◆三本松高校が活躍
夏の風物詩といえば、甲子園の野球が挙げられる。今年の代表校は、四国地区から鳴門渦
潮(徳島)、明徳義塾(高知)、済美(愛媛)、三本松(香川)の4校であった。いずれの試合のときにも、テレビの前で声援を送っていた人も多いことだろう。
その中で、私は特に三本松高校を注目していた。その理由は、スポーツ医学やリハビリテーションの理論と実践を一緒に学ぶ仲間が関わっているからだ。森安昭斗氏は医療現場で働く理学療法士であり、三本松野球部のOBでもある。常々から選手たちの面倒をみるトレーナーの役割も果たしていた。
◆4番バッターを地域が応援
その中で誰もが知っているエピソードを紹介したい。4番バッターでスラッガーの盛田海心君は1年のとき膝を脱臼し半月板を損傷する大怪我を負った。2年時 に再発し「もう野球はできない」と気落ちすることに。森安氏は「一緒に怪我を乗り越えて最後の夏に甲子園に行こう」と声をかけ、怪我に負けない柔らかく、かつ強靭な身体を作るためのトレーニングに付き添った。
実は、近くの病院で黙々と長期にわたりリハビリを行う盛田君を、住民みんなが知っていて応援していたのである。そのため、香川の決勝戦で盛田海心君がホームランを打ち、優勝に貢献したときには、地域全体が歓喜の渦に包まれた。海心君やチームに対する多くの人々の暖かい心が通じて、三本松高校はベスト8まで勝ちあがったのであろう。
◆怪我のメカニズムは?
スポーツのトレーニングでは、筋トレが有名だ。ただし、筋力(パワー)や筋肉量を向上させる肉体改造により筋肉量は増加したものの、怪我に陥ってしまったという事例も多く報告されてきた。なぜだろう か? その一因として、身体柔軟性が低下し身体が硬くなってしまうことが挙げられよう。
ここで、メカニズムを平易に紹介したい。固定源と駆動源という骨格筋による2つの機能を総称して「身体剛性」と呼ぶ。一方、衝撃的なパワーの吸収や緩衝に機能しているのが「半月板・椎間板・軟骨などの軟部組織」と「骨格筋」である。骨格筋の柔軟性が各関節の可動域を確保し、外力の吸収や緩衝に大きく関与する機能を総称して「身体柔性」と呼ぶ。
このような理論を基盤として、実践やリハビリにつなげていく。具体的な方法として、森安氏による棒体操や、研究仲間でマスターズ陸上の指導者である村上充氏による竹体操がある。いずれも脱力して行うストレッチにより、柔軟性アップに効果がみられる。本図は森安氏が教育セミナーで用いる研究データである。これらの実践で、いろいろな怪我が減り、アスリートにも健常人にも有用な方法となろう。
(板東浩、医学博士、ピアニスト、https://www.pianomed.org/)
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