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中央テレビ編集 


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自治随想
第41回日本計画行政学会全国大会IN福岡大学
~環境・経済・社会の統合的向上と計画行政 SDGsを見すえて~


◆はじめに
  昨年9月上旬、冒頭のテーマの下で計画行政学会全国大会が開催された。私は、地域社会、地方行政の総合的向上の視点から印象に残った研究内容の概要を記したいと思う。  言うまでもないが、人口減少、少子・高齢化の波はとりわけ地方に厳しく押し寄せている。森林や里山の担い手不足は深刻であり、社会インフラの老朽化・設備不足と相まって、恵み豊かな環境を生み出してきた国土の管理にも深刻な影響を及ぼし、頻発する自然災害による物心両面の甚大な被害をさらに増幅させている。そんな現状であるのに環境保全を担う人材は不足し、地域づくりもまた困難を極めている。  
 一方、新興工業国や後発開発途上国を中心とした急速な経済発展や人口増大は、天然資源の枯渇や自然環境の破壊による生態系サービスの供給不全などをもたらすことが懸念され、従来の経済社会システムに依存する限り人類社会はさらに厳しい環境上の制約に晒されることになりかねない。加えるに、国内外を問わず生じている政治的な混迷は、人類社会が立ち向かうべき多くの課題決定を先送りしているように映る。  
 2015年、国連において先進国と開発途上国が互いに取り組むべき国際社会全体の普遍的目標として「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、17のゴールと169のターゲットから構成される持続可能な開発目標(SDGs)が掲げられた。  
 わが国や世界が直面する困難な状況を踏まえ、行政や経済界、市民など多方面から「環境・経済・社会の統合的向上」の実現のため、英知を結集し、様々な角度からアプローチしなければならない時期に立っていると言わざるを得ない。

◆講演&シンポジュウム
 (1)オイスカの活動と実績  「人々が違いを超えて共存し、自然と調和して生きる世界」を目標に、「あくまで民間でやる!」を手法にするオイスカについて、広瀬兼明オイスカ西日本研修センター所長が講演。国際協力やNGOといった言葉すら一般化していない私が高校生時代の1961年(昭和36)に設立、アジアを中心に世界の国々から数回、数百人に及ぶ代表団を招き、日本人の信頼を次第に得ていく。40年代初めに、未曽有の大干ばつに見舞われたインドに日本から農業開発団員を派遣したのが海外協力の第一歩、その後、インドの成果が伝わり他の国からも技術者派遣要請が相次ぎ、同時に技術者育成の要請もあり全国数ヵ所に研修所を設けている。  改めてオイスカとは、産業、精神、文化の促進を行う機構の頭文字を取った国際組織だ。オイスカが掲げる産業開発は、開発途上国の人々の食生活を守るための農業、林業、漁業の振興に重点を置き、自助自立を確立するために共に手を携えて行動することを基本姿勢とする。「開発は近代的な設備を必ずしも必要とせず、一見無駄なように見えてもその場にあるものに改良を加えれば、そのような努力に対して自然は限りない恩恵をもたらす」と説く。


◆人材育成による国づくり
  更に国づくりの基本は、「農村振興と人づくり」であり、その国の社会の発展はその国の人々によって自律的に成し遂げられなければならない、だからオイスカ創立以来、人材育成を活動の重要な柱に据え、今日、36の国と地域で農業青年を対象にした農業研修センターや緑化保全のための植樹プロジェクト、子供たちが取り組む子どもの森計画といった活動を展開し、活動現場で中心的役割を担うのは国内外のオイスカ研修センターで学んだ卒業生(OG・OB)たち、工業分野でも母国の経済発展最先端で多くの卒業生が活躍する。


◆人づくりから始まるオイスカの地域開発
 開発途上国における農村開発プロジェクトの第一歩は、それぞれの国での人材育成である。特に生産現場に入って身体を動かし、額に汗して働く熟練技術を身に付けた若者たちの育成、中でも力を入れているのは稲作、○菜栽培技術の研修だと言う。研修生の多くはアジア太平洋の途上国出身者であり、それぞれの国には独特の食文化があり、その文化を支える豊かな自然の恵みがある。豊かな自然が生きているうちは多くの作物に恵まれ、稲・野菜ともに一年に2回、3回と栽培収穫ができるが、今日世界のどこに行っても豊かな恵みだけに頼ることはできなくなった。そこでオイスカが目指したのが、日本の伝統的な農業による増収技術への転換だった。

◆熱い思いでつなぐ環境保存活動
  海外の現地でオイスカの開発団員が見た「山に木がない」光景が、環境保全活動へ踏み出す第一歩となる。アジア太平洋地域開発青年フォーラム(ラブ・グリーン運動への展開)、乾燥地帯の荒地への植林(タイ・スリン県)、その山は多くの人のふるさとになった(ミンダナオ島パマンサラン村)、一人のオイスカ研修生OBの熱い思いがつなぐ多様性豊かな森(ルソン島ヌエバビスカヤ州アリタオ町、セミの大合唱と陸ホタルの大群、年3回の稲作)、マングローブ植林・点から面への広がり(インドネシア)、緑の防波堤(バングラディシュ・ベンガル湾岸)、荒涼とした大地の広がり(内蒙古砂漠化防止プロジェクト)等々実践事例報告が詳細にあった。

