近代美術館では、徳島県阿南市出身の版画家・吹田文明(1926-)の生誕100年を記念し、特別展「生誕100年 吹田文明の人生でたどる版画100年のドラマ」を開催します。
吹田文明は、現代を代表する木版画家のひとりであり、戦後日本の版画界を牽引してきました。彼の作品には時代の空気や自身の体験が色濃く刻まれたものがあります。本展では、波乱に満ちた作家の人生をたどりながら、当館所蔵の作品を中心に、一編の人間ドラマを追体験するように振り返ります。また、同時代の作家や現代版画の動向を紹介するトピック展示を設け、戦後日本版画のなかで吹田が占める位置を改めて見つめ直します。
展示室の最初には「プロローグ 版に刻まれた戦争の記憶」コーナーを設けます。作家の人生を語るうえで、避けては通れないのが10代で経験した戦争です。吹田は18歳で入隊しました。在籍期間はわずか10日ほどだったそうですが、戦時下の特異な空気や友人を見送った経験は、後年に語られることになります。
この体験は戦後50年を経て、〈鎮魂〉シリーズとして結実します。〈南に散りし友に捧ぐII(戦後50年の鎮魂詩)〉はそのうちの一作です。空を舞う蝶の連なりは、特攻機で飛び立った人々の姿と重なります。失われた友への思い、生きながらえた自分の人生。散っていった命への深い畏敬と、今を生きる自分ができることを問い直すその静かな省察が、画面の奥底には込められています。

吹田文明〈南に散りし友に捧ぐII(戦後50年の鎮魂詩)〉1995年 徳島県立近代美術館蔵
戦後、徳島で教員生活を始めた吹田は、その後、徳島県の長期研究生として派遣された東京美術学校(現東京藝術大学)での学びを経て、東京都内の小学校で図工専科として勤務することになります。その中で版画と出合い、版画教育の可能性を模索し、同時に作家としての活動も広げていきました。
そんななか転機となったのが、1967年第9回サンパウロ・ビエンナーレでの版画部門最優秀賞受賞です。この快挙は棟方志功、浜口陽三に続く日本人三人目の受賞であり、吹田は一躍注目を集める存在となりました。
この時期の作品を象徴するのが、ドリルで版材を貫通させて生み出される無数の「光点」です。深い闇の中に散りばめられた光の集中と拡散は、星の軌跡や夜空を彩る花火を彷彿とさせます。〈ボン〉に代表されるような、暗闇を穿って生まれる鮮烈な色彩と輝きが特長です。海外メディアは作風にちなんで吹田のことを「花火の男」と呼んだといいます。

吹田文明〈ボン〉1966年 徳島県立近代美術館蔵
本展ではこのほか、その後美術大学で後進の育成に尽力した時代から、2000年代に至るまで、当館所蔵品を中心にたどります。作家が歩んだ情熱の軌跡を、ぜひ会場でご覧ください。
(徳島県立近代美術館 主任学芸員 久米 千裕)
徳島県立近代美術館の5月の催し物
■展覧会情報
所蔵作品展 2026年度 Ⅰ「目は口ほどに」
4月11日(土)~7月5日(日)
特別展「生誕100年 吹田文明の人生でたどる版画100年のドラマ」
4月25日(土)~6月28日(日)
■所蔵作品展関連イベント
・谷原菜摘子トークイベント「人を描く、人を降ろす」
5月3日(日・祝)14:00~15:30
ところ 展示室1、講座室(3階)
集合場所 講座室(3階)
講師 谷原菜摘子(現代アーティスト)
参加対象 どなたでも
参加費用 無料
申込方法 申込不要
・物語ワークショップ
5月31日(日)14:00~16:00
ところ 展示室1
講師 仙石桂子(四国学院大学准教授・即興演劇シーソーズ、劇団オムツかぶれ主宰)
参加対象 どなたでも
参加費用 要観覧券
定員 20人程度
申込方法
電話またはメール申込(TEL:088-668-1088、MAIL:ae@bunmori.tokushima.jp)(先着順)
■特別展関連イベント
・学芸員による展示解説
5月6日(水・振休)14:00~15:00
ところ 展示室3
講師 久米千裕(主任学芸員)
参加対象 どなたでも
参加費用 要観覧券
申込方法 申込不要
・ワークショップ みて体験する版画 シルクスクリーン ※満員となりました
5月16日(土)13:00~16:00
ところ アトリエ2(3階)
講師 平瀬恵子(「徳島版画」メンバー)
参加対象 小学生以上
参加費用 無料
定員 15人程度
申込方法
電話またはメール申込(TEL:088-668-1088、MAIL:ae@bunmori.tokushima.jp)(先着順)
申込先 徳島県立近代美術館
・ワークショップ みて体験する版画 水性木版
5月30日(土)13:00~16:00
ところ アトリエ2(3階)
講師 近藤幸(「徳島版画」メンバー)
参加対象 小学生以上
参加費用 無料
定員 15人程度
申込方法
電話またはメール申込(TEL:088-668-1088、MAIL:ae@bunmori.tokushima.jp)(先着順)
|
|