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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
没後120年 エミール・ガレ展
自然を愛したガラス芸術の天才
 19世紀末ヨーロッパに花開いた装飾様式「アール・ヌーヴォー」の巨匠エミール・ガレ(1846-1904)は、草花、昆虫など自然をモティーフにした美しいガラス作品を数多く生み出し、ガラス工芸を芸術に高めた革命児でした。  
 ガレはフランス北東部の都市ナンシーで、ガラス器や陶器を製造、販売していたガレ家の長男として生まれました。文学、哲学、音楽、植物学、鉱物学などに通じ、歴史主義、ジャポニスム、象徴主義などの影響を受け、世紀末ベル・エポックへいたる激動の時代と共に歩み、革新的な創造力を発揮したガレは、モダン・デザインの源泉に位置付けられる重要なアーティストです。  
 本展では、自然美の奥深い魅力と深い精神性を表現したガラス作品、陶器、家具、ランプなど多彩な制作を、国内の個人コレクター所蔵の貴重な作品を中心に紹介しガレ芸術を一望します。


《花器(ニンフ、唐草)》1884年頃 個人蔵



《猫型置物》1865-90年代 松江北堀美術館蔵


■アイデア無尽蔵
 展覧会は3章構成です。最初のコーナーでは、古代ギリシャやロココなど過去の様式やジャポニスム(日本趣味)をヒントに様々な趣向を凝らした製品を紹介します。  
 《花器(ニンフ、唐草)》は、エナメル彩色の絵付けが主流である当時の風潮に逆らった、繊細な彫刻表現が魅力的です。《猫型置物》はロングセラー商品だったとか。若々しい想像力と遊び心、絵付けの品位にも注目です。
 ジャポニスムの作例は、日本の美意識とヨーロッパの目線が融合しており、興味深いものがあります。


《飾り棚(エリンギウム)》1896-98年頃 松江北堀美術館蔵



《蓋付瓶(ブドウ)》1900-02年頃 ポーラ美術館蔵


■思索するデザイン
 展覧会の第2章は、深化するガレの世界に注目します。実用品をつくる一方で、新しいガラス成形技術や、深い世界観を表現に込めた意欲作を発表し頭角を表したガレは、1878年「エミール・ガレ」の商標でパリ万国博覧会に出品し、ガラスと陶器の部門でメダルを獲得し注目されます。1889年万博ではガラス部門グランプリ、1900年万博ではガラスと家具の部門でグランプリを得て大活躍します。  
 《飾り棚(エリンギウム)》はジャポニスム風のシルエットに大胆な花や枝葉のデザインがあしらわれます。パネルには象嵌細工で陽光を浴びて咲く花の情景。  
 ガレのガラス器には詩文が入った「ものいうガラス」と呼ばれるシリーズがあり賛否両論の注目を集めます。当時、文学から音楽、美術まで広く流行した象徴主義の思潮がありました。人間の内面的な苦悩や夢想など目に見えないものを追求する芸術観が、ガレをとらえます。「悲しみの花瓶」シリーズの黒ガラスによる革新的な表現はその成果で、工芸分野における精神的な表現の可能性を開拓しました。


《花器(オダマキ)》1898-1900年 ヤマザキマザック美術館蔵



《花器(プリムラ)》1900年頃 個人蔵



《花器(バラ)》1901年頃 大一美術館蔵


■花への愛
 ガレ芸術を特徴づけるのは何といっても花。彼は熱心な園芸研究家であり、自宅の広大な庭園に各種の植物を集めました。展覧会の第3章はアール・ヌーヴォーの中心的作家として活躍し、孤高の境地とも言われる技の極みをご覧いただきます。  
 《花器(オダマキ)》は器が花弁の姿になっており、ガラス技法を駆使して花が咲き誇る情景を描いています。《花器(プリムラ)》では、薄いレリーフ状の花柄に彫りのタッチを活かして立体感と艶めかしさを生み出します。あえて古色を加え、生まれては朽ちていく自然の深遠さを感じさせる演出は、まさにガレの真骨頂。《花器(バラ)》はドイツとの戦争で奪われた故郷ロレーヌに咲くバラを痛ましくも健気な姿に描きます。


《ランプ(リンドウ)》1902-04年頃 個人蔵


■ガレと時代
 19世紀後半、歴史様式や異国趣味の折衷にとらわれていた装飾美術を改革し、新時代のデザインを求める思潮が展開しました。その変革のターニングポイントとなったのがアール・ヌーヴォーの流行です。生きとし生けるものの生命感、人間の想像力を活かして、デザインの歴史は大きく動きました。ガレはその時代とともに歩みました。
 鉄やガラスなどの新素材を活かしたのもアール・ヌーヴォーの特徴です。ガラス作家ガレの存在は、この動向を象徴するような面も背負っているように思われます。
  文学や絵画と肩を並べ、思想や世界観を表明する場として作品発表に打ち込み、会社経営者として職人たちと製品開発にあけくれ、地元ナンシーの工芸界、園芸の分野に指導的役割を果たしたガレ。全てに正直に打ち込んだその生き方は、私たちに熱いエネルギーと勇気を与えてくれるのではないでしょうか。

(徳島県立近代美術館 課長 竹内 利夫)


徳島県立近代美術館 10月の催し物

〔展覧会〕
◆特別展 没後120年 エミール・ガレ展 10月12日(土)-12月15日(日)
◆所蔵作品展 2024年度II 開催中-11月24日(日)
◆ぶんかつギャラリー[てみるの時間2024年度プレ事業] 10月1日(火)-6日(日)

〔エミール・ガレ展関連イベント〕
◆スペシャルトーク 10月12日(土) 14時-15時30分
講師:鈴木潔(本展監修者・美術史家) 展覧会場 要観覧券
◆ガレ入門ツアー 10月14日(月・祝)、10月20日(日)、11月4日(月・振休)、11月17日(日) 14時から約30分 進行:美術館スタッフ 展覧会場 要観覧券
◆こども鑑賞クラブ「ガラスの森」 11月16日(土) 14時-14時45分
進行:美術館スタッフ 対象:小学生(保護者同伴可。観覧券をお求めください)
展覧会場 定員30人程度 電話で申込(先着順)当日参加も可 無料

〔所蔵作品展 関連イベント〕
◆展示解説「時をめぐる表現」 10月6日(日) 14時-14時45分