◆国際機関と連携、企業と協働
 オイスカは時代の流れ、社会の変遷とともに様々な形で国際機関や労働組合、企業と連携しながら活動を推進している。ニーズに合わせた活動の場を提供していくことは、特に本来の主目的から離れてしまう危険性が全くないとは言えないが、より多くの人にプロジェクトに参画してもらう機会を提供することは、オイスカのもう一つの柱でもある啓発普及としても大きな意義があり、今後も積極的に展開していく必要がある。プロジェクトに対する支援を受けるという立場ではなく、これからも対等な協働のパートナーとして選ばれるオイスカであり続けたいというのである。  
 オイスカの国内組織は、1960年代初期、日本が経済成長に突き進んだ時代、創設者中野興之助氏によって日本の将来と開発途上国の自立を目指す地域開発に乗り出し、全国各地に支局が誕生、組織化が始まる。1963年5月に外務・通産・農水・労働4省より財団法人の認可を得、都道府県単位で支部を設置する。2011年2月、公益財団法人として再スタート、北海道、宮城、首都圏、山梨、長野、富山、静岡、愛知、岐阜、関西、広島、四国、愛媛、西日本の14支部を法人内支部とし、これに含まれない支局は推進協議会と改称し独立した立場でオイスカ活動を推進する体制となる。その活動に賛同する会員(法人、個人)からの会費や寄付などに依って活動している。  
 オイスカ・インターナショナル(オイスカの国際組織)は、1961年、インド、パキスタン、フィリピン、エジプト、ガーナ、ウガンダ、スイス、アメリカ、西ドイツ、マレーシア、日本など18か国460人が集まって創設し、それぞれの国に帰り自発的にオイスカ総局・支局を設立した。それぞれの総局代表として2名の国際理事が、年ごとの活動計画や中・長期活動計画を議題とした日本における国際理事会に出席する。オイスカの精神について十分に理解し、国境を越え、異文化の壁を越えてお互いに理解し、協調し、努力する目標を持ってそれぞれの地域、国、世界全体の利益のために働く組織なのである。
(2)SDGsと新国富指標の活用
 次に九州大学大学院教授馬奈木俊介氏の基調講演が興味深かった。教授によると、サスティナブル(持続可能な)ディブロプメント(発展・開発)は、3つの歴史的イベントを辿ってきていると指摘する。つまり、1987年公表のブルントラント委員会報告書「われら共通の未来」では、「持続可能とは将来の世代の要求を満たしつつ、現在の世代の要求も満足させるもの」とあり、当時の南北問題・途上国の問題等が深刻で、持続可能な発展という説明にまとめようという意図があったのではないかという。2番目の2000年の国連ミレニアム・サミットで189か国によって採択された「国連ミレニアム宣言」に基づく「貧困撲滅と生活改善(MDGs)」は、主にアジアやアフリカの発展途上国の極度の貧困と飢餓を掲げた。そして3番目の今日、何が持続可能なのかに視点を置き持続可能性を重視した目標である持続可能な開発目標(SDGs)が設定され、持続可能性の判断基準として「新国富指標」が2012年に提示された。新国富指標は、端的に言うと経済の生産能力を、国家の人口資本、人的資本、及び自然資本の合計の値で測る(各資本とSDGsの関係は図の通り)。




 持続可能性を評価するためには、先ず、二時点以上での新国富指標に関する情報を得ることが必要であり、ある時点で保有していた新国富が、もう一つの時点においてどのように変化しているかによって、その持続性を図ることができる。つまり、前の時点に比べて新国富が増加していれば持続可能であるいえる可能性が高いし、減少していればこのままでは持続不可能になる可能性があるというのである。
 国連「新国富指標報告書2018」代表である馬奈木教授は、更に次のように語った。新国富指標と持続可能性との関係、更に、この新国富指標を用いて世界や日本の豊かさを比較したい。その上で国際的な動きというだけでなく、現実問題としてローカルの問題をどのように解決し得るか、人口減少、少子・高齢化の波はとりわけ地方に厳しく押し寄せている。日本国内でも、森林や里山の担い手不足は深刻で、それが社会インフラの老朽化・整備不足と相まって、恵み豊かな環境を生み出してきた国土の管理にも深刻な影響を及ぼしている。頻発する自然災害によって物心両面にわたり甚大な被害をさらに増幅させている。新国富指標をどのように用いれば問題解決できるのか、SDGsの成果にかかわる課題であろう。

(西川政善、徳島文理大学総合政策学部(兼総合政策学研究科)教授)