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中央テレビ編集 


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Dr.板東のメディカルリサーチ No.194
<AIが 人の心を 読む時代>

 いま、人工知能(AI)がいろいろな分野で活躍している。その実力は将棋や囲碁などで十分に発揮されてきた。AIが棋譜を徹底分析し、ディープラーニングでさらに強くなり、人間が勝つのは難しそうだ。実は、AIの進化が医学や医療を大きく発展させてきている。画像では、X線やCT、MRI、病理検査などに応用。図は著者のCTデータから骨や軟骨、呼吸器、消化器系を再構成したものだ。本稿では、人間の心がコンピュータと相互にコミュニケーションして治療に使える段階まで進化している現状を紹介したい。

進歩には インターフェースが 活躍し
  近年「インターフェース」という用語がITやコンピュータ業界で使われており、「異なる2つの機器の接続」を意味する。本来interfaceとは接点や境界面のことで、ビジネス界では異なる2つのものを仲介する際に使う。世界で注目されているのが、人の脳と機械(コンピュータ)とをつなぐシステムで、
Brain-Machine Interface (BMI) またはBrain-Computer Interface (BCI) と呼ばれる。たとえば、頭皮に電極を置いて被験者に種々の現象を見たり考えたりしてもらう。その際に得られる膨大な電気信号を検討すると、考えたことが画面に表現されていくのだ。

実際に 大きな恩恵 ある時代
  医療現場では、運動麻痺があったり、発語が困難であったりする患者がおられる。そのような場合、心で念じるだけで車椅子やロボットアームを動かしたり、コンピュータを操作してキーボードを打ち意思を伝えたりできる。つまり、「心の中で思うだけで、機械を操ること」がある程度可能な時代になった。
 具体例を示す。四肢麻痺患者に、運動を司る脳の担当領域に約100本の微小電極が埋め込む。そして、「手を動かすことを想像」してもらい「運動想起の際に認められる神経活動を記録。データを解析すると、患者は意図通りにテレビのチャンネルやパソコンの電子メール操作が可能になったという。

実験で ヒューマノイドの プロセスも
 この基礎実験レベルで、世界的に有名な成果を紹介しよう。「世界初、サルの大脳皮質の活動により制御されるヒューマノイドロボ ットの二足歩行」という論文である。概要は、米国デューク大学でウォーキングマシンを使いサルを歩かせて、その脳活動の情報をイ ンターネットで日本に伝送した。一方、ロボットからは視覚情報を サルに戻し、リアルタイムでヒューマノイドロボットがサルの歩行を再現できた。  
 以上のように、現在、この領域は長足の進歩がみられる。近い未来には、臨床医学の領域でBCIの適応が広がり、多くの人々のQOL(Quality of Life、生活・人生・生命の質)の向上に寄与するだろう。

(板東浩、医学博士、ピアニスト、https://www.pianomed.org/
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