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中央テレビ編集 


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Dr.板東のメディカルリサーチ No.209
<マエストロ Sakamoto世界に 感動を>

 坂本龍一氏がこのたび天国に召された。世界中で高く評価された天才音楽家で、私にとってもヒーローの存在である。マエストロSakamotoと呼ばれ、その才能や活動レベルに今後近づくのは難しいだろう。すでに、いろいろな媒体で様々なコメントが発信されている。氏の多面的で素晴らしい業績を限られた誌面で紹介するのは難しい。本稿では、教授への追悼の気持ちを込めて、彼の音楽からインスピレーションを授けたエピソードに多少触れてみたいと思う。

◆素晴らしい 芸術に触れ ゾクゾク感
 私が大学生のとき、YMO (Yellow Magic Orchestra)の音楽を聴いた。その瞬間、私の脊髄から大脳にビリビリと電流が。いわゆる背中のゾクゾク感でAutonomous Sensory Meridian Response (ASMR)と名付けられている。その邦訳は未だないが、「自律感覚絶頂反応」という意味合いだ。聴覚や視覚への刺激によって、心地よく脳がゾワゾワしたり、脳がとろけたりするような感覚を指す。なお、YMOはシンセサイザーを駆使したテクノ・ポップスで世の中に衝撃を与えた。
 当時大学生の私は、YMOに良く似たMMO(Music Minus One)という特別なLPレコードを使いピアノを演奏していた。カラオケとは歌のパートが抜けた音楽のこと。同様に、ピアノのパートが1つ抜けたオーケストラの演奏LPがMMOと呼ばれた。私が大好きだったのはベートーベンピアノ協奏曲No.5「皇帝」。第3楽章約10分を、徳島市の大塚ベガホールで演奏させて頂いたことを思い出す。

◆現生の 音楽超越 天才が
 YMOの活動後、坂本氏は映画「戦場のクリスマス」の音楽を担当。本曲には全く驚いた。従来みられない構成でシンプル。通常の和音は3と5度が多いが4度で平行移動。かつて天才作曲家ドビュッシーが斬新な2度の和音を重ねて世の中を席巻したのと同様だろう。ジャズ音楽では、7, 9, 11,13度の複雑な和音を使う。
 氏はテクノ・ポップスやビデオゲーム用の楽曲で知られるようになったが、東京芸大で既存の音楽のすべてを理解し体得した基盤がある。坂本氏の音楽は次第にシンプルでバランス感覚に優れる音楽へと昇華していく。近年は、彼本来の素晴らしいピアノ演奏を聴かせて頂く機会が増えた。氏曰く、「無音の状況においても、見えない音楽が奏でられている」と。これには、氏の父が著名な文芸編集者、母がデザイナーという生育歴や深い教養が関係しているのであろう。文章においても文字がない行間を読むのが大切とされているから。

◆音楽で 芸術価値観 真善美
 坂本龍一氏の箴言(金言)として「Ars longa, vita brevis(芸術は長く、人生は短し)」が紹介されている。確かにArt is long, life is shortであるが、氏の哲学をどう将来に繋げていけばよいのだろうか?

(板東浩、医学博士、ピアニスト、https://www.pianomed.org/

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