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中央テレビ編集 


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自治随想
2018マニフェスト大賞六本木ヒルズ

◆マニフェスト大賞の新たなステージ
  マニフェストの提唱者である早稲田大学名誉教授北川正恭氏は語る。「13回目を迎えた今回は、全国の首長・議会・自治体・市民各位から総計2242件の応募があり、幅広く質の高い内容が多く寄せられ、委員長の私はじめ審査委員一同、よい意味で頭を悩まされた」と。  
 マニフェスト大賞を始めたころから参加している私も感無量、まだ集権時代の考え方が色濃く残っていてマニフェスト運動は際物扱いされることも多々あったが、この頃では受賞した自治体に全国から視察殺到という嬉しい悲鳴さえ聞こえるようになってきている。まさしく「善政競争」が各地が始まっている。善政競争とは良い政治の取組を表彰することによって、それを参考にほかの地域でも刺激と気付きを得て自分たちも主体的に改革を進めようと競争することを意味する。  
 こうした運動を各地で多くの皆さんが展開することで、二元代表制の一翼を担う機会の考え方・取組みも変わりつつある。執行部の追認機関でなく別の選挙で選ばれた独立機関として、執行機関と機関競争つまり善政競争をして住民の意見を反映していこうとする機運が盛り上がってきている。今夏には、早稲田大学大隈記念講堂で「全国地方議会サミット」(ローカル・マニフェスト推進連盟主催)が初開催され、地域から日本を変えていこうと1000名を超す議会関係者が集結する。その中で注目すべきは、従来は個人として選挙で当選して議員になり議会活動を熱心にするが、議長を中心に組織的に議会活動をすることは私の経験上からも少なかった。しかし近年大きく変わり始めたことは、議長を中心にして議会事務局も参加した「チーム議会」としての活動が増えてきていることである。従来の執行権に対する監視機能だけでなく、議事を通じた決定機能と政策提案機能、それを補完する議員提案の条例制定など議会全体で取り組み、二元代表機能を発揮し始めたということである。  
 加えてマニフェスト大賞では、首長・議会・自治体だけでなく、市民団体や町内会、民間企業や報道機関、大学ゼミや高等学校・中学校の教育機関など、機関の枠を超えて幅広い層からの応募も広がりを見せている。つまり、マニフェスト大賞が新たなステージに向けてさらに進化し続け、地方創生時代における真のプラットホームとなることが期待される。  
 以下各分野で表彰された実践成果について私なりに紹介し、参考になれば幸いである。

1.「市民参加」と議会機能向上、市民のために成果を出す議会へ!
                                      大賞・最優秀成果賞 愛知県犬山市議会
 犬山市議会では、議会改革の中で情報公開の推進や議員間討議などを取り入れて市民の意見を聞き、議員間討議、意見集約、行政に提言していく仕組みを作る。その上で議会改革の第2ステージとして、市民のために議会機能を向上させ成果を出せるように、「市民参加」に重点を置き「議員間討議」を活かし「議会としての意見」を伝え、行政に提案・改善を求める活動を目指す。小さなことからでも議会が成果を出し続けることで、市民に「参加すれば実現できる」という気持ちが芽生え「市民参加」が活発になる。そうすることで市民の意識が高くなれば、選挙の投票率低下、議員のなり手不足などの問題解決の糸口になると思われる。



◆具体的取り組み、行政への提言
①市民フリースピーチ
・定例会開催期間中に市民が議場で議員に対し、市政全般に関して「5分間」自由に発言できる。
・市民からの意見は定例会中に、討議の場として設定された「全員協議会」で議員間討議を行い、申し入れなどのアクションをとる。
・協議結果は文書やホームページで公表する。
(開催実績)
・第1回応募10名 発言者7名、第2回発言者6名、第3回発言者7名
(議会としての提言)障がい者の災害時の支援について(第2回申し入れ)
・避難用支援者名簿の掲載には家族以外の支援者2名が必要だが、この条件の見直しを検討し、障がい者が非難しやすい支援体制を構築してほしい。
(申し入れに対する行政の回答)
・条件を1名でも登録可能に運営を変更する。
②女性議会
・平成30年2月14日開催、行政と共催する。
・「いちにち女性議員」を公募。
・事前勉強会の後、模擬議会で一般質問を経験しその後、一般質問に対する行政の答弁に対する疑問に「いちにち女性議員」議員間討議として意見交換、その結果を議長に申し入れ。
・議長は「いちにち女性議員」の申し入れ内容を、全員協議会で討議、意見集約できたものを行政に申し入れする。
(開催実績)当日参加者10名
(議会からの提言)受け手目線の情報発信について申し入れ。周知や説明不足により、受け手である市民に情報が正しく伝わっていない事案が複数あり、今以上の市民目線に立った情報伝達を要請。
(申し入れに対する行政の回答)
・受け手である市民に「広く・分かりやすく・正確に」情報が伝わるよう努める回答。
③その他の取組み
・市民との意見交換、各種団体と常任委員会との意見交換、オープンドアポリシー(議長室で行政相談)、親子議場見学会(「議員に質問コーナー」で子供や親の意見を聞く)etc

