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中央テレビ編集 


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Dr.板東のメディカルリサーチ No.214
<心身の ケアがこれから ポイントに>

 現代生活において様々なストレスとの共存・対応は切り離せない関係である。然り医療現場でも、身体の不調よりも、むしろ心理・精神面の不適応が問題となってきていると云えよう。 筆者は、今までプライマリ・ケア医学や統合医療、音楽療法、心身医学に関わってきた。これらに共通する哲学は「全人的医療(holistic medicine)」である。人間を心身両面から捉えて、生きていく上で不可欠な医療や教育、福祉に関わるすべてのファクターを含むものだ。Holisticという言葉は、ギリシャ語の全体(Holos)に由来し、派生した単語には、whole(全体)やheal(癒す)、health(健康)、holy(聖なる)など健やかな意味合いが含まれる。

人々に 哲学伝えて いく意義が
 健康な生活をどう維持すればいいのか? 私の師匠・聖路加国際病院の日野原重明先生は「日野原イズム(Hinohara-ism)」の哲学を通じて、人々に「伝える」意義をよくお話されていた。
  漢字「伝」=人+云(言)とされているが、語源からみると「人+云(專)」となる。「專(専、デン)」=寸(手)+叀(紡錘車)であり、手で紡錘車(糸巻)をくるくる回しながら糸をつむぐ意を表す(図)。我々は、先人から引き継いだものを伝えていく役割を有する。昔から現代まで脈々と繋いできた伝統や伝説を、どう伝承していけばよいのか? 放置しておくと、不正確な内容が伝播されたり喧伝されたりすることも。偉人が残した業績は伝記として纏められ、各国の文字や言葉が使われている。
 しかし、医療・芸術・文化などは文字列では表現できない。静止画や音声、youtube等の動画などについては、デジタルのフル活用化で世界中に一瞬で伝達(transmission)できるようになった。

MissionとPassion持ちつつActionを
 日野原先生は長年にわたり、内科学やプライマリ・ケア医学、心身医学などを誰にでもわかる言葉で広く伝えられた。「新老人の会(New Elderly Association, NEA)」を設立し、98~104歳に4回徳島へ来られて私たちに「生命の大切さ」をお伝えくださった。
 105歳までご活躍された日野原先生には、なぜあれほどの気概や実行力が備わっていたのだろうか? 使命(mission)や展望(vision)、情熱(passion)で自身を奮い立たせ、常に行動(action)を起こし、医療や社会の変革を誇りとともに成し遂げられたのではないかと思われる
(図)

ロゴセラピー 生きる意味から 考える
 NEAには精神科医・心理学者のフランクル(Frankl VE)による哲学が含まれる
(図)。ロゴセラピーの創始者で、ロゴ(言葉、意味)による癒しを提唱し、「癒しの力は意味の中にある」、「使命が人を強くする」などの名言がある。我が国の心身医学は、日野原氏が九州大学の池見酉次郎氏を誘って立ち上げたという。 その貴重な流れから、今月10月29日(日)に日本心身医学会中国・四国地方会第45回学術集会が徳島で開催され、筆者がお世話をさせて頂く運びとなっている。今回のテーマは「心身医学と医療・芸術・文化」である。広い意味での癒しやその効果を皆で考察し、このストレス社会に道を広げ伝えていくことができれば幸いである。

(板東浩、医学博士、ピアニスト、https://www.pianomed.org/

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