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中央テレビ編集 


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自治随想
地方自治の重要性と可能性を再確認
~新型コロナウイルス禍とSDGs対応からの新たな日常形成~

はじめに
 やっと、本当にやっと新型コロナウイルス感染拡大が収まってきて、緊急事態宣言が解除された。まだまだ油断禁物、自粛、自衛を続け2波、3波に対峙しなければならないが、このコロナ対策の経験から社会の新たな展開を期待させるものが見えてきた気がする。又、国連が2015年に採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」の推進、即ち、17分野にまたがる包括的な世界目標を示し「誰一人取り残さない」を合言葉に気候変動と格差拡大に向かってみんなが全力を挙げて取り組むことが重要になってくる。

(1)コロナ対策の経験から、社会の期待される新たな展開
 こうした世界的規模で、一人一人が日常生活を営む現場に先ず起こる非常事態・課題への対応として、社会の新たな展開が期待される。日々流れる報道に目に見えない不安は募り、少しでも希望の火を見付け、できることからみんなで力を合わせて即やる行動が大切だ。  
 例えば第1に、自宅などで仕事をする「テレワーク」が一気に広がる。企業が社員の命第一に、「3密(密集・密着・密接)」の象徴である通勤・通学満員電車を避け、在宅勤務を導入する新しい生活様式の働き方スタイルがインターネットを使って始められる環境を作る。わが文理大学をはじめ多くの大学では、対面授業から遠隔講義へ等あらゆる面で対応する。思うに、政府が掲げた「地方創生」「東京一極集中の是正」が十分できなかったのは、東京にある企業が地方移転しなかったからだという指摘、即ち優秀な人材を確保し、中央省庁や取引先と対面で仕事を進めるためには、東京に本社があるべきだとする企業論理が優先された。しかし、コロナ禍を受け次の流行を避けるためにテレワーク、在宅勤務導入などで働く人が東京に居なくていいのなら、企業の東京脱出・地方分散もできる筈だし、働きたい職場が地元に増えれば若者の流出も止まる筈だ。全国知事会会長飯泉嘉門(徳島県知事)の言う「新次元の分散型国士」を創出する千載一遇のチャンスとなる。  
 第2に、コロナ禍対応を通じて地方自治の重要性が再認識されたことである。例えば、営業自粛を求められた事業者と向き合う都道府県知事は、いち早く休業補償など支援に動く。こうした知事側の提案が国の支援策として採用され、政府対策をリードする面もあった。  
 市町村長も含めて首長は、住民にアピールする独自策にも熱心であった。中でも吉村洋文大阪府知事は、事業者への休業要請の解除基準を「大阪モデル」と名付け、通天閣などをライトアップして達成状況を周知する。小池百合子東京都知事は、休業要請を緩和する段取りを「ロードマップ」と称し、レインボーブリッジ・東京タワー・都庁舎・東京スカイツリーなどの色を変える「東京アラート」で感染警戒を訴えている。包括的対応の国に対する具体的対応に即応した地方自治の存在意義が再認識されたと言えそうだ。  
 歴史的に考察すれば、大きなシステムの変更はいつも戦争、感染症、大地震などで経済社会がゼロペース(白紙状態)に戻った時に起こっている。みんなが「元にはもう戻れない」とあきらめた時にスタートしている。「新型コロナウイルスと大不況で世界は一変する」と覚悟を決めて、異常・非日常事態から「新しい日常」を新たにつくる精進をしなければなるまい。その先に、「自由主義的秩序の回復と経済社会のリセット」を目指して…。

(2)「誰一人取り残さない」SDGs対応
 今回のコロナ非常事態に関連して、国際広報センター根本かおる所長の意見を以下記してみる。新しい世紀に入り「ミレニアム開発目標(MDGs)」が、主に開発途上国の社会開発課題についての8つの目標(貧困・乳幼児死亡率・妊産婦死亡率など)を掲げ、2015年を目標年度として国際社会が努力し一定の成果を上げてきたが、21世紀に入ると、気候変動・格差拡大から社会が不安定化し衝突・紛糾、7千万人以上の難民・避難民(第2次世界大戦以降最悪の数字)となり、加えて、気候変動で水などの資源を巡る争いが頻発、途上国と先進国の区別なく人道上危機を生じさせている。2015年に30年を目標年次とするSDGs(持続可能な開発目標)が採択され推進される。

