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中央テレビ編集 


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自治随想
地方創生成功の根っ子は住民自治

◆はじめに
 今、最大のテーマとなっている「まち・ひと・しごと創生」は国民・住民の大きな期待と多額の予算が投じられつつある。しかしこのままでは、成果を上げきれなかった過去の地域開発政策同様に、膨大な借金を子や孫に残すだけに終わってしまうのではないかという不安や憂慮が付きまとっている。政府の「基本方針2017」は、目標として地方の「平均所得の向上」を掲げているが、残念ながら今のところわが国では良好な地域経済循環を達成したモデルは見当たらない。そこで、経済成長よりもむしろ人口減少と高齢化時代の趨勢を客観的な情勢の変化と素直に受け止めて、「スマート・シュリンク」を基本戦略とすべきであろう。まち全体の再改造、都市の縮小などを念頭に置き実施していく考え方である。そうなると、住民は選挙で選んだ代表者である首長と議員に「お任せ」するだけではなく、自らも主権者として自由と自主独立の気概を持って地域づくりなどの自治体行政に積極的に参画しなければならないことになる。  言い換えると、私も訪問して深い感銘を受けた民主主義と地方自治の発祥の地ギリシャ市民にならい、我々一人一人が自由と自主独立の精神を身に付け、住民自治の実現と地域の活性化・地方創生に取り組んでいく必要があるということである。2016年の18歳選挙権実現により「主権者教育」が課題となっている今だからこそ、襟を正して住民全体で考え実行すべきである。

◆長期ビジョンと総合戦略
 2014年12月27日の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」では、中長期展望として「2060年に人口1億人程度を維持すること」が示され、若い世代が希望する結婚・子育ての実現に取り組み、合計特殊出生率1.8程度の水準までの改善を目指し、その一方で、若い世代を中心とする東京圏への流入が日本全体の人口減少につながっていることから、東京一極集中の是正に取り組むとしている。また「人口の安定化」と「生産性の向上」の両者が実現するならば、2050年代の実質GDP成長率は1.5~2%程度を維持することが可能だと見込んでいる。  
 こうした人口ビジョンと同時に策定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、2016年度を初年度とする今後5か年の目標や施策の基本的方向、具体的施策をまとめ、加えて「アクションプラン(個別施策工程表)」で個別施策の成果目標を掲げている。これらを受けて地方自治体においても、地方人口ビジョンと5か年の都道府県まち・ひと・しごと創生総合戦略を策定し実行するよう努めるものとしたのである。  
 さらに総合戦略では、2020年において実現すべき成果(アウトカム)としての数値目標を含む4つの基本目標を掲げた。すなわち、①若者雇用創出数(地方)を2020年までの5年間で30万人 現状:9.8万人 ②2020年までに東京圏から地方への転出を4万人増、地方から東京圏への転入を6万人減少させ、東京圏から地方への転出入を均衡 2015年現状:年間12万人転入超過 ③2020年に結婚希望実績指標を80% 2010年現状:68% 夫婦子ども数予定実績指標を95%に向上 2015現状:93% ④立地適正化計画を作成する市町村数150市町村 2016年現状:4市町村などである。


◆著しくない進行状況
 2017年6月9日政府は、まち・ひと・しごと創生基本方針において、長期ビジョン・総合戦略ともにその目標が前進するどころか、後退してしまった状況を認めている。すなわち、合計特殊出生率については、2005年に最低の1.26を記録し、2015年には1.45まで上昇したが、2016年は1.44と2年ぶりに低下している。年間出生数も2016年97万7千人となり、1899年統計開始以降初めて100万人を割り込んでいる。  
 また、将来統計人口(中位仮定)は、2017年の推計では将来の出生率の仮定が1.44と前回の1.35よりも高くなり、2065年の総人口は約670万人増加し8,808万人、老人(65歳以上)人口割合は2ポイント低下し38.4%となり、人口減少の速度や高齢化の進行度合いがやや緩和されるとしている。しかし、少子高齢化の進行や人口減少の傾向に大きな変化はなく、わが国の人口減少に歯止めがかかる状況とはなっていない。特に、人口移動の面では、東京一極集中の傾向が続いており、2016年に東京圏(東京都・埼玉・千葉・神奈川県)は11万8千人の転入超過(21年連続)を記録した。東京圏への人口移動の大半は若年層であり、2016年は15~19歳(2万8千人)と20~24歳(6万9千人)を合わせて9万人を超える転入超過でありしかも増加傾向にある。目標達成どころか状況悪化である。一刻の猶予もない、危機的状況を政府は総括して、①府省庁・制度ごとの縦割り構造 ②地域特性を考慮しない全国一律の手法 ③効果検証を伴わないバラマキ ④地域に浸透しない表面的な施策 ⑤短期的な成果を求める施策等々の要因を挙げている。しかし、自ら指摘していたこれらの悪弊が、どれほど抜本的に改革されてきたのか。相も変わらず従来同様の過ちを繰り返しているのではないのかと危惧されている。

