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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
所蔵作品展2024-Ⅱ「時をめぐる表現」7月27日[土]-11月24日[日]
 流れる時間を美術の中に閉じ込めるとしたら、どんな表現が生まれるでしょうか。今回の所蔵作品展では、時間と関わりの深い作品をご紹介します。

■一瞬をきりとる
 まずは、一瞬の時間をとらえた作品を見てみましょう。村上華岳は、自身の信仰心を反映させた仏画で知られる一方で、花街を身近に育った背景からか、そこで生きる女性たちに温かいまなざしを向けた作品も残しています。しなやかに舞い、指先に視線を向けて伏し目になる舞妓の一瞬の姿をとらえた〈踊り之図〉からは、華岳による女性たちへの共感や思慕のまなざしを見出すことができます。また、暖簾の向こうから遠くを見やる女性の涼しげな姿を描いた鏑木清方の〈夏姿〉も展示します(2点とも前期7月27日-9月29日までの展示)。


村上華岳〈踊り之図〉1917年(前期展示)


■いくつかの時間―多場面 
 同じ画面上にいくつかの時系列のできごとを同時に描いたり、時間の推移を連作によって表現したりした作品をご紹介します。 桂ゆきの〈さるかに合戦〉は、子がにとその仲間たちがさるを懲らしめるクライマックスのシーンが中央に描かれている周りに、別の場面である、病んだ母がにや、何かを計っているような子がにたちの姿があります。  
 一方、松井憲作の〈絵画弾〉シリーズでは、次の画面へと目で追うごとにコマ送りのように時間が推移していきます。作品を見ていく私たちはやがて「絵画弾」と作家が言う「何か」を投げつけられ、作家が胸にもつ抗議や批判の思いを浴びる気持ちになるかもしれません。


松井憲作〈絵画弾10〉1977年


■時の蓄積  
 長い時間の蓄積を感じられる作品もあります。石内都の〈Mother’s 25 MAR 1916〉シリーズは、作家自身の母の肉体を撮影した写真です。抽象的にも見えるモノクロームの画面には、やけどの跡や皺が刻まれた肉体が写されています。母という一人の人間が生きた記憶を作品として残そうとする、娘としての作家の姿が浮かび上がります。


石内都〈Mother’s 25 MAR 1916#66〉(後期10月1日-11月24日までの展示)


 人間の全ての営みは時間と切り離せない以上、あらゆる美術作品が時間と深くつながっていると言えます。時間という視点から、作品を見つめてみましょう。

(徳島県立近代美術館 学芸員 宮﨑 晴子)


○同時開催
特別展「大久保英治:辺境の作家 1973-2024」会期:7月13日[土]-9月23日[月・振休]
【関連イベント】
・学芸員の見どころ解説  8月4日[日]、 9月8日[日]いずれも14時-15時 
 展示室3にて、申込不要、要観覧券。
・こども鑑賞クラブ「しぜんとにんげん」
 8月3日[土]  14時-14時45分 対象:小学生 
 美術館ロビー集合、定員30名程度、電話申込(当日参加可)、無料(保護者は要観覧券)。

・手話通訳付き展示解説
 8月4日[日]  10時-11時30分
 展示室3、対象:どなたでも、申込不要、要観覧券。

・クロストーク「美術×歴史 いにしえのロマンを求めて」
 8月25日[日]  13時30分-15時
 講師:大久保英治、ゲスト:長谷川賢二(徳島県立博物館上席学芸員)、聞き手:友井伸一(当館上席学芸員)、展示室3、申込不要、要観覧券。

 申込先は徳島県立近代美術館 088-668-1088