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中央テレビ編集 


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自治随想
情報通信技術(ICT)環境など地域資源・特性で未来に繋ぐ地方創生
-利用する「ひと」を中心としたプラットホーム形成-


◆はじめに
 先月の(一法)日本計画行政学会(東京大学会場)での日本列島最南端対馬市の地方創生実例に続いて、今回は北海道岩見沢市の取組を全国都市問題会議での松野哲市長及び学会での岩見沢市・K.K.アトリエアクを代表する所美恵子氏の研究事例発表のあらましを報告する。  
 岩見沢市は北海道の中央南西部、札幌市や新千歳空港から約40キロに位置し、道内を結ぶ主要国道・鉄道網を背景に、周辺産炭地で産出される石炭や農産物等に関する物流の結節点として発展してきた。また、行政面積(48,102ha)の約42%を占める農地は、広大で肥沃な土地、石狩川水系の豊富な水資源を活かし、道内最大の作付け面積を誇る水稲、小麦、大豆、玉葱等いわゆる土地利用型農業を中心とした有数の食糧供給基地である。ところが、エネルギー需要の転換、農業を取り巻く環境変化に伴い経済環境は停滞し、人口減少や少子高齢化が急速に進むなど、経済活動の活性化対策や人口減少対策が喫緊の課題となってきた。

◆地域資源・特性であるICT環境
 岩見沢市ではこうした社会課題への対応として、ITC活用による市民生活の質的向上と地域経済の活性化を掲げ、サスティナブルな地域社会づくりを進める。具体的には、地域ICT拠点施設である自治体ネットワークセンター(平成9年度~)開設、テレワークセンター(平成11年度~)、新産業支援センター(平成16年度~)などICTビジネス関連施設を開設。更に、市内学校施設や医療福祉施設、主要公共施設を結ぶ自営公ファイバ網(総延長196km)を基礎自治体として全国に先駆けて整備したのであった。  
 ICTの具体的利活用についても、衛星通信や地上ネットワーク網を用いた遠隔教育システム(平成9年度~)など学校教育分野における利活用を始め、遠隔画像診断システム(平成15年度~)など医療分野での利活用を具体化するなどまさに市民生活に直結する様々な利活用を推進している。特に、小学校全学年の希望者を対象にICタグ活用型児童見守りシステム(平成19年度~)は、対象児童の91.6%が利用し(平成29年4月現在)、利用する家庭の95%に「安心感が高まった」と好評である。このようにICTが地域に欠かせない状況となっている。


