美術館に収蔵されている作品たちは様々な材質でできています。特に、紙や木材、膠、糊、絹などは虫の餌や住処になりやすく、このような虫害を未然に防ぎ、作品を守ることも美術館の役割の一つです。
美術館の展示室は温度や湿度が安定し、人にとって非常に過ごしやすい環境ですが、これは虫にとっても過ごしやすく、繁殖しやすい環境です。そのため、害となる生物を寄せ付けないこと、生育しない、生育しにくい環境をつくることを対策の基本としています。徳島県立近代美術館は展示室から屋外展示場までのルートが非常に近く、屋外展示場周辺は自然豊かな環境に囲まれているため、特に虫の侵入などには気を配る必要があります。
日本の美術館や博物館では1960年頃から薬剤を用いたガス燻蒸が行われ、作品の中に潜む生物に対して殺虫・殺菌処置を施してから展示室や収蔵庫に搬入してきました。燻蒸の効果に長期的な効果はなく、保管・展示する環境が悪ければ、再び虫害の被害が発生する可能性もあります。さらに、燻蒸で使用するガスは環境や人体の健康に影響を与えることも課題となっています。
したがって、近年では IPM (Integrated Pest Management 総合的有害生物管理)に取り組む館が増えてきています。
IPM とは可能な限り薬剤に頼らず、日々の点検や清掃で虫やカビなどを寄せ付けない環境を整え、もし被害が発生した場合は環境に配慮した駆除を行う管理方法です。具体的には、定期的な清掃、虫トラップを使用したモニタリング、物理的に虫の侵入を防ぐ、保管・展示環境への持ち物制限、温湿度を一定に保つことなどです。
展示室での飲食禁止のお願いは 、作品への汚損を防ぐだけではなく、虫たちの餌となり得るものを極力減らすための取り組みです。作品を長く守っていくためには、このような来館者の皆さんや、毎日きれいな環境を保ってくれている清掃の方、展示室にいる監視員の協力も重要となってきます。今年の夏は猛暑も続き、虫たちの活動も活発ですが、美術館も皆さんと一緒に元気な虫たちに負けないよう頑張っていきます。
(徳島県立近代美術館 学芸員 飯田 恵実)
徳島県立近代美術館
9月の催し物
■所蔵作品展 2024 「時をめぐる表現」 7月27日[土]- 11月24日[日]
【関連イベント】
・こども鑑賞クラブ「 時間よとまれ! 」
9月月7日[土]14時-14時時45分 対象:小学生
美術館ロビー集合、定員30名程度、電話申込(当日参加可)、無料(保護者は要観覧券)。
■特別展「大久保英治:辺境の作家 1973-2024」会期:7月13日[土]-9月23日[月・振休]
【関連イベント】
・学芸員の見どころ解説 9月8日[日]いずれも14時-15時
展示室3にて、申込不要、要観覧券。
・ギャラリートーク「大久保英治 自作を語る」9月月23日[月・振休] 13時時30分-15時
展示室3にて、申込不要、要観覧券。
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