HOME > 連載コラム

中央テレビ編集 


<< 先月のコラムへ    トップへ    >> 次月のコラムへ

自治随想
地方創生のこれまでの効果と今後の課題
~各地域の特徴を生かした自律的社会の創造戦略から   
まち・ひと・しごと創生総合戦略~

はじめに
 人口急減・超高齢化に直面するわが国において、各地域がそれぞれの特徴を生かした自律的で持続的な社会を創造することを目的に始まった第1期地方創生では、地方における雇用改善など一定の成果が見えるが、その一方で東京圏一極集中の是正などの課題も残る。そこで第1期を検証し、第2期のまち・ひと・しごと創生総合戦略が策定される。SDGsやSociety5.0などのキーワードの下で、多様な人材の活用による多文化共生や民間団体との共創を通じて将来にわたる活力ある日本社会を維持しようとするものである。

「いまいち感」の第1期地方創生
 地方創生戦略の狙いを集約すると、①人口減少の克服と、②地域経済の活性化にあると思われる。わが国の815市・区の都市自治体では、それぞれに創意工夫して第1期地方創生における一定成果を個別に上げている。日本全体の観点から地方創生を総括する上で、2点(人口減少の克服、地域経済の活性化)に絞って、2015年~2019年の指標を検証すると、



 上表のように人口減少の克服に関しては全体的に良い効果は見られず、子どもの数も減少し改善の兆候が見えない。地方創生のスタート時期が10年早ければ、団塊ジュニア世代が出産適齢期に当たり子どもの数が改善できたのにという指摘もあるくらいだ。また、東京への人口の集中も加速度的に進んで来ている。そこで国は「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」を制定し、東京への一極集中を是正するために10年間の時限措置として、東京23区にある大学に対して学部の定員増を認めず、地方圏の若者の東京への移動を防ごうとする。結果、東京にあこがれる若者は減ることはなく、東京23区・東京圏の大学は軒並み高倍率となり国の思うようにならない。  
 一方の地域経済の活性化は改善の傾向が見られる。完全失業率と完全失業者数は改善してきたが、その中身は不安定な非正規の職員・従業者数が過去最大(令和元年2165万人、正規職員・従業員数3494万人)と数字に表れる。また、東京圏からの転出企業の多くは関東圏、東京に近いところに止まっている現状であり、「いまいち感」を拭いきれない。地方創生の目標年次は2060年であるが、第2期地方創生ではこの第1期のいまいち感を脱するために長期スパンの展望をしっかり描きつつ、年次的・効果的具体策を展開すべきであろう。


都市自治体の取り組み成果
 改めて述べるまでもないが、地方創生とは「地方自治体が建前と違う初めてのことを実施していく。あるいは、他自治体と違うことに取り組んでいく」ことであろう。新しい発想の下、斬新な取り組みを進めていくことである。  
 この点、全国市長会の文献や市長の実践例を調査すると、愛媛県西条市は、リコージャパン(株)と組んで教育の現場にICT(情報通信技術)を取り入れ、独自の教育改革を平成25年度から推進し6年目の30年度には学力アップ全国平均から11ポイントUP、校務にかかる時間の短縮では教師一人当たり年間114.2時間短縮されたという。埼玉県の戸田市は、(株)読売広告社と連携して「シビックプライド(当事者意識に基づく市民意識)の醸成」に取り組む。単に地域に対する愛着に止まらず市民(シビック)の権利と義務を持って活動する主体としての市民性(プライド)を醸成する取り組みである。国の意図する「関係人口」の前に、地域に関わる一人一人の内面を変えて良い関係人口を増やす、その関係人口の延長線上に活動人口(地域に対する誇りや自負心を持ち、積極的に地域づくりに活動する者)の割合を増やすためのシビックプライドの取り組みなのである。東京都の東大和市は、東京大学未来ビジョン研究センターと協定を結び、その知見を活用しながら全国的に珍しい「健幸都市」の実現を目指している。  
 このように地方創生は、自治体が新しい革新的な取り組みを断続的に進めることにより、自治体にイノベーション(新機軸)を起こしていく能動的な活動と言える。ところが、往々にして多くのケースでは、地方踏襲・地方模倣を見かけるし、国の制度設計にも課題がありそうだ。画一的なものまねでは人口減少の克服も地域経済の活性化も上手くいかない。地方にはそれぞれ事情が違い、住む人々も個性が豊かなのである。改めて地方創生の意味を見つめ直す時期にあるように思われる。

次なる地方創生のキーワード
 令和元年12月20日第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が、いくつかの新しい概念を盛り込んでスタートする。取り組む現場では「今ある地方創生」に加えてSDGs、国土強靭化など国から降りてくる案件が多く、さらに新型コロナウイルス感染症の対応に戸惑っている感が強い。行き詰まり感に陥らず、いかに新機軸を創出して地方創生の展望を拓いていくのかが問われ、その意味で正念場と言えそうだ。先に西条市・戸田市・東大和市の実践事例を挙げたが、全国市長会刊「市政」は「地方創生、新たなステージへ」特集号に、北海道網走市の「人口減少社会への挑戦~強みを磨き、さらに強く~」、兵庫県豊岡市の「豊岡の挑戦ローカル&グローバルシティ(小さな世界都市)」、岡山県玉野市の「産学官で進める地方創生(住み続けたいまち)へ」等々各市町が寄稿している。それぞれに一次産業・観光業など地域資源・特性を活かし、東京農業大学生物産業学部北海道オホーツクキャンパスや日本体育大学とのスポーツ振興、関係機関・団体、市民と「地域課題戦略推進協議会」を構成し連携を図りながら、オール網走で新たな人の流れを創出する。また、小さな世界都市実現のための三つのエンジン①環境都市豊岡エコバレー(コウノトリの野生復帰、農薬に頼らない農法)②歴史を引き継ぐ(出石城下町・城崎温泉)③演劇のまちの創造(城崎国際アートセンター・劇団青年団・豊岡演劇祭開催)を推進力にしたいとする。岡山県の玉野市は第1期の実績土壌の上に、高校生の地元定着奨励金創設・結婚や出会いのきっかけづくり・安心して出産・子育てができる環境づくりなど、民間事業者・関係機関・市民との連携を取りながらしっかりと情報発信し事業推進に務めるとする。  
 こうした現場での地方創生活動を具体的に見てくると、そこには共通点として民間団体(企業だけではなく地元住民や大学など)との「協力」「連携」つまり「共創」が浮かぶ。即ち、地方創生の一つ一つのキーワードは「産学官金労言士」即ち「産業界・大学など学会・行政・金融界・労働界・言論界(マスコミ)・士業(弁護士・中小企業診断士等)」が一体となった地方創生の取り組み(共創)が求められるということになる。換言すれば、共創とは「自治体が地域住民や民間企業、NPO、大学などの自治体外の主体と『共』に活動して、イノベーションの『創』出につなげること」になる。際限なくこうした事業が増加する今日において、地方創生を成功させるには自治体は積極的に共創に取り組むほかない。もちろん、共創を成功させるためにはその前提として、自治体と各主体の「共感」が必要であり、共感なくして共創なし、さらに共感の前に自治体と各主体の「共有」が求められる。共有して共感し、その後、共創にたどり着くということであり、その過程での着実な取り組みが重要だ。


徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)