◆地方創生を目指す具体的戦略
 更に、岩見沢市の地域課題克服による地方創生を目指す「岩見沢市総合戦略」では、「将来に渡って岩見沢を活力と笑顔あふれる元気で健康なまち」とするため、①農と食を世界の消費者に届ける活力ある産業を育むまち②若者から高齢者まで誰もが住みやすいまち③女性と子育てに日本で一番快適なまち④市民ひとり一人が健康で生きがいを持って暮らせる健康経営を実践するまち、という4つの重点施策を岩見沢市の目指す未来として掲げ、地域資源・特性であるICT環境を基とする各種施策を展開しようというのである。
(1)農業分野における地域戦略  
 地域特性であるICT環境を用いた「スマート農業」を目指す基礎的な組織体制として「いわみざわ地域ICT農業利活用研究会」を、営農者・農業関連団体・行政が設立する(平成25年1月)。農業生産現場が抱える課題の具体的解決手法に「組織もひとも」有機的に連動する環境として、設立当初は市内営農者109名(現在は140名)が参加している。具体的に、同研究会では「投肥や投薬の適期を予測するためには精密な気象情報に基づく予測情報が必要」という営農者ニーズが挙げられ、先ず「農業気象サービス」(平成25年度)を市独自で構築する。すなわち、市内13カ所に設置した気象観測装置で収集する各種気象データ(ビッグデータ)を解析し、10種類以上の営農支援情報を50mメッシュ(50m×50m)単位で有償提供する。サービスを利用する営農者では生育予測情報を参照しながら、投薬希釈率の最適化により資材購入費が30%削減されたとか、水田への水入れや排水時期の決定に活用できるという評価を得る。また、営農者ニーズを基にトラクターなどの農作業機械に設置する別のICT環境の構築により、播種や防除、追肥等の作業効率化や正確性が確保され、活用する営農者の分析では最大で50%の時間短縮、コスト削減効果が見られたという。更に、北大大学院農学研究員や関連企業等との連携のもと、さらなる効率化に向けた様々な営農情報の収集など「知見の収集」による新規就農者の育成支援や作業の重複改善に努める。  
 また、スマート農業を進めることによって、①農業技術の伝承など後継者対策(若者や女性の就農促進)②生産コスト縮減など農業の付加価値額増に向けた環境形成③関連企業の進出、農産物を用いた新たな地域産業の進出などに資することとなり、地方創生の具現化に不可欠な取り組みと位置づけができる。例えば、①作業省力化に向け、自動操舵や可変施肥機などの自動化・ロボット技術②生産物の品質安定化に向け、ドローン等の活用による圃場等のデータに関する効率的収集やAI等を用いた作業意思決定支援に関する技術③農業生産物のブランド化に向け、高精度で安定した成分計測に関する技術などについて、関連する大学、研究機関、農業関連団体等と協調しながら取り組むとしている。  
 特別豪雪地帯である岩見沢市特有の課題克服にも取り組んでいる。具体的にはトラクターに設置するGPS(人工衛星の電波を計測し位置を決める)ガイダンス設備を除排雪車に移設し、除排雪時の走行ラインを表示することによって作業効率の向上を図るものであり、排除雪時における脱輪や工作物の破損防止が期待できるし、土地勘のないオペレーターへの作業支援等も期待できる。「夏は農業、冬は除雪」をキーワードに、地域特性であるICT環境を最大限に活用した課題解決への取組みとして、総務省より「ICT地域活性化大賞2016 奨励賞」を授与されている。
(2)市民生活における地域戦略  
 岩見沢市では、超高齢化社会に対応したコミュニティ形成に向けて、地域の産学官を構成する「ひと」が有機的に連携しながら健康で快適な市民生活実現を目指す「健康経営都市」プロジェクトを開始する。即ち、「岩見沢市総合戦略」において、市民を地域の大切な「人財」と位置づけ、健康管理の目的を従来の医療や介護などの予防(コスト)から健康で生きがいを持って生活を送る新たな地域環境の創出(戦略)へと変革させることによって、地域コミュニティ全体の活性化を目指そうというのである。この取り組みのペースとして参画する大学(北海道大学、筑波大学、北里大学)や企業(健康関連企業など40社ほど)等と課題や施策、成果等を共有しながら、地域社会の持続的発展に向けた環境形成を目的とする様々な取り組みを実施する。現在、市民を含め地域コミュニティを形成する産学官民が共感し合い、新たな地域サービスを創出するためのプラットホームとして地域資本・資産を循環させる仕組みであるLLC(有限責任会社)型地域事業体の組成を準備しているという。  
 これら先進的な活動の中で特に私の関心を引いたのは、在宅就業型テレワーク促進事業と前述の日本計画行政学会での所美恵子さんの「えみふる」の子育て支援とソーシャル・ワークシステム事業の発表であった。前者は、子育てや何らかの事由により通勤が困難な市民に対し、在宅での就業を可能とするテレワークの普及に向け、企業側が市民を個人事業主として契約する際に求めるスキルを身に付けるための研修プログラム(岩見沢市テレワークセンター)である。後者は、子育ての悩み・親の悩みと、その支援者(行政)の悩みとを「ヨコのつながりでヒトのつながり」へと結び、そこに専門職がうまく連携することによって、さらに効果を挙げている。「笑顔がいっぱい溢れるえみふる子育て」支援は実に微笑ましい。


