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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ

 美術館には展示や教育普及、調査研究の他に、作品を保管する役割があります。保管とは、 ただ作品を収蔵庫や展示室に置いておくだけではありません。絵画や彫刻は温度や湿度などの周辺環境に敏感であり、管理を怠ると変色や変形といった損傷が生じ、作品が大きく変化する恐れがあります。 作品が傷みにくい環境管理や作品のメンテナンス、修復なども保存業務の役割です。
 近年、美術作品の修復についてメディアに取り上げられることが多くなりましたが、そもそも、作品はどのような事象により損傷してしまうのでしょうか。 油彩画を例に見てみましょう。油彩画の損傷は「経年劣化や自然発生する損傷」、「後天的な損傷」、「過去の修復によ る損傷」の3点に大きく分類されます 。
 経年劣化は、絵具の亀裂やキャンバスの脆弱化など、避けられない物理的な劣化のことです。また、自然発生する損傷は、画家本人が不適切な技法や材料を使用したことによる劣化や、材料の品質に問題があった場合に生じます。
 後天的な損傷は、保存環境が整っていないことや 、作品の取り扱いの不注意、災害や事故、盗難、人為的な破壊などによって生じます。先に述べたように、作品にとって保存環境は非常に重要です。例えば、温湿度の大きな変化が生じると、キャンバスの繊維や絵画層の絵具が伸縮します。キャンバスの繊維と絵具は伸縮性が全く異なるため、固く硬化 している絵具が割れたり、浮き上がったりし、キャンバスから剥がれ落ちてしまいます。そのため、絵画は温湿度が一定で、清潔な環境下で保管しなければなりません。また、温度や湿度 の他に、光や空気汚染、生物といった作品に影響を及ぼす可能性のあるものにも気を配る必要があ ります 。


展示室内の温湿度計

 最後に、過去の修復による損傷についてです。修復は、作品の美しい姿を取り戻すための行為と考えられがちですが、必ずしもそうとは限りません。修復材料や方法のメリット・デメリットを見誤れば、寧ろ作家本人が制作したオリジナルを失う恐れがあります。修復は作品へ介入する作業であるため、作品のオリジナルや作家本人を尊重することが求められます。また、現在は正しいと考えられる処置であっても、後世の人々からは不適切な処置であったと評価されるかもしれません。しかし、今のわたしたちが脆弱化した作品の保存修復処置を行わないと、数十年、百年後には消失し、後世に残すことが困難となる作品もあります。わたしたちは、今後より良い修復材料や方法、修復理論が生まれることを期待しつつ、今ある唯一無二のかけがえのない作品を後世に継承するために、最善の保存修復を行わなければなりません 。

(徳島県立近代美術館 学芸員 飯田 恵実)


徳島県立近代美術館 3 月の催し物

[展覧会]
所蔵作品展 徳島のコレクション 2022 年度第 3 期 2023 年 4 月 9 日(日)まで
[展覧会 関連イベント]
◆ 展示解説「所蔵作品展 徳島のコレクション 2022 年度第 3 期」
2023 年 3 月 26 日 (日 1 4 時― 14 時 45 分
[フリースペース チャレンジとくしま芸術祭 2023 関連イベント]
◆[ こども鑑賞クラブ「お絵かきダイスキ」 ]
3 月 11 日 土 14 時 14 時 45 分 要申込
◆ 受賞者発表会
・展示部門 3 月 11 日(土)、 12 日(日)
9 時 30 分― 17 時 美術館展示室 3 2 F) 無料
・パフォーマンス部門
13 時 30 分開場 14 時開演 徳島県立二十一世紀館イベントホール( 1 F) 無料



・コラボ企画 [ アートでわくわく!かるた名人 ]
3 月 5 日(日) 10 時― 16 時 要申込
・連携企画 [ 博物館アワカルト講座「食・たべる」 ]
3月 5 日(日) 13 時― 16 時