◆スマート・シュリンク
 そこで、開き直るわけではないが、人口の減少・高齢化等地域の趨勢が避けられないものであるならば、地方自治体のとるべき道はこれらの情勢の変化を素直に受け止め、予測される人口の減少と高齢化に応じてこれまでの公共インフラや行政サービスを見直すとともに、計画的なまち全体の再改造、都市の縮小を実践していくスマート・シュリンクの手法だろう。もちろん成長を目指す路線で成功する道もないとは言えないし、私も首長時代に住民(選挙民)が積極策を望む場合も多くあった。しかし、地方自治体には奇跡を可能にする魔法の杖はなく、自らできることとできないことを冷静に見極め住民にとって最悪の事態を避けさせなければならない。自治体の力が及ばないことが多いのがグローバル経済下であるが、結果の出せることには全力を尽くすけれども、できないことはこれを素直に受け止め選挙民の評判は悪くとも、人口減少と高齢化という厳しい現実について積極的に情報公開し、住民の合意形成を図り、スマート・シュリンクの道を選ぶ勇気を持ちたいものである。  
 甘い見通しの下に旧態依然の発想で地域再生・活性化策を継続することは、公共インフラと行政サービスの抜本的な見直しを怠ることになり取り返しのつかない財政破綻をもたらすことにもなる。夕張市の財政破綻と現在の再建に学ぶことは多いのである。

◆コンパクトシティ
 2016年改定版の総合戦略では、「医療・福祉・商業等生活サービス機能や居住の誘導による都市のコンパクト化と公共交通網の再構築をはじめとする周辺等の交通ネットワーク形成」により、「高齢者や子育て世代にとって安心して暮らせる健康で快適な生活環境の実現、アクセス改善やまちの回遊性向上による生活利便性の維持・向上及び地域経済の活性化、財政面及び経済面において持続可能な都市経営等を関係施策間で連携しながら推進していく」こととされている。コンパクトシティの取組みは、私の中央大同窓の森雅史富山市長が全国に先駆けて実践し成果を挙げてきた。この手法を今後の地域政策の展開に上手くからませて、より徹底したスマート・シュリンクを基本戦略として、地域住民の合意と協力を得て推進すべきものだと思われる。

◆大川村の村民集会
 高知県大川村(人口約400人)は2017年6月12日、和田村長が議会を廃止し有権者全員による村総会(自治法94条)を設置することの検討を表明、議会側も朝倉議長が村総会設置条例の必要性、村民の理解を得る手段などについて議会運営委員会に諮問した(同年8月18日)。同委員会は「議会存続は可能」とする答申を行ったが、村民総会については総務省の研究会の結論を持つべく本格的検討を保留した出来事は、全国的に大きな波紋となった。また大川村では、議員定数を10人から6人に削減したにもかかわらず、前回地方統一選では無投票。現在、議員6人のうち3人が70歳代後半、後継者のめどが立たないことから「消極的選択肢」(同村長)を検討することとなったとのことである。  
 大川村でも並行して検討が進められているように、議員のなり手不足解消のための努力はもちろん必要であるが、他方において地域の活性化という点からも消極的選択肢という考えを超えて直接民主制として地方自治法94条に定められた町村総会の制度そのものも、もっと積極的に評価し活用すべきではないかという考えもあろう。町村総会に住民が直接参加し村の将来を住民全員で活発に議論し、自ら属する自治体への一体感を高め、それぞれの有する職業的能力と斬新な意見・アイディアが提供され、情報交換され、活発に地域の将来について議論がなされれば、英知を結集した内発的な地域活性化が期待できるというのである。とは言いながら毎回村民が集まることが可能かどうかという反論も当然であろう。  
 全国の人口1000人未満の小規模自治体(28村)やそれより少し規模の大きな自治体において、古代アテネの民会、現在のスイスの住民総会もそれぞれ数千人規模であり、ICTの活用を考えれば住民の決意と覚悟次第で可能だという考えもあろう。

◆おわりに
 わが国は、国と地方が1000兆円を超える膨大な借金を抱え危機的状況にあり、国民民主主義の自己管理能力の欠如が問題視されている。加えて、人口減と高齢化の進展によりますます悪化する財政状況の中で、従来のような積極的な財政出動は望むべくもない。「まち・ひと・しごと創生」の進捗に当たっては、国も地方も甘い幻想を捨て、客観的な情報把握の下で、成果指標の達成状況を確認しながら、なおかつ状況の変化に柔軟に対応した政策の転換を図り、無駄な投資を避けなければならない。  
 同時に、国民・住民も民主主義国家の主権者として自ら国政や地方行政に参画し、自主独立の気概を持って国や地域の課題解決のために努力しなければならない。そこにこそ、わが国全体と地域、地域の未来が望まれると言えよう。当事者意識が問われていると言えそうだ。

(西川政善、徳島文理大学総合政策学部(兼総合政策学研究科)教授)