中央テレビ編集 << 先月のコラムへ トップへ >> 次月のコラムへ 美術館からのエッセイ 所蔵作品展 2024 年度Ⅲ「“Z”と呼ばれる時代 」 最近よく耳にする「 Z 世代」という言葉。明確に定義が決まっているわけではありませんが、一般的には 1990 年代半ばから 2010 年代半ば頃に生まれた世代のことを指します。本展は、1990 年代から今に至るまでの Z 世代が生きる現代について、当館の所蔵作品を通して考える試みです。 ■第 1 章 少し前に起きたこと 1990 年代以降の社会をおおまかに振り返ってみると、どんな時代だったと言えるでしょ うか。第一に、インターネットや SNS 、スマートフォンなどが広まり、デジタル化が急速に発展した時代ということが挙げられると思います 。一方で、第二次世界大戦の終焉から 50 年以上が経過してもなお、世界の至る所で戦争や紛争、無慈悲な虐殺が頻発したり、大地震 や大洪水など未曽有の自然災害が多数生じたりするなど、人間の生命が危険にさらされる 出来事が多かった時代だったとも言えるでしょう。 本章では、この時代の社会を反映した作品を中心に紹介します。林勇気の〈 light/shadow 〉のようにスマートフォンを操作する手の動きを映像化した作品をはじめ、戦争や虐殺を主 題とした作品や、高度化する社会への不安感を表現した作品などを展示します。 林勇気〈lig ht/shadow 〉2019 年 ■第 2 章 自分らしさとは 「 Z 世代」の特徴は?と聞かれたら、どんなことが思い浮かびますか。物心ついた頃からインターネットが普及し、スマートフォンや SNS を巧みに使うデジタルネイティブであることが一番に思い当たるかもしれません。また、芸能人でなくても SNS を通して自分自身 を積極的に発信したり、仕事よりも自分の趣味を優先したりするなど、自分らしさを重視する傾向があると言えます。このような個を重んじる考えは、Z 世代特有のものではなく、社会全体にも広まっています。現代は、「多様性の時代」と言われるほどに、私たち一人一人が自分らしく生きることが尊重される時代だと言えるでしょう。 そこで本章では、 Z世代だけではなく現代社会の重要なキーワードとも言える「自分らしさ」について、美術を通して考えていきます。作家の自画像や自刻像に加え、様々な視点からアイデンティティについて考えさせられる作品を取り上げます。例えば、〈キキ・ド・モンパルナスのマスク〉は、20世紀初めのパリで多数の芸術家のモデルを務めたアリス・プランの顔の特徴を抽出して構成し、伝説のモデル「モンパルナスのキキ」を表現した彫刻です。社会的な地位や役割という彼女の外側のみが表され、内側の空洞はまるで本当の彼女自身が存在しないことをほのめかしているかのようです。また、津田亜紀子は、型取りを反復身が存在しないことをほのめかしているかのようです。また、津田亜紀子は、型取りを反復し、繰り返される模様で人体を表現することで、大量生産された商品にあふれる社会の中で、 人間存在におけるコピーとオリジナルの関係を探ろうとしました。他にも、本能的で自身の気持ちに対して真っ直ぐな子どもの姿に人間の本質を求めた、奈良美智の作品を展示しま す。これらの作品を通して、「自分らしさとは何か」じっくりと考えてみてください。 パブロ ・ガルガーリョ〈キキ・ド・モンパルナスのマスク〉1928 年 津田亜紀子〈繰り返される模様〉1999 年 奈良美智〈UNTITLED BROKEN TREASURE )〉 1995 年 美術を通して、少し前から今に至る現代を改めて振り返ることは、これからも生きていくためのヒントや活力につながるのではないでしょうか。激動の現代社会を生きる自分自身 を、改めて見つめ直す機会となれば幸いです。 (徳島県立近代美術館 学芸員 浅田 真珠) 徳島県立近代美術館の12月の催し物 ■ 特別展 「 没後 120 年 エミール・ガレ展 」開催中~ 1 2 月 15 日 (日) ■所蔵作品展 2024 年度Ⅲ「 Z” と呼ばれる時代 」開催中~ 2025 年 4 月 20 日 (日) 関連イベント ・「 Z 世代学芸員によるおしゃべり解説 」 12 月 8 日 (日) 午後 2 時~ 3 時 講師:担当 学芸員 展示室1 対象:どなたでも 申込不要 要観覧券 ・ こども鑑賞クラブ 「こどもと呼ばないで」 12 月 14 日 (土) 午後 2 時~ 2 時 45 分 講師:近代美術館スタッフ 展示室1,2 対象:小学生 美術館ロビーに集合 定員: 30 名程度 電話で申込(当日参加可) 無料(保護者は要観覧券)