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中央テレビ編集 


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自治随想
第一期地方創生から第二期地方創生へ
~止まらない東京一極集中から関係人口視点の地域活性化策~

はじめに
  「地方創生」が始まって5年、地方の自治体がそれぞれの個性を活かした総合戦略を立案し、働き場所があって暮らし続けられる地域社会をつくる必要があるとした。地方圏で創意工夫により地域産業が活性化され魅力ある仕事が創出されることで、出生率の低い東京圏から出生率の高い地方圏への人の流れが生まれ、その結果、地方の人口減少と日本全体の人口減少の両方が緩和されるという地方創生における国の基本的な狙いと合致する。その背景は、日本が少子化の進行により2008年の約1億3000万人をピークに人口減少社会に突入し、国立社会保障・人口問題研究所の予測では「60年には約9000万人にまで減少する」、そこで地方創生により今後出生率を上げて1000万人ほどの人口減少を緩和することで、60年に日本全体で1億人の人口確保を目指そうとする。14年9月「まち・ひと・しごと創生本部」、「地方創生担当大臣」を置き、14年12月に国の基本的な方向をまとめた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定、第一期地方創生(15年度~19年度)がスタートした。

止まらない東京一極集中、大阪・名古屋6年連続転出超過
  第一期地方創生(15年度~19年度)を振り返ってみると、4つの政策目標(①地方に仕事を作り安心して働けるようにする、②地方への新しい人の流れを作る、③若い世代の結婚出産子育ての希望を叶える、④時代にあった地域を作り暮らしを守るとともに地域と地域を連携する)が定められた。これらに対し、地方創生では成果を判断しやすいようにKPI(重要業績指標)が設定され、4つの政策目標を合わせて基本目標が15、その下の各施策に関する目標が116置かれた。国はKPIについて「目標達成に向けて進捗している」「現時点では目標達成に向けた政策効果が必ずしも十分に発現してない」「その他(現時点において統計上実績値の把握が不可能なもの等)」と区分して評価される。この基本目標KPIの進捗状況ではそれぞれ一定の成果が見られるが、4つの政策目標のうち特に未達成との批判が大きいのは②である。即ち、「東京圏への転入が6万人減」「東京圏からの転出が4万人増」「東京圏から地方園への転出入が均衡」の基本目標全てが、効果が出ていないと分類されている。東京圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)の転入超過数は90年代後半以降プラスで推移し、近年再び増勢が強まっている。一方、三大都市圏の名古屋圏(愛知県・岐阜県・三重県)と大阪圏(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県)の転出超過は6年連続で、地方創生の大号令に関わらず東京の独り勝ちが続き、第一期地方創生のKPI(東京圏の転入と転出を均衡させる)は未達成に終わったという分析になる。「止まらない東京一極集中」の現実なのである。  
 もうひとつ東京圏への転入超過で注目されることに「女性の転入超過」がある。戦後の東京圏への人口流入の波は、高度成長期、バブル期、90年代後半以降と三度あったが、三度目の特徴は女性の東京圏転入超過と言える。その背景には先ず、女性の高学歴化であろう。1975年徳島県議初当選の私は、母校中央大神田駿河台記念館での祝賀会で4年制大学進学率の男女格差が、男性41%、女性12.7%、格差28.3ポイントと聞いていたが、それがなんと2018年の男女格差は6.2ポイント(男性56.3%、女性50.1%)に縮まった。既に、4年制大学卒業生の就職数では男女がほぼ拮抗し、人手不足の続く中、4年制大学を卒業した女性が企業にとって戦力の根幹になっていると言えよう。そのとき、名古屋市職員の中大同窓に教わったことだが、名古屋圏の活況を呈する製造業に20代の男性が転入超過であるのに対し、女性は転出超過、どうも女性の多くはサービス業への就職を志向する傾向が強くサービス業の集中度の高い東京圏での就業を目指している傾向が強いというのであった。

新しい人口移動のトレンド
 地域別人口移動動向で最近注目されるのは東京圏一極集中に止まらず、非東京圏の郊外部→地域経済の中心都市→東京圏という人口の新しい流れである。国立社会保障・人口問題研究所の18年推計では、15年から45年に架けて日本全体に占める東京圏の人口は3.4%上昇するが、各都道府県に占める各県庁所在地の人口が東京圏と同じレベル(3.4%)以上で増加するところが24道府県に上るというのだ。例えば、15年から45年にかけて西日本の府県で最大の人口減少率となる高知県では、県内人口は32%減少する中、高知県に占める高知市の人口割合は15年の46%から45年の54%へと大幅増加し、高知市は高知県の半分以上の人口を抱えることになる。このように、県庁所在地などの地域経済の中心都市へ人口が集中する背景にも若い女性の地域経済の中心都市への移動がある。経済圏全体では転出超過となっている名古屋圏・大阪圏でも同様で、例えば名古屋圏では若い女性が超過であるが、その中心都市である名古屋市では若い女性は大幅な転出超過である。サービス経済化が進む中で地域経済においても郊外に住む若者がサービス業の発達した地域経済の中心都市で就業する動きが広がっている。こうして中心都市に集まった人口は、次に、東京圏へ転出していく。総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告(18年)によると、東京圏への転入者は東京圏以外からが28万人、そのうち名古屋圏と大阪圏から7万人、三大都市圏以外の道県庁所在地からが7万人を占めている。さらに加えて中心都市で目立っているのが、25歳代以上の年齢層の流出である。東京都区部の私立大学定員管理の厳格化により、10歳代後半の東京圏への移動は抑制されているものの、25~39歳以上では名古屋圏は転入超過から転出超過へ転換し、大阪圏は転出超過が拡大している。このように分析してくると、人を引き付けるその地域特有の新たな産業を興さない限り、非東京圏の郊外部→地域経済の中心都市→東京圏というトレンドは、今後も続くことになると見なければならない。

課題解決型の地域特有の新たな産業振興
 
こうした現実を踏まえ、これからの地方創生に取り組む多くの地域は、先ず、地方創生により人口がV字回復する夢物語を構想するのではなく、第一期の結果を反省し、通り一辺倒の地方創生を改め、中心都市を核にした持続可能な地域づくりに転換させる必要がある。その中核となるべき地域経済の中心都市が周辺地域から若者を集めながら東京圏へ流出させるという同じ轍を踏まない「再生」地方創生構想を掲げ、推進すべきである。地域経済の中心都市は医療や介護、交通など様々な分野において課題先進地域となり、その地域ごとの特性やニーズにあわせて、また、近隣で生産出荷される農林水産物や工業製品に何らかの付加価値を加えて新たな産業を振興させ、それぞれの地域ごとのニーズに応じることで東京圏とは違うオリジナリティあふれるサービス業を興し振興させ、観光や交流人口・関係人口・外国人などに広く発信するなど、各中心都市が人口の受け皿として機能し、東京圏への転出を抑える確かな動きを始め、継続させていく。こうしたことが可能になるように、行政は住民の声に敏感に、民業の需要に応じて規制緩和を行い、技術革新をいち早く活用できる環境を提供する。また、地域経済の中心都市がこれまで何度か経験してきたことであるが「ミニ東京化」の轍を踏まないように、地方創生の理念に沿った新たな試みに徹する必要がある。関係人口、観光など交流人口、国際交流の視点に立った多岐にわたる地域活性化策等、多様な課題解決型の新たな産業振興が期待される。  


                                                     (徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)