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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ

 近代美術館で13日から始まる所蔵作品展2024年度Ⅰ「新収蔵作品を中心に」では、昨年度新たにコレクションに加わった、黒川弘毅や福田美蘭など現在も精力的に活動する作家や、1950年代の様々な社会問題に取材したルポルタージュ絵画を描いた尾藤豊の作品などを展示します。  
 黒川弘毅は、ブロンズ鋳造で通常行われる型取りを行わず、直接手で掘った形にブロンズを流し込む方法をとる彫刻家です。その黒川が、初めて人型をテーマに手がけた〈Eros〉シリーズの作品3体が、一堂に会します。  
 黒川は、彫刻家の仕事とは、外部にある存在がこのように現れたいと望むような形を生み出すことであると語っています。そして、古代ギリシャの哲学者、プラトンの『饗宴』を引きつつ、〈Eros〉とは神々と人間の中間的存在-ダイモーンであり、神々の精妙な身体と人間の揺らぐ情念を兼ね備えた存在である、と説きました。人型の制作に込められた黒川の思考は、私達を深遠なる美の世界へと誘うかのようです。  


黒川弘毅〈Eros46〉〈Eros47〉〈Eros48〉


 福田美蘭は、古今東西の名画や時事問題を題材に、固定観念を覆すようなユニークな作品を生み出す作家です。〈ぶれちゃった写真(マウリッツハイス美術館)〉はフィルムカメラの手ブレ画像に触発された作品で、私たちの物の見方に揺さぶりをかけてくるかのようです。福田は、主に西洋や日本における美術史上の名画、メディアで用いられる時事的な画像を引用し、イメージが氾濫する現代における美術の意味を問い続けています。  


福田美蘭〈ぶれちゃった写真(マウリッツハイス美術館)〉2003年


 最後に、尾藤豊の〈顔のある風景2〉を見てみましょう。画面中央に、四肢を解体された異様な人体が大きく描かれています。頭部と思しき物体を掴むかのように真っすぐ振り上げられた手や、地を這うかのように投げ出された足が痛々しく、悲壮な印象を強めています。その一方で、画面右側に伸びる手はこちらに陽気に手を振っているかのようで、ユーモラスです。  
 人体の周りには、豊漁を祝う大漁旗や船を繋ぎ止めるための杭などがあることから、港の風景が描かれていることが読み取れます。とすれば、この人体は戦後の復興の陰に取り残されつつあった漁村の人々を表しているのでしょう。権力に翻弄される人間の存在を捉えようとした、尾藤の1960年代の作風がよく現れた1点です。  


尾藤豊〈顔のある風景2〉1962年


 この他、伊原宇三郎や原菊太郎、幸田春耕・暁冶父子など、徳島ゆかりの作家の新収蔵作品、資料等も合わせてご紹介します。

(徳島県立近代美術館 主任 三宅 翔士 )


徳島県立近代美術館4月の催し物

所蔵作品展2024度Ⅱ「新収蔵作品を中心に」
4月13日(土)-7月21日(日)
■関連イベント 展示解説「新収蔵作品を中心に」 4月20日(土) 14時-14時45分

特別展「ユーモア-おかしみの表現に潜むもの-」
4月27日(土)-6月30日(日)