中央テレビ編集 << 先月のコラムへ トップへ >> 次月のコラムへ 美術館からのエッセイ 開館 35 周年記念展「美術と野獣-人間の根源へ」 「野獣」とは、文字通り「野生の獣」を指し、本能のままに荒々しく生きているようなイメージがあります。一方、人間は、高度な言語や技術を開発し、文明を発展させてきました。人間は、野獣とは全く異なる存在に思えるかもしれません。しかし、人間は野獣ではない-と言い切ることができるでしょうか。かつて人間は、自然の中で獣と共に生きていたはずであり、今を生きる私たちにも「野獣」のような性質が潜んでいるのではないでしょうか。 当館は、今年で開館35周年を迎えます。コレクションの収集方針の一つが「人間像」であることから、長年にわたって「人間」というテーマに取り組んできました。本展では、人間の中の「野獣性」を見つめ直し、美術を通して人間の根源に迫っていきます。 1 人間と野獣のあいだ 展覧会の最初に、2人の現代作家の作品を通して、「人間」と「野獣」の関わりや繋がりに思いを巡らせてみましょう。 ロビーでまず皆さんを待ち受けるのは、鴻池朋子(1960-)の〈Earth Baby〉です。キラキラと輝く巨大な赤ちゃんの顔。人間のみならず、この地球上に生きとし生ける生命の源のようにも感じられます。鑑賞者の姿を鏡のように映し出し、その人自身の根源を探す旅へと誘います。 淺井裕介(1981-)は、土を主な画材として、人間や動物、植物などあらゆる生き物が入り混じったようなイメージを生み出しています。近作の〈いのちの手触り1〉〈いのちの手触り2〉では、鹿の皮や血も用いられています。森羅万象に宿る生命の豊かさや生と死の循環が、生々しい実感を伴って伝わってきます。 私たち人間は、効率よく世界を認識してしまう傾向がありますが、彼らの作品は、未分化で原初的な世界を捉えるための新たな視座を与えてくれることでしょう。 鴻池朋子〈Earth Baby〉2009年 ⓒTomoko Konoike 淺井裕介 右から〈いのちの手触り1〉・〈いのちの手触り2〉2024年 作家蔵 撮影:松野誠、写真提供:川崎市岡本太郎美術館 2 激しく、荒々しく 西洋美術史を概観すると、20世紀より前は、物語や外の世界を作品の中でいかにリアルに表現するかが重視されてきました。これに対し20世紀は、人間の内面や作品そのものの物質性をどのように表現するかが追究されたと言えるのではないでしょうか。 本章では、激しい色彩と荒々しい筆致で描いた「野獣派(フォーヴィスム)」を筆頭に、20世紀を通じて繰り返し現れてきた、内なるものを外へ、激しく・荒々しく表出しようとした作品を取り上げます。ぜひ、実際の作品を見ながら、理性だけでは解釈しきれない人間の内面性に触れてみてください。 白髪一雄〈猪狩 壱〉1963年 東京都現代美術館蔵 3 野生の目 フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロース(1908-2009)の『野生の思考』という著書があります。彼は、近代以降の効率や計画を重視する合理主義に縛られない、人間が本来持っている野生状態の思考方法を、先住民やその文化から見出しました。 本章では、科学や産業の革新が相次ぐ20世紀において、当時の社会や文明、美術規範などを批判し、先住民や動植物、古代の遺物などから生命の豊かさや力強さを再発見し、人間本来のあり方を求めた芸術家たちをご紹介します ポール・ゴーギャン〈ナヴェ・ナヴェ・フェヌア(かぐわしき大地)〉1893-94年(刷りは1921年/ポーラ・ゴーギャン版) 埼玉県立近代美術館蔵 おわりに 私たち現代人は、急速に進む社会の変化や科学技術の発展に伴い、生き物としての本能や自然とともに生きているという実感を見失いつつあるのではないでしょうか。本展が皆さんにとって、自分の中に潜む本能的で荒々しい性質を改めて見つめ直し、地球さらには宇宙という壮大な自然の中における、人間や自分という「命」と向き合う機会となれば幸いです。 (徳島県立近代美術館学芸員 浅田 真珠) 徳島県立近代美術館の10月の催し物 ■展覧会情報 開館 35 周年記念展「美術と野獣-人間の根源へ」 2025年10月4日[土]~12月14日[日] 大阪・関西万博特別連動企画「浮世絵の華-原安三郎コレクション-」 2025年9月6日[土]~10月13日[月・祝] 所蔵作品展2025度Ⅰ「徳島のたからもの」 2025年9月6日[土]~11月30日[日] ■イベント情報 ♢開館 35 周年記念展「美術と野獣-人間の根源へ」関連イベント ・学芸員による展示解説 10月5日[日]14時~15時 場所:ロビー、展示室3 担当:浅田真珠(学芸員) 対象:どなたでも 申込方法:申込不要 参加費用:要観覧券 ・こども鑑賞クラブラボ 10月25日[土]15時~16時30分 場所:ロビーに集合 進行:美術館スタッフ 対象:中学生~大学生 定員:10人程度 申込方法:電話・メール申込(先着順、当日参加可) 参加費用:無料 「美術と野獣」展特設サイト https://art.bunmori.tokushima.jp/beast ♢所蔵作品展2025度Ⅰ「徳島のたからもの」関連イベント ・こども鑑賞クラブ+ 10月25日[土]14時~14時45分 場所:ロビーに集合 進行:美術館スタッフ 対象:小学生 定員:30人程度 申込方法:電話・メール申込(先着順、当日参加可) 参加費用:無料(保護者は要観覧券) ・展示解説 10月26日[日] 14時~14時45分 場所:展示室1、2 講師:三宅翔士(主任) 申込方法:申込不要 参加費用:要観覧券 ♢てみるの時間 ・階段ジャック ワークショップ&展示 10月18日[土]、10月19日[日]13時~16時 展示期間:10月21日[火]~12月21日[日] 受付場所:徳島県立近代美術館ギャラリー前 対象:どなたでも 申込方法:申込不要 参加費用:無料 てみるの時間特設サイト https://art.bunmori.tokushima.jp/temiru/ ※申込先:電話088-668-1088、メールae@bunmori.tokushima.jp ※催しの詳細および追加は決定次第、当館HPやSNSでお知らせします。 https://art.bunmori.tokushima.jp/