◆「肌で感じる議会に」
 大賞・最優秀成果賞に輝いた犬山市議会の米国出身ビアンキ・アンソニー議長は「市民にとって遠い存在に思えた議会や市政が、自分の目で見て肌で感じることで身近になり、市政を真剣に考える機運が埋まれば」と喜びを語っている。  
 思うに、民主主義において、市民を代表する議員全員に意見を言う権利があるのは当然のこと、だからこそ、その場を設けることは議会の義務、市民に役立つために議会が市民とより密接な関係を持つことは非常に重要だ。そこで「市民参加」、特にフリースピーチ制度はそうした関係づくりの根本的な要素と言える。議場において、議員全員と市民同士の前でフリースピーチを行うのは最適、議場は民主主義の原点で、議員は市民の代表、市民そのもの、一緒に理想とするまちを考えるのは当たり前のこと。投票率の低下、政治への不信や無関心、議会の必要性が問われる今日、市民参加・フリースピーチの精神と実践は原点と言える。


擬賞・最優秀成果賞に輝いた愛知県犬山市議会=毎日新聞より

◆2、政策で選ぶ一票の大切さを本物の選挙で学ぶ
 次に、市民部門において、最優秀マニフェスト大賞を受けた信濃毎日新聞と6高校の実践「特集紙面と主権者教育の展開」を見てみよう。信濃毎日新聞は2018年8月5日投開票の長野県知事選に向けて、早大マニフェスト研究所の全国共通書式をもとに立候補者の主張や政策を分かりやすくまとめた特集紙面を製作し7月18日朝刊に掲載、新聞を活用して授業を行う教員で組織する「長野県NIE研究会(有賀久雄松本工業高校教諭会長)」と連携し、県内高校に特集紙面を活用した主権者教育と、知事選候補者を想定した模擬投票の実施を呼びかける。県全域にわたる高校6校が参加、1~3年生計1189人が模擬投票する。新聞紙面を通じ選挙自体を「教材」として生かし、「生の政治」を教室で語らうことの重要性を学校側に広げた。生徒は「架空の選挙」でなく「本物の選挙」を通じて、政策本位で主張を見極め、自分の考えを持ち、1票を投じることの大切さを学んだのである。  
 特集紙面は工夫を凝らし「政策注力分野」のグラフを大きく掲載し、候補者の政策が似ている点、異なる点を分かりやすく示す。「地域のありたい姿」「解決したい課題」といった候補者の基本的な考え方や課題解決のための具体的な施策を対比しやすくする。若者へのメッセージなどを載せ親しみやすくする。教員から授業の教材として扱いやすい、中立公平で分かりやすいとの声もあがる。6校以外でも、急遽特集紙面を授業に活用した例もあった。また、学校ごとに趣向を凝らした授業も展開され、若者の投票率向上活動をしている大学生との連携、ワークシート活用など主権者教育・模擬投票によって、生徒のそれぞれの観点や判断による投票の軌跡が窺え興味深い結果となったという。  
 今回の知事選挙は、与野党5党や経済団体が支援し3期目を目指す現職と、共産党系の元市議による一騎打ち、投票率は全県レベルの選挙としては初の40%割れが危惧されていた。結果は43.28%で、前回選を0.28ポイント下回るも、高3生世代に限った投票率は松本市で54.44%、上田市は55.53%で、ともに市全体や県全体を10ポイント以上上回った。授業を受けた生徒に限ると7割以上が実際に投票したとする学校もあったそうだ。  
 さらに県全体にも影響を与えたという。それは学校へのエアコン設置がにわかに知事選の争点となり、知事選後に県は県立高校・特別支援学校へのエアコン設置の取り組みを急加速させ、高校生は自分たちの1票が政策に反映されることを実感できたというのである。  
 これまで「政治的中立」に配慮しながら主権者教育をどのように進めればいいのかが、全国的議論になっていた。しかし、一般に若者の政治への関心の低下が言われているが、高校生の意識調査によると「争点になっている政治課題」について多くの生徒たちが知りたがっているという。そうであれば、「教員は授業で生の政治を扱うことに対して委縮してはいけない」ということになる。また、特集記事を適切に作成し、上手く活用する主権者教育の土俵を提供した報道関係にもエールを送りたい。「やればできる」「やれることから着実に手をつける」の好実践例である。  
 18歳選挙権が適用された16年参議院選から、若者の政治参加について考え、行動することが多くなってきた。「政治を遠ざけてきた教育」を転換し、学校の教室で「生の政治」を語り合うことの重要性と、こうした活動をさらに広げていく、そして継続していくことの大切さを改めて噛み締めなければならない。



模擬投票する松本県ヶ丘高校の生徒たち=信濃毎日新聞社より

(西川政善、徳島文理大学総合政策学部(兼総合政策学研究科)教授)