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中央テレビ編集 


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Dr.板東のメディカルリサーチ No.184
<今世紀 地球環境 限界説>

 前号では、宇宙や地球の「大宇宙(macro-cosmos)」と人体の「小宇(micro-cosmos)」について触れた。ちょうどその間にあるのが、組織や社会、環境となるだろう。引き続いて、我々が生活する社会を考えてみたい。世界はCOVID-19により地球規模で様々な影響を受けている。さらに気候変動や環境変化が著しく、人間が対応できる限界を超えているようだ。今回は、社会や環境という視点から話を進めていく。

◆経済学 ドーナツ如く 内と外
 2020年4月、COVID-19問題の初期に、オランダのアムステルダムの市政府は「ドーナツ経済学」に基づき、将来の危機を回避すると発表した。この理論は英国の経済学者Raworthが2017年に提唱したもの。つまり、20世紀における経済的理論では、21世紀に地球全体の環境変化でゆらぐ世界の経済学を説明できず対処できないという。どういうことだろうか。
 従来、私たちの目標は、GDPを増加させる社会のように、我々の人生を経済的に成功させ勝ち組になることだったかもしれない。しかし、地球環境を考慮すると、上限(天井)を超えて日々を暮らす豊かな国の人々が実際に存在する。一方、貧しい国の人々は基準以下の生活であるのが実情だ。
 その間のスペースをドーナツの実の部分と考え、社会的基盤を意味する「スイートスポット」と呼ぶ。そもそもゴルフやテニス競技で、ボールを芯で捉えることをhit the sweet spotと表現してきた。ポイントを掴むという意味で、経済学の領域でも比喩的に使っている。また美味しく甘い(sweet)実の部分も表す。
 「ドーナツ理論」の重要点について、和訳(意訳)を試みた(
右図)。ドーナツの穴の部分には、私たちが社会で生存するための必須12項目がある。他方、ドーナツの周囲には、人類の命を維持するため生態学的因子9項目を示した。これらの過不足がなければ、我々が住む安全空間が保たれることに。皆さまには各自の状況を当てはめて、いちど考えてみてほしい。

◆マクロから ミクロへ視点 移す技
 昨今注目されている「エコロジー(Ecology)」とは、狭義の意味合いで生物学における生態学のことを指す。一方、広義には、日々の生活に関わる領域で、社会的・経済的・文化的な思想や活動を表す言葉として使われてきた。今回、ドーナツ理論の内側と外側で、9項目と12項目を列挙する方法は秀逸だ。
 つまり、物事を大局的にみる俯瞰図が存在し、マクロからミクロへ視点を移す戦略と戦術(strategy & tactics)が素晴らしい。おそらく大脳の中はエクセルみたいにマトリックスになっているのかもしれない。

(板東浩、医学博士、ピアニスト、https://www.pianomed.org/

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