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中央テレビ編集 


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自治随想
地方の自律に向けた選挙制度
~94年選挙制度改正と平成の大合併による国政の関心の変化~
 人口が都市部に集中するにつれ、政治もその関心度を地方から都市へと移していく。今後も国政では都市部からの代表がさらに増えていくことが予想されることから、地方の自律が求められる時代に相応しい選挙制度が必要と思われる。そこで歴史を振り返りつつ今後の変化に考えを巡らせながら論を進めてみる。歴史上長く国政において冷遇されてきたのは、どちらかと言えば都市であった。高度経済成長期に入り、農村から都市への人口移動が急速に進む一方、昭和22年(1947)の総選挙における選挙区の区割りは、昭和39年(1964)まで変更されなかった。昭和36年進学のために上京し、国立競技場五輪会場のアルバイト、卒業後代議士秘書を務めていた私の東京時代がダブる時期だ。この頃は一つの選挙区から複数の議員を選ぶ中選挙区制で実施されていたため、都市部では増えた人口の割には議員が少なく、逆に農村部では人口当たりの議員数が過剰になる定数不均衡が起こる。これにより農村部に強い地盤を持つ自由民主党が多く議席を獲得していた。そこで昭和39年以降、国勢調査の結果に基づいて4回の定数是正が行われるが、所謂「一票の格差」の是正は極端なところを修正するだけの一定程度絵、不均衡を縮小するまでは至らなかった。

選挙制度改革・平成の大合併
 こうして農村部での強さが、自民党長期政権を維持する重要な要素となる。そこで、成長していく都市部から得られた果実を、地方議員を通じて公共事業などで農村部に分配する自民党政治システムが確立していく。派閥、族議員政治が中央・地方にまで根を張っていく。この頃市議・県議・市長であった私は、こうした政治システムの只中で、明けても暮れても要請・賃上活動に邁進したものである。このように地方へ傾斜した政治が変わる契機となったのが、平成6年(1994)の小選挙区選挙制度改悪と平成12年(2000)代の平成の大合併である。派閥・族議員など自民党政治の批判が高まったことから実現した選挙制度改革では、小選挙区制が導入されて大幅に区割りが見直される。農村部に偏重した傾向がみられる不均衡が改められ、都市部に多くの議席が配分されることとなったのである。  
 また00年代にピークとなる平成の大合併では、3300あった市町村が1800程度に再編されたことで農村地域の町村が激減する。それに伴って地方の利益を国に繋ぎ、選挙で活躍する地方議員が激減し農村部の政治的な存在感が大きく衰えてくる。その一方で、定数不均衡の是正は一票の格差改善というかたちで続いており、さらに都市部からの代表が増える傾向は強まり、国政における都市部の重要性は間違いなく高まってくる。そうなると都市住民が農村部への財政移転を認めなければ、個々の自治体で必要な支出を賄うことへの要請が強まってくることは明らかである。その中で、都市では高齢者人口と生産年齢人口のバランスの維持や、インフラの取捨選択・更新など、都市の持続可能性を高める政策が求められる。地方では、住民の本音は日常生活に支障がなければ転居したくないが、行政サービスの効率性からその地域の中心地に行政の機能や居住地を集約させる動きが生まれる可能性もある。そうなると、様々な住民が参加する政治的な決定(意思決定機関の地方議会)を通じて、行政サービスを効率化する手順となる。ところが今、地方議会の機能不全が心配されている。

地方議会の課題
 議員のなり手不足など心配される地方議会の機能不全の原因は、その選挙制度にあると言われる。現在、都道府県議会議員選挙や政令指定都市議会議員選挙は、その自治体を複数の選挙区に分け、複数の議員を選ぶ中選挙区制(1人の議員を選ぶ小選挙区制を含む)、その他の市町村議会議員選挙は一つの選挙区で行う大選挙区制である。  
 これらの選挙は、何れも1人の候補者に対して行われた投票がその候補者限りのものとなり、他の候補者の票としては移されない。そのため候補者が当選するために必要な得票は有権者数と比べて非常に低くなり、かつ票の移譲がないために似たような候補者が差異を強調して競争する。議員は多くの票を獲得するよりもまず当選しなければとの思いから、自らに投票してくれる特定の地域や組織の利害を重視しがちになる。定数が多い場合、選挙でマイノリティ(少数勢力)の声を拾い上げやすいというメリットがある一方で、マジョリティ(多数勢力)を作る議員たちも潜在的に激しい競争を行い個別の利益を重視しようとする。そのため、都市機能の集約化や持続可能性の追求など自治体レベルでの合意形成が必要な決定を行おうとするマジョリティは生まれにくくなるし、選挙の論点にもなり難くなる。こうした点を改めるには、参議院議員通常選挙でも用いられている候補者個人に投票可能な「非拘束名簿式」の比例代表制や、一人の有権者が複数の票を持つ連記制といった選挙制度の導入が検討されるべきであろう。当選のために自治体全域からの広い支持を必要とする制度に変えることで、特定の地域や団体の利害に偏りがちな地方議会と地方選挙の重点を、都市全体の利益に資する政策かどうかの選択に移していくことが必要となる。  
 もちろん現行の選挙制度でも、住民の参画を促して都市全体の利益に資する政策を実現することも可能であるし、そのための制度改善・啓発も考えられる。しかしこれまでの地方政治の経験や国政選挙への関与などから非常に難しい課題であることを痛感する。重要なことは選挙を通じて地域の将来に永続的に責任を持つ主体(首長並びに地方議会)を、地域の中で創り出すことであろう。時代は流れて様々な変化が起こり政治を巡る情勢も大きく変わってきている。私の体験からも、個々の地方議員や首長が国会議員との信頼関係を築き、国の施策や補助等で地域へ有利な還元を目指す時代は確かに少なくなりつつあるようだ。「地方分権」「地方創生」等が掛け声に終わらず「地方の自律」が求められる時代に相応しい選挙制度がどうあるべきか。地域の中での決定の責任を明確にしながら都市政策を実現するためには、それを促す選挙制度を考え、絶えず検証しつつ改善し続けなければならない。

官民連携新時代
 こうした一方で、公共施設の老巧化・中心市街地の衰退・8050問題・児童虐待など建前と異なる多くの社会課題への対応が地方公共団体に求められている。加えて2020年に起きた新型コロナウイルス感染拡大への対応は、国や地方自治体に想定外かつ大規模な財政支出を求めている。ただでさえ扶助費をはじめとする義務的経費の割合が高まっており、こうした予定外の支出は将来に向けた投資的経費の支出を確実に厳しくする。こうした中で、何としても課題に立ち向かい、地域に新たな価値を生み出す方法として進化が期待されるのが、行政と企業、NPO、住民などの民間団体との連携である。私の市長最後の平成16年にPFI法、指定管理法など多くの対応事例が実施され、事業の実施主体を民間に移し建設単価や人件費を減らし歳出削減の効果を挙げ、さらに近年ではこうした経費削減に止まらず、官民が共に取り組みこれまでできなかった課題への対応、新たな地域経済を生み出す糸口を見出す付加価値の創出効果を期待する事例が注目される。こうした新たな官民連携が行政の役割や公務員・人材像に変化をもたらし、また「サウンディング」や「民間提案」といった計画行政のいわば外側からの提案に期待する提案に期待する動きもあり、政策面において地方議会での議論・選挙における政策論議で住民にも関心がもたれる効果も見受けられる。

                                                     (徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)