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中央テレビ編集 


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自治随想
分権のための三位一体改革と関西広域連合10周年の実績と課題
~その実績(医療・防災で連携)と未だ十分でない分権課題~

第1回市長フォーラム(2004.11.10)
 掲載写真のテーマ、コーディネーターパネリストで開催され、私も秋田・静岡市長と共にパネラーとして「住民自治による簡素で効率的な都市経営の実現」について、「志を高くし地方の自立、住民本位の地方行政の実現という地方分権に相応しい改革をする」という旨(山出 保全国市長会長)の緊急アピールを行い、以後の活動指針とした。地方六団体との協議を重ね、総理、官房長官、各省大臣はじめ各関係先、各政党本部に要請活動を続け、「国と地方の協議の場」で綿密に協議、意見調整をする。建前と本音が交錯するなかで国と地方の意見がまとまらず、ついに関西地域の志ある地方自治体が関西広域連合という一石を投じたのである。





関西広域連合10周年の実績
 地方自治法に基づく特別地方公共団体「関西広域連合」が、2010年12月に大阪、兵庫、京都、滋賀、和歌山、奈良、徳島、鳥取の2府6県と4政令市の12自治体で設立され、「分権型社会の実現」「関西全体の広域行政を担う責任主体づくり」「国の事務・権限の受け皿づくり」を掲げ、事務連携にスタートしてから10周年、その実績と将来展望が問われている。05年市長勇退後早稲田大学マニフェスト研究所客員研究員、放送大学大学院、徳島文理大学総合政策研究科等で地方自治・地方分権・政府間関係論・政策実現プロセス論・選挙制度の講義・世界一周クルージングなど国内外にアクティブに現地に立ち、研鑽してきた。私なりに振り返り、さらに関心を広げたいと思う。

広域連合への注目度
 (1)広域連合設立の確か3か月前に発生した東日本大震災が一気に注目度を高めたと言える。私は3・11震災の3月下旬に、福島・宮城・岩手各県及び市町村の首長・議員・大学同窓・友人・知人の地元へ見舞いと激励に馳せ参じ被災地現場にも訪れ、精一杯のことに務めた。また、現地で強烈に感じたのは、広域連合が参加府県ごとに担当被災県を決める「カウンターパート方式」での支援取組みの具体事例を、生で、実際に見せつけられたことである。すごいインパクトに身震いを覚えたものだ。思えば、国の対応が遅れ、十分でない中で被災地のニーズに見合う活動を咄嗟に展開し歓迎されていた。石巻氏には徳島日赤病院から医師・看護師らが派遣され、女川町、東松島市(中央大同窓が市長)に徳島県参与や県職員ら消防・警察関係者が素早く派遣されたいた。こうしたことはその後の各種災害時における欠かせない手法として活かされてきている。  
 徳島県が医療分野で事務局を担う広域連合の看板事業である「ドクターヘリの共同運行」は、圏域に7機のヘリを配備し、30分以内に現場到着できる体制をとる。運行実績は19年に4470件(うち徳島県466件)、3機体制であった11年の2.5倍となる。  
 防災分野でも高く評価されるのが前述のカウンターパート方式で、前もって被災地に駆けつける府県を指定して支援する仕組みである。これを先取りし懸念される南海トラフ巨大地震を想定して、兵庫県が中心となり災害時の広域的な対応をまとめた「関西防災・減災プラン」や「関西広域・愛媛実施要項」など作成している。
 (2)重要だが見えにくい分野として、大阪府担当の産業振興がある。大阪での見本市出展やフォーラム開催中心の事業だ。滋賀県が地球温暖化防止などの啓発を統一して行っている環境保全事業分野もそうだ。京都府が担当する観光分野は、訪日外国人客(インバウンド)の人気が高い京都大阪に比べ観光庁の19年調査では徳島観光に訪れたインバウンドは約7万人と構成府県中最下位(全体の0.3%)しかないのが気になった。
 (3)財政の硬直化も課題であろう。広域連合の財源の5割以上が広域事務に対する分担金であり、自主財源に乏しい。本部事務局職員も徳島県出向の4人を含めて約30人程度、新しいニーズや独自事務に手掛けることもままならない。今後地方分権の最先端として事務の拡充、新しいシステム作りが待たれるところである。広域連合のメリットと言えるものーそれは七つの広域事務、即ち、防災・観光・環境保全など個々の自治体では解決しにくい特定事務分野の調整役を担うことである。徳島県は医療分野の事務局を担当し、例えばドクターヘリの共同運航は広域連合の看板事業として評価も高い。圏域に7機のヘリを配備、30分以内で現場到着体制を整えている。それぞれ県境をまたいだ運行範囲を定めているため、柔軟な対応が可能となり、徳島県のヘリは県内と淡路島全域、和歌山、高知など広域連合に加盟していない近隣県とも相互応援協定を結んでいる。このように広域連合の今後については「今後どのように事務を拡充し、地方分権の波を盛り上げていくのか、新しい仕組みづくりが必要だ」と言える。
 (4)そもそも関西後期連合は道州制を推す関西経済連合会の後ろ押しを受け、より現実的な分権の枠組みとして設立され、徳島県もまた関西空港開港や明石海峡大橋開通に合わせて近畿ブロック知事会に加入するなど関西との結びつき、スケールアップを狙ってきた。ところが民主党政権下(2012年)国の出先機関を広域連合に移管する法案が閣議決定されるが、衆議院解散で自民党が復権すると分権に向けた機運が急速にしぼむ。2014年広域連合は、国が分権や規制緩和の具体案を募る「提案募集制度」を活用して政府機関の移転(京都の文化庁移転・徳島の消費者庁新未来創造本部・和歌山の総務省統計局統計データ利活用センター)など57項目127案を提出したがほとんど却下、京都の文化庁のみ実現、徳島・和歌山は一部のみに止まる。現状を把握し、知事・政令市長で議論し柔軟な対応が必要だろう。
 (5)目下の焦眉の急、、新型コロナウイルス対応、待ったなしの最大の課題である。周知のようにコロナ対策は特措法上、権限が都道府県知事にあり府県ごとの取り組みが優先される。都市圏で対応能力が限界に近づく恐れがある中、現場の事情を的確にとらえ府県民に信頼される存在感が問われている。  
 関西広域連合10周年に当たり未だ道半ば、真の地方分権実現のために、府県民総意で国を動かすことが期待される。

                                                     (徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)