中央テレビ編集 << 先月のコラムへ トップへ >> 次月のコラムへ Dr.板東のメディカルリサーチ No.148 <何ごとも ベストを尽くせ 今ここで> ◆ 羽生・宇野選手が金・銀メダル 平昌オリンピックで、羽生結弦選手と宇野昌麿選手が金・銀メダル、1.2フィニッシュ、おめでとう。羽生選手は冬季五輪前に大怪我をした中で、あの復活劇。さすが王者である。心配していた数多の人々を安心させ、驚かせた。なぜ、彼の演技とコメントは、これほど人の心を揺さぶるのであろうか? それは常々のお人柄やコメント、強い精神力など、羽生選手の人間力に根ざしているからと思われる。 また、宇野選手は最近、ぐっと力を伸ばしてきた。このような時期に、彼がフィギュアスケート日本を支えたといっても過言ではない。誰もが高く評価しており、とてもありがたいと思う。さらに、第3位になったスペインの実力スケーター・フェルナンデス選手は本来フィギュアが有する芸術性に対して印象的な構成と表現力を示した。今回は、この3選手に関連して、若干触れさせて頂きたい。 ◆サウンドスケープ フィギュア男子のメダリスト3名は、ショート演技でもトップ3を占めていた。テレビで解説していたのは元フィギュア選手で、「氷上のお殿様」こと織田信成さん。よく知られ予想していたことだが、羽生選手の演技の途中から、彼はいつものように泣き始めてしまうことに。感性豊かな彼が感動する理由として、怪我からの復活劇や音楽の存在などが関わっているだろう。 ショートで使われた3つの音楽について紹介したい。羽生選手の使用曲はショパンのバラード1番。私も好きなピアノ曲で、ゆったりした部分と軽快な部分が混在する。一方、宇野選手の曲は、ビバルディの「四季」から「冬」。バロック音楽で弦楽四重奏の特徴をうまく捉えた振り付けになっていたと感じた。つまり、風景(landscape)と同じように、音景(soundscape)に合わせて演技にも静と動きが加わってくることに。 注目されたのは、フェルナンデス選手によるチャップリンの「モダン・タイムズ」である。その振付がコミカルで綺麗でお洒落。そこに喜劇王チャップリンがいるかのような錯覚に陥った。私はCharlie Chaplin自身が作曲したSmile♫が大好き。本曲は、誰に対しても心を暖かくさせるパワーを有しているだろう。音楽が存在することで私たちの感情は大きく影響を受ける。表現とは、心に湧き上がってくる情感を、身体全体で現して外部に発信すること。ジャンプという技術だけではない、本来のフィギュアスケートの本質を思い出させてくれる秀逸の演技だったように思う。 ◆今を貫け 五輪前に羽生選手が大怪我をしたため、いろんな応援やコメントが出された。その中で、「今を貫け」というメッセージは印象的なものに。言い換えると、「いまここに」とでもなるだろうか。英語でならhere now, ドイツ語ではhier jetztであり、実存主義にも関わってくる大切な考え方となる。「今を生きずに、いつを生きるのか? ここを生きずに、どこを生きるのか?」「過去を引きずるな、未来を怯えるな」というフレーズも類似したものであろう。 羽生選手のフリープログラムは、「陰陽師(おんみょうじ)」の世界から「SEIMEI」であった。衣装は平安時代の狩衣(かりぎぬ)をイメージしたもの。日本独自の邦曲は国際舞台では注目されることが多い。このたび、二連覇を果たした羽生選手がいろんな意味で強い選手であるのは誰もが認めるところであるが、もしかしたら、彼が参拝した平安時代の陰陽師・安倍晴明を祀る京都の晴明神社から、パワーが授けられていたのかもしれない。 (板東浩、医学博士、ピアニスト、https://www.pianomed.org/ ) 印刷用PDF