 
   日本計画行政学会研修会(東大本郷キャンパス)
     岩見沢市「えみふる」子育て支援プレゼン 


◆身近な地域での地方創生事業実践例
 今日、全国的に見られる例のうち身近なものとして、徳島県神山町、美波町、三好市などの実践例や私の住む小松島市「サンパーク ルピアの地域連携・安全安心モール実現化事業」(平成29年度中小企業活路開拓調査・実現化事業)においても実施されている。特に後者の例は、私の市長就任早々の平成元年大型店舗地方出店が激しかったころに、県内大手量販店一社と純地元個店十数社が組合を作り「地元スーパー」「地元の顔が見える商店街」を完成させてからほぼ30年、時代の波に応じ新しい発想や工夫を加えてリニューアルする。私も「小松島ルピア活性化有識者会議議長」として計15人の委員とともに、不易流行の視点で「ルピアくらしの拠点づくり」を提言させてもらった。それらの中から子育て支援センター「スマイルピア」を取り上げる。  
 平成30年3月、小松島ショッピングプラザ・ルピアのリニューアルオープンに合わせ、ルピア2階に子育て支援センター「スマイルピア」を開設する。この施設の魅力は買い物や外出などのついでに利用したり、孫を連れた祖父母や母親が買い物をする間に父親と子供が立ち寄れるなどの利便性があり、また、日常生活の一部として気軽に利用でき、さらに、子育てに直接かかわりのない世代に対しても子育て支援センターの存在を知ってもらえるなど幅広い年齢層が利用する商業施設の特徴を生かした子育て支援センターの存在を知ってもらえるなど幅広い年齢層が利用する商業施設の特徴を生かした子育て支援が行われる点であろう。  
 スマイルピアのスタッフは主に保育士の資格を持った子育て中のママさんたち。だから母親と同じ目線で「こんなイベントがあったらいいな」「こんな工作があったらいいな」と意見を出し合って企画運営する。月曜から土曜日まで、季節の行事からお誕生日会、工作など多彩なイベントを開催する。その内容についてもスタッフや講師が工夫を凝らした内容で子育てをもっと楽しくする手伝いを行う。イベント内容はSNSを利用して積極的に情報発信し、参加者からは「ママ同士で子育ての話がしやすいし、楽しい」と評価は高く、平日は1日平均20組、土曜日は約40組と利用者は増え、笑顔と笑い声が絶えないその名の通り「スマイルピア」となっているようだ。これらの取組みとして行政ともしっかり連携しながら、地域のマンパワーを活用して子育てサークルの育成などにも広げてもらいたいし、ここで強調しておきたいのは、子育て会議や一般買い物客の生活の一部としての商業施設だからこそできる子育て支援が展開されていることである。「昔の商店街は賑やかさと同時にふれあいと温もり生活感があった」と私たちの古い世代には実感がある。商業施設側の一層の努力にも期待したい。  
 もうひとつ、小松島ショッピングプラザ・ルピアのリニューアルに当たって、同施設内1階空き店舗(約230m2)に企業の採用業務を代行する「コールセンター」が今年の10月に開設される。徳島新聞8月15日報道によると、東京秋葉原に本社を置き、北見市・日南市、西都市にコールセンターのある連結従業員616人の「エスプール」が、小松島市の熱心な誘致に応じて進出、開業時に正社員30人、来年3月末には50人程度に増やす予定だという。地元雇用の創出で人口減に歯止めをかけたい市にとっては有難い話であるが、ルピアリニューアルに当たって空き店舗、未利用施設を活用する提言をした立場からこの上ない喜びである。本稿作成の9月末にほぼ完成しつつある施設を頼もしく拝見した。



   小松島ショッピングプラザ、ルピア2階「子育て支援センター スマイルピア」
     平成30年8月26日 徳島新聞より



◆JAみはらしの丘 あいさい広場
 JA東とくしまが産直市場として平成18年3月にオープンした四国有数の産直市場が、平成30年4月リニューアルオープンした。来場者の増加や駐車場・売り場面積不足に対応し、売り場面積を約1.4倍、こだわり農産物や中山間地域でとれた新鮮な農産物販売強化を目指す。さらに、フードコートや地元農産物を使用した料理が食べられるレストラン、グルテンフリーの米粉を使用した「田んぼのパン 米っ娘」などを併設し、新たな客層獲得を目指し、小高い丘までの道路整備、バス停設置、観光バス乗り入れなど市外、県外からのアクセスに関する配慮をする。荒井組合長のスローガン「人を愛し、農業を愛し、地域を愛する」を店内に掲げ、連日大勢の買い物客で賑わっている。  
 また、6次産業化の取組みを進め「地域に根差した食・農交流観光施設」として、地域密着型の食品開発と合わせたプライベートブランド「CHOICE」を発足させ、ドレッシングやシロップ、ウナギの蒲焼実演直売等を実施。今後、旧あいさい広場は、6次産業化のための加工施設、料理教室等ができるキッチンに模様替えする予定だという。加工施設、設備体制を整え、新商品の開発等を通して更なる産直市場の活性化を視野に入れている。立派な「JA版地方創生」がわが故郷で展開されていることを誇りに思い、その成功を祈って止まない。



   JA東とくしま「みはらしの丘、あいさい広場」 

(西川政善、徳島文理大学総合政策学部(兼総合政策学研究科)教授)