平委員会のどちらかを置ける。これら以外の市町村は公平委員会しか置けないので、給与が首長と職員組合の交渉で決まることも多く、第三者の目が届かないケースも少なくない。地方公務員の給与は、その地域の民間給与に準拠すべきだと考えられるが、各人権委員会は人事院勧告に準じた勧告をすることが多い。また地方公務員法が「給与は、生計費並びに国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定めなければならない」 (24条)と民間準拠だけを求めていないことから、ラスパイレス指標が示すように国家公務員より高く、地域の民間企業より2割程度高い例が少なくない。こうした実情と財政難から、総務省調べ (04年4月現在)で、長野県の10~5%、神戸市の8~4%を最高に、約4 割の1261自治体が給与カットを実施、わが小松島市も特別職から先ずカットを始めた。

行政改革一行政がどこまで費任を持つのか
 日本はこれまで福祉や公共施設の管理などほとんどを行政が担ってきた。しかし少子・高齢化や財政難、民間部門の成長などから「行政がすべてをカバーできない」、「民間ができることは民間に」との声が次第に高まる。また、行政直営論が例えばゴミ処理で「多少コストが高くても、ゴミ減量に有効だ」といった主張を顕著に裏付ける行動をとれなかったこともあり、ゴミ処理、福祉施設、学校給食などの分野で民間委託が進み出す。こうした流れと官・行政の守備範囲が問われる現実が、法改正に踏み込む行政改革の到来となる。例えば、福島県は1957年スタートの県住宅供給公社の廃止を考える。その理由は、分譲宅地の分譲申し込みの減少や県公社の売れ残り宅地が千件を超えてあること、宅地開発は民間業者と競合していることなどだ。しかし、地方住宅供給公社法では解散手統きは破産と国土交通相の認可取り消ししかなく、自主解散は認められないので法改正を国交省に求めた。一方、公共施設管理の委託先は公共的団体に限定されていたが、地方自治法改正で03年9月から自治体が条例で管理団体と指定すれば民間企業も委託を受けられるようになった (242条の2) 山梨県の県のゴルフ場・レジャー施設などの管理運営を民間レジャー会社委託(04 年4月)、群馬県太田市では市の総合案内や市政情報コーナー・記念館運営などを「おおたNPOセンター」に委託などと続く。公共事業の入札制度改革も工夫が見られる。親交のあった横須賀市沢田秀男市長の話では、98年 7月に指名入札制度の廃止を打ち出し、代わりに一定の条件を満たした全業者が入札参加できる方式を採用し、更に工事内容や設計価格をインターネットで事前に公表、入札、開札も電子方式を主にし郵送方式を併用する。指名入札をやめ、条件付き一般競争入札に変え、電子や郵送方式で入札することで「誰が入札に参加しているかが分かり難くすることで談合を防ぐ」というのである。結果、落札率の低下、予定価格と落札価格の差額合計 (98年度から3年間で90億円 )と節約となったそうである。

地域自治組織で新しい公共空間を模索
 合併による広域行政化によって起こる自治の縮小に対して、薄れていく地域コミュニティの再興や狭域化、行政と住民・NPOなどとの協慟による「地域自治組織・新しい公共空間」の模索が求められる。「合併しない宣言」で 脚光を帯びた福島県矢祭町(根本良一町長、人口約7000人)の「行革をすれば、合併しなくて済む」、各地の「モデル・コミュニティ地区」など知恵と工夫は無限にあろう。(田嶋義介「自治体が地方政府になる~分権論」参照)

                                                     (徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)