医療には「プライマリ・ケア(Primary Care, PC)」という言葉がある。病気になったとき最初に相談する医療、あるいは健康を支える最も基本となる医療のこと。Primaryには、第1の、最も重要なという意味があり、同じ語源で、首相はPrime Minister、オペラで主役を歌う女性歌手は Prima Donnaと呼ばれる。
<素数とは prime number 魅了され>
しかし、数学の世界では少し違った形で表わされ「prime number(素数)」となる。素数とは、1と自分自身以外では割り切れない数のこと。2、3、5、7、11、と続く。一見すると単なる数字の集まりだが、数学者たちは2000年以上にわたり、不思議な性質を研究し続けてきた。なぜ「prime
number」と呼ばれるのか? 実は素数がすべての整数を組み立てる基本のファクターであるため。どんな整数も素数の積として表現できる。これは、化学で元素がすべての物質を作るように、 素数は整数の世界で「元素」ともいえる存在である。
<不可思議に 並ぶ素数は 螺旋状>
素数という日本語も秀逸だ。「素」は、飾らない、混じり気がない、もとのままという意味で、素顔、素材、素質、素朴と使われる。つまり素数とは、他の数に分解されない、純粋という意味。英語も日本語も異なる文化で育ちながら、基本、純粋という共通した概念を含む。
数学者ウラムが考案した「ウラムの螺旋(Ulam spiral)」がよく知られている。整数をらせん状に並べてみると、素数が斜めに配置され、美しい模様が現れる(図1,2)。無秩序に見える素数の中にも、存在する「美しさ」に気 づくだろう。このように数学には不思議なパワーがあるので、紹介しよう。数式「n² - n + 41(n は整数)」は連続する素数を生成することで知られ、nに
1~10を代入してみた(表)。
<プライマリケアは 医学の素数なり>
素数は現代社会でもとても重要だ。インターネット通信や電子決済、オンラインバンキングなどを守る暗号技術の多くは、大きな素数の性質を利用してきた。意識しなくても、私たちの生活は素数に支えられている。一方、音楽の世界でも数字は重要となる。音の高さは周波数(Hz)で表され、最近特定の周波数に着目した音楽療法の研究もみられ、周波数を因数分解すると素数が基盤にある。数学と音楽とは異なる世界だが、素数という共通言語で結びついている。
医療も同様だ。最新の医療技術が進歩しても、土台には食事や運動、睡眠、人の交流、プライマリ・ケアが存在する。「基本」を大切にする姿勢こそが人の健康を支えていく。「Prime」という言葉は、医学では「最も大切な医療」を、数学では「最も基本となる数」を、社会では「第一人者」を意味する。分野は異なってもその根底に流れる考え方は共通し、「本質を大切にする」という姿勢があるのだろう。
健康や学問、芸術でも、私たちは複雑で最新なものに注目しがちだ。しかし、豊かな未来像を模索するなら、基本を軸に拡大していくことだろう。「Prime」はそのことを明確に教えてくれているように思う。
(板東浩、医学博士、糖尿病専門医)
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