12月6日(土)より、近代美術館で新たな展覧会が始まります。その名も「空間往来」。このタイトルには、「それぞれの作品がもつ独自の空間に入り込んだような感覚で楽しんで見てもらいたい」という思いが込められています。
早速ですが、美術における「空間」といえばどんなものが思い浮かぶでしょうか。一例を挙げると、「絵画の中に描かれた空間」があります。遠近法等を用いることで、絵画の中に奥行きのある空間が生まれるのです。時には作品が別の空間へと通じる穴のように感じられることもあります。今回の展示でも、様々な種類の遠近法を用いた作品を展示します。まさに「作品の中に入り込ん」だ気持ちで、その空間の音や匂い、温度などを想像しながら鑑賞してみるのもおすすめです。
そのように現実の空間を再現しているといえる作品もありますが、今回の展示では、現実とは異なる、絵画だからこそ可能な空間を表現している作品も紹介します。それらの作品は遠近法を用いつつも、伝統的な遠近法に慣れている私たちの目を混乱させるような表現になっており、それぞれの作品が現実と近いようで遠い、奇妙な空間を持っています。その空間が生み出す、不気味さも感じられるような独特の空気感を体感してみてください。
それらの現実とは異なる空間表現が生まれたルーツを考える時、「キュビスム」の存在は欠かせないものです。キュビスムは20世紀初めに登場した表現手法で、私たちにもなじみ深い伝統的な遠近法や空間表現を否定し、新しい表現を生みだしました。キュビスムの影響は大きく、それ以降、枠にとらわれない様々な表現が生まれることとなります。

アルベール・グレーズ《台所の母子》1911年
偉大な発明であるキュビスムですが、難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。今回もキュビスムの作品を展示しますが、それらを鑑賞する際の楽しみ方として、試しに「何を表現しているか」から離れ、純粋にそこにある形や色に注目してみるのも一つの方法です。その形や色から、固い、柔らかい、冷たい、温かいなど、どんな印象を受けるか。他の部分と比べたり、作品の中での配置も含めて考えたりするとどうか。そして作品全体としての印象はどうか。そんなところに注目して見てみると、新たな発見があるかも知れません。グレーズの《台所の母子》は、何が描かれているか比較的分かりやすく、この光景を描くのになぜこのような形や色を選んだか、それによってどんな印象が生まれているか、想像を広げやすい作品となっています。

アルベルト・ジャコメッティ《女性立像》1952年
彫刻作品については、今回は作品本体だけでなく、その周りの空間も意識してみてください。少し離れて、作品が空間の中でどんな位置にあるのか考えてみたり、逆に近づいて作品の凹凸に注目してみたり。すると、どんな作品の周りにも、その作品が影響を及ぼしている空間があることが分かります。そこには何も無いけれど、作品と全く関係がないわけではない、そんな空間です。このことに気付くと、どこまでが「作品」でどこからが「作品ではない」のかが曖昧になってきます。例えばジャコメッティは《女性立像》のように細長い人物像が特徴的ですが、これは彼が、人物が占める空間や周囲の空気、そしてその人物との距離まで、自分に見えるものをそのまま表現しようとした結果、生まれたものです。それを踏まえると、一体どこまでが作品と呼べるでしょうか。また当館では、屋外展示場にも彫刻作品を展示しています。室内と屋外では感じ方に違いはあるのでしょうか。ぜひ確かめてみてください。
以上、「空間往来」の見どころを簡単にご紹介しましたが、今回ご紹介したのはあくまで一例です。タイトル通り、絵画から彫刻まで様々な「空間」を「往来(行ったり来たり)」しながら、自分なりの楽しみ方を見つけていただければ幸いです。
(徳島県立近代美術館学芸員 井手迫 蒼)
徳島県立近代美術館の 12 月の催し物
〔展覧会〕
■ 「 開館 35 周年記念展 美術と野獣-人間の根源へ」
10 月 4 日 (土) ~12 月 4 日 (日)
「美術と野獣」展特設サイト
https://art.bunmori.tokushima.jp/beast/
〔展覧会〕
■ 所蔵作品展2025年度Ⅱ「空間往来」
12月6日(土)~2026年4月5日(日)
【関連イベント】
・こども鑑賞クラブラボ 「空間往来」
とき:2025年12月13日(土)10時30分~12「時00分
ところ:徳島県立近代美術館 展示室1,2(2階)、アトリエ2(3階)
講師:近代美術館スタッフ
参加対象:中学生~大学生
料金:無料
定員:10人程度
申込方法:電話またはメールで申し込み。先着順で受け付けます。
*申込先は徳島県立近代美術館
TEL: 088-668-1088
E-mail:ae@bunmori.tokushima.jp
お電話又はメールにて、参加希望のイベント名とお名前、当日連絡先をお伝えのうえお申込みください。
・学芸員による展示解説 「空間往来」
とき:2025年12月21日(日)14時00分~14時45分
ところ:徳島県立近代美術館 展示室1,2
講師:久米千裕(主任学芸員)
参加対象:どなたでも
料金:要観覧券
申込方法:申込不要
※美術館ホームページもご参照ください。
https://art.bunmori.tokushima.jp/
|
|