あなたは、「ユーモレスク(Humoresque Op.101, No.7)」を聴いたことがあるだろうか。私が子供の頃、大好きな曲でよく弾いていたことを 思い出す。作曲者はチェコのドヴォルザーク(Antonín Leopold Dvořák)である。鉄道が大好きで、アメリカに渡って大学で教鞭をとり、有名な交響曲第9番『新世界より』を残した。近頃、本曲はヴィアオリンの名手・クライスラーが編曲したバージョンでしばし ば演奏されている。以前、東欧を訪れたとき、チェコのドヴォルザーク記念館に立ち寄り、そこで、彼が愛用したピアノを拝見できた。
◆ロマネスク ロマンを感じ 空想を
高校生になったとき、曲のタイトルが「ユーモアを持って」という意味合いを知ることに。そういえば、〇〇エスク(-esque)という名称の曲がある。ピアノを習う子供が弾くブルグミュラーの「アラベスク」やドビュッシーの「アラベスク」が有名で、意味は「アラビア風」。元来アラビア人が考案した壁を装飾する模様で、唐草(からくさ)模様を左右相称に描いた華やかな図柄を示す。一方、建築様式で「ロマネスク」とは、ロマン風、空想的、小説的という意味合いを含む。かつて徳島にはピアノバー「ロマネスク」があり懐かしい。〇〇エスクとは〇〇風、〇〇様、外見は似ているが実質は異なるものを意味し、ポジティブではなくややネガティブな方向性が感じられる。
◆似ているが 本物じゃない エセ世界
ちょっと脇道にそれるが、日本語にはエセ学者、エセ文化人、エセ学問という言葉が以前からみられる。エセは漢字で「似非(似而非)」と記載し、以(もっ)て非(ひ)なるもの、似てはいるが本物ではない、見せ掛けだけ、瞞(まやか)し、欺瞞(ぎまん)、粉(まが)う、まがい物、詐欺まがい、粉飾などの表現で雰囲気がわかるだろう。最近の使用例について、「エセ関西弁」とは「関西弁のように聞こえるが、実際には関西弁ではないこと、「エセ知識人」とは「いかにも知識人を装い不適当な発言をする人」などがある。
「えせ」の語源や由来について。まず、「にせ」の由来説では「にせ(偽・贋)」、偽(にせ)の、偽物(にせもの)、贋(まやかし)、贋作(がんさく)などがわかりやすい。次に、我が国の古語「えせぬ」があり、「正しいものになれない」意味を表す。3番めは「おそ」の語源説。おそとは「鈍」と書き、「愚かな、遅い、鈍い」のこと。類語には、「まねごと(真似事)」(形だけは整えているが、どう見ても本格的なものに は及ばない)、「〇〇もどき」(何かに似ていること)がある。食物の「がんもどき」とは、「雁(がん)の肉に似せて作った、丸(がん)の形に似せたもの」に由来する。
◆心理学 エセポジティブが いま注目
近年、心理学や心身医学の領域で、「エセポジティブ」の問題が提起されている。Positiveとnegativeを比較すると、前者が好ましいと思う人が多いだろう。「似非(エセ)ポジティブ」とは、表面上はpositiveな雰囲気を醸し出しているが、心の底ではnegative感情を抑圧している状況を示す。常に「できる」、「ポジティブ・シンキング」という発言が多い人の場合、心の奥底の感情を否定するために、逆の言動を示している可能性がある。
本稿では、意図的に極端な例を示した。一方、今月皆さまに是非ともお伝えしたいのは、「常にユーモアを心に抱きながら、朗らかに、真善美を目指していってほしい」こと。健闘を祈りたい。
(板東浩、医学博士、ピアニスト、https://www.pianomed.org/ )
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