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Dr.板東のメディカルリサーチ No.245 (2026.5.1)
<疾病名 生活習慣 議論中>

 「生活習慣病」は一般的に浸透している病名で、聖路加病院の日野原重明先生が提唱された。この呼称は、生活習慣が様々な病気に及ぼす関連性を明確に示す。ただ、生活習慣は原因の一つであり、病気に対する偏見を招くという意味ではマイナスの側面も看過できないとの意見も。これらの状況について多少触れてみたい。

<70年前の名称 成人病> 
 歴史を振り返ると、1957年厚生省が「
成人病」という病名を明らかに。当時は加齢とともに成人が発症する疾患群を指していたため、1996年公衆衛生審議会で「生活習慣病」へ転換された。変更の目的は、発症原因を「年齢」から「生活のあり方」へとシフトさせること。つまり、予防可能性を広く強調する意図がみられた。それから30年、この言葉と概念は社会に深く浸透し、健康教育や医療の現場で広く認知されてきている。
 現在、本名称を日本学術会議等が検討し、暗に自己責任を強調する可能性も指摘された。たとえば、糖尿病や高血圧が「生活が悪いためだ」と判断されることも。実際には、遺伝や生育歴、教育、経済格差など
社会的決定要因(social determinants of health)が影響する。病でなく心を責める「自己責任」と決めつけない姿勢が重要だ。

<哲学で 習慣概念 考察し>  
 古代ギリシャのアリストテレスやフランスの哲学者などが習慣(habit)を深く考察した。様々な視点から「生活習慣」とは単なる個人の選択の積み重ねではなく、社会的・文化的文脈の中で形作られるものと解釈できる。両親の習慣が次の世代にも伝わっていくことも認識しておきたい。

<世界では 非感染性の 範疇も>
 生活習慣病は、国際的に「
非感染性疾患(non-communicable diseases: NCDs)」と呼ばれる。感染症と対比される形で、慢性疾患を包括的に捉える概念だ。先進国では感染症が減少し、慢性疾患が主要な健康課題となった。発展途上国では未だに感染症の負担が大きく、NCDsという分類が合理的である。
 しかし、日本では「生活習慣病」という言葉が持つ教育的な意義も見逃せない。日々の食事や運動、睡眠といった行動が健康に影響することを直感的に伝えるため、非常に分かりやすい。とりわけ、健康教育の場面では、自分の行動を見直す契機を与える言葉として機能してきた側面がある。医療だけではなく社会に対しても重要で意味深いメッセージとして長年にわたり貢献してきている。
 国際的に上記の諸事情があり、日本では現在糖尿病から「ダイアベティス」への呼称変更なども検討中だ。以上のように、医療関係者や各界の識者は議論の方向性を注視しているところである。
(板東浩、医学博士、糖尿病専門医)


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