先ずは年頭に当り、新年を寿ぎ、各位様のご健勝、ご多幸を祈念申し上げます。
◆善政競争
昨年11月初頭、第12回マニフェスト大賞プレゼン研修大会と授賞式に出席した。第1回大会の応募221件に比べ、今回は2,597件と過去最高の応募が全国の首長・議会・市民から集まり、その内容も幅広く質の高いものとなった。1日目の研修大会は日比谷図書文化館地下大ホールを会場に6時間余りの熱を帯びたものとなる。私も学生時代によく通った日比谷図書館での思い出を想い起しながら真剣に聴取し討議に加わる充実した時間となる。
国政では、突然の解散による総選挙(10月22日投開票)はマニフェストも不十分なまま劇場型の選挙に終始した感が強い。思うに、政党の命である政策を競い合って国民に信任を受けるという真摯な姿勢が政党になければ民主政治は機能しない。やがて政党不信につながり、延いては政治不信に発展してしまう。そうならないためにも、政策作成過程を国民に情報公開してマニフェスト(政策公約集)を作成するなど政党の進化・向上こそが政治への信頼を得る王道であることを銘記し実行すべきでありましょう。
成熟社会になって低成長、無成長になっても、あれもこれも約束するバラ色の選挙公約のもとバラマキ政治が横行し、国債は1,000兆円を越して子孫に負債を押し付ける結果を招こうとしている。あれもこれもの無責任な選挙公約でなく、あれかこれかの選択を迫るマニフェスト型選挙を通じて、未来に責任を持つ政治が期待されて久しい。
言うまでもなくマニフェストには、国政選挙のパーティー・マニフェストと地方選挙のローカル・マニフェストがある。ここのところ国政選挙のマニフェストは民主党政権時以降やや不調と言わざるを得ないが、ローカル・マニフェストは年々進化を続けており頼もしい限りである。私の現役時代から始まった中央依存に対する地域自立が叫ばれる地方分権・地方創生時代を迎え、この傾向はいよいよ活発となってきている。もちろん地域によってバラツキはあるものの地縁・血縁型の選挙から政策を競い合う選挙に変わってきており、さらに有権者と候補者を結びつけるインターネットの進化がそれを促進している。
また18歳選挙権が実現したことで、選挙の具体的で実質的な公教育が進んでいる。社会経験の少ない高校生の選択基準はマニフェストが中心となり、200万票以上ある18・19歳の投票行動を促すのはマニフェストが最適のツールと考えたい。ローカル選挙と18歳選挙権がマニフェスト選挙を促進する起爆剤となり、さらにこうした運動が次なる大きな潮流となることを確信したい。
こうしたマニフェスト大賞の10年間は、地方創生時代における政策のプラットフォームとなり、「そうか!あの地域がそうなら、私達の地域ではこのようにやってみよう」という善政競争を巻き起こし、次世代の新たな地域経営につながってきたと思うのである。
◆長野県飯綱町議会の議会改革実践
長野県北部、野尻湖近くにある飯綱町は私にとっても青春時代の想い出の地である。大学入学年次に全国各地から集まった新入生約30人が3日間野尻湖畔の山荘に集い自由奔放に語り合った。その道すがら飯綱町のたたずまいを見聞きし随所に記憶が残っているからである。
その飯綱町議会の10年間にわたる議会改革が第12回マニフェスト大賞に輝いた。8年間議長職にあった寺島渉前議長を中心に実践してきた「議会改革の進捗による新しい議会づくりへの議長のイニシアチブ発揮」が栄に浴した。
寺島前議長のプレゼンによると、第一に議長選挙からはじまる議会改革である。議会全員協議会において議長・副議長の候補者が所信表明をし質疑応答をする(12年前から実施)。議長の役割と責任、あり方について議員の共通認識をつくる場とする。申し合わせで2年交代であった4年前から
立候補者が「議長選挙マニフェスト」を発表し議論するようになる。議会改革の出発点は、「議会力を向上させ町長と切磋琢磨する議会へ」、「学ぶ議会」と「自由討議」を推進することをスローガンに掲げ、「飯綱町議会基本条例」に具体的課題を明記、成立させる。
2点目に、本会議における質疑回数制限を無くし、質疑回数自由として議員が納得いくまで議案の内容を掘り下げ、論点、争点を明らかにする。予算・決算審議は款別に質疑を行うなど工夫をこらす。
3点目には、追認機関からの脱出、町長と切磋琢磨し町行政の発展の一翼を担う議会と議員活動を求めて、執行機関を批判、監視する機能を強めるよう努力する。その結果、これまでに一般会計補正予算の否決2回、議員提案の修正案の可決1回、専決処分の不承認2回、町総合計画の修正可決1回などを実現した。また政策力のある議会・議員が求められている点を重視し、町民と協働で政策研究するために「政策サポート制度」を新設し、延べ43名の町民サポーターの参加を得て6テーマについて町長に政策提案をしている。町行政サイドの受け止めも良く、各分野で実行され文字通り町長と議会の善政競争の一環となっている。議員の旺盛な知的好奇心の下に議会全員協議会を必要に応じて開催し、現状把握と分析力、問題点の解明力・政策課題の整理力など研鑽に努めている。
4点目の試みは、信頼される議会になるために「開かれた議会・議会への住民参加」を広げていることである。議会の見える化を実行するために、休日議会、模擬議会、夜間議会、中学生議会を開催、また町民と議会との懇談会を地域別、課題別・町内団体別等多様な形態で開催、特に昨年10月から「議員報酬・定数・なり手不足問題」をテーマに7ヶ所、150名の参加者を得て開催、加えて「議会だよりモニター」を議員のいない集落、女性、若者を中心に延べ131名で組織し活躍してもらう。
第5に、積極的に議会改革を実施するには議会事務局職員(現在2名)の人材確保が肝心である。地方自治法第138条第5項(議長の任免権)を活用し事務局職員は議長の指名が定着しているが、仕事量にあわせて人材確保に努める。
◆議員なり手不足策に一石
前述したように飯綱町では、全国的に地方議会で深刻化している「なり手不足対策」に、政策サポーターや議会だよりモニターの経験者から現職・新人あわせて5人が出馬した。すでに議会のあり方について学び見識をもった町民の中から出馬したことから極めて有効性の高い実績だと思う。
本稿執筆中の11月22日、全国町村議長会全国大会では、議員のなり手不足が深刻化しているとして国に人材の確保策を求める重点要望を採択、「自治体と関係が深い企業、団体の責任者らとの兼業を禁じた規定の緩和や地方議員の厚生年金加入の実現、本業を持つ人が議会活動を取得しやすくしたり議員報酬を引き上げること」などを挙げている。最近全国的に展開されている地方議員選挙は人口減少や高齢化などで立候補者が減り、無投票が増加し、一部議会では定数割も発生、また高知県大川村では一時、議会に代わって住民が予算などを直接審議する「町村総会」の設置という究極の検討が話題となった。
全国町村議会々長の桜井正人宮城県利府町議会議長は、「なり手不足は議会制度の根底を揺るがしかねない問題だ。あらゆる側面から打開策を探りたい」としている。
まさに、今回大賞に輝いた飯綱町の議会改革、なり手不足対象は一石を投じるものだと思えるのである。
(西川政善、徳島文理大学総合政策学部(兼総合政策学研究科)教授)
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