先進国も、一人一人も当事者
 日本は豊かな国だが、統計上子どもの7人に1人が貧困ライン以下の生活にあり、一人親世帯、特に母子家庭では貧困ライン以下が5割を上回っているそうだ。食品ロスも日本一国だけで年間600万トン以上、世界で援助されている全食料300万トン強の2倍近く、世界全体で見ると食料の3分の1が廃棄されたり食べられなくなったりしているそうだ。一人一人が適切に管理し、必要な人の下に回すようにする必要があるということになる。

開発目標は相関連する
 
17開発目標分野のうち、飢餓を無くそう、あるいは持続可能な農業というゴール2から考えていくと、自ずとゴール15「陸の豊かさも守ろう」に、漁業はゴール14「海の豊かさを守ろう」に関わる。世界の小規模農家の多くは女性が多くの役割を果たしているから、ゴール5「ジェンダー平等実現」につながる。適正価格で売買されることによって生産者が貧困から抜け出すことはゴール1「貧困をなくそう」に、働くことに着目すればゴール8「働きがいも経済成長も」に関わる。農業にとって水は大切だから、ゴール6「安全な水とトイレを世界中に」へ、農業の生産性向上はゴール9「産業と技術革新の基盤を作ろう」に関連する。食品ロスをなくすことは、ゴール12「作る責任、使う責任」に繋がっていく。


目標年次まであと10年
  SDGs策定から4年、何ができて何ができていないか、かなり見えてきている。まだ点の闘いだから、これを面の闘いに広げていく。そのためには、「負のスパイラル」をいかに克服するかの問題と気候変動への対策が大きい。例えば、ゴール1「貧困をなくそう」は、今のままでは30年には世界人口の6%が貧困のまま残りそうだ。ゴール2「飢餓をゼロに」は、減少傾向にあった飢餓人口が2015年増加に転じ現在8億人超、その原因の一つが気候変動、水不足、紛争の増加と長期化が考えられ、気候変動が紛争を生みやすくしている。  気候変動について、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度未満に抑え込むことができるかどうかが大きな問題だ。30年までに温室効果ガスの排出を半分にする、50年には脱炭素を達成する、これらを何とか実現するためにグテーレス国連事務総長は大号令を発し、加盟国政府、民間セクター、グレタ・トゥーンベリさんなど若者、一般市民らがアクションを起こしている。

普段生活の中で3010運動、食品ロスゼロレシピ
 国連広報センターでは、温室効果ガスや環境へのダメージの削減につながる創作料理のレシピを「フードチャレンジ」キャンペーンとしてSNSで発信し、「あなたもやってみて」と提案しているそうだ。  
 地方自治体などでは「3010運動」で食べ残しをなくすよう呼びかけている。宴会などで、最初の30分間と最後の10分間は席を立たずに料理を食べようという運動だ。パーティーのビュッフェでは食品がたくさん廃棄されるようだ。見た目をよくすると食欲が増すので、大皿の料理を途中で綺麗に整え、小ぶりの小皿に移すひと工夫をするといいそうだ。農協の婦人部では、曲がったキュウリをスープにしたり、直営スーパーで様々な工夫をして地元農家が出品した野菜等を販売する。そういう活動を見ると、地球規模の課題を意識しながら日々の生活をすることで、自分のアクションが地球規模の課題にどうつながるかを意識することが極めて大切なことだと思えてくる。子ども大人もみんな消費者、モノやサービスを買う時に地球の持続可能性が少しでも高まるものを選ぶことができれば、つくる側と消費する側の好循環が形成され、大きくうねりとなって資源を循環させる仕組みとなっていく。


資源を循環させる仕組み
 あまりおしゃれ心のない私が衣類のことを述べるが、聞くところによると世界全体で15年前より6割も多い衣料品が買われ、しかも平均的な着用期間は半分に減っているとか。アパレル産業は世界の温室効果ガス排出量の約1割を占め、特に日本人一人当たりの衣服消費に伴うCO2排出量が高いそうだ。国連では持続可能なファッションチャレンジキャンペーンを展開、サイズが合わなくなった服を持ち寄って古着交換会をしているそうだ。日本には「もったいない」という考え方があり、服もお直しをして着る文化がある。  
 大量生産・大量消費・大量破棄でなく、資源を循環させる仕組みを社会全体で意識して作っていく大きな輪づくりが肝要だし、「やればできる」である。


徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)