中央テレビ編集 << 先月のコラムへ トップへ >> 次月のコラムへ 美術館からのエッセイ 絵の中で思い出に出会う ■思い出をポジティブに 好きな風景の絵や、気になる人物の絵を見るとき、私たちの心には様々な気持ちや連想が思い浮かびます。言葉、イメージ、気分あるいはできごとの記憶が長々と思い出されることもあるでしょう。 このたびの特別展「思い出のアルバム」では、作品から受け取るものと、自分の中から届いてくるものを寄せ集め、あたかもアルバムをつくるように滞在時間を楽しんでいただきたいと思います。これまで当館では「ユニバーサル美術館」展を毎年シリーズで開催してきました。今回は「高齢」をテーマに選び、思い出という切り口で大人から子どもまで人生を語る場をつくれたらと考えました。 過去を思い出すことを人間の能力としてポジティブにとらえる「回想法」のアクティビティをヒントに、手作業をするテーブルや、思ったことを書きとめてみる場所などを用意しています。 無理して何かを思い出す必要もありません。絵を見ることでふと自分に出会い直す、そんなひとときが生まれたらうれしいです。 ■思い出が絵に変わるまで 徳島県阿南市出身の版画家、吹田文明は、〈南に散りし友に捧ぐ〉という作品で、第二次世界大戦中に戦地へ見送った人への弔いの思いを描きました。しかしそれは戦後50年も経てのことで、長らくその題材を絵にすることができなかったといいます。生き残った者として何かに打ち込む使命感に駆られ戦後美術に向かった作家にとって、思い出を振り返ることができるまで、時間と心境の変化が必要だったのでしょう。人が見たり経験したりしたことが、すぐさま絵に変わるとは限らないことを考えさせるエピソードです。 吹田文明〈南に散りし友に捧ぐII(戦後50年の鎮魂詩)〉1995年 当館蔵 ■画家の見た光景 展覧会の出品内容は、思い出という言葉を手がかりにして、日々の暮らしや旅先の風景を題材としたもの、また人の成長や人生の振り返りを絵を通して確かめている作品など、いくつかの観点から選び、会場を思い出のアルバムに組み立ててみます。 廣島晃甫は、日本画家として脂ののった40代の時期にヨーロッパ各地を訪れ精力的にスケッチを行っています。〈南欧風景〉は、洋画的な新しい日本画を試みるのびのびした気持ちが感じられる作品です。多くの作家が旅の取材を元に制作しますが、それは思い出のために描くというより、その場所だからこそ感じられる画趣が貴重なものだからでしょう。展覧会場では海外や日本、徳島の風景も含め、画家たちの眺めた風景の体験に私たちも思い出を重ねてみたいと思います。 前田寛治は身近な人物像を好んで描きました。〈大工〉は気取らない日常の光景を勢いのいい筆づかいで伝えます。清原重以知もまた家族をよく題材に選びました。〈南の椽(えん)〉は日だまりの縁側の好ましさを臨場感たっぷりに描出します。 廣島晃甫〈南欧風景〉1931年 当館蔵 前田寛治〈大工〉1927年 当館蔵 清原重以知〈南の椽(えん)〉1930年 当館蔵 ■未来の思い出 展示室最後のコーナーには、時の流れと人生を思わせる作品を選んでいます。過去の記憶を思い出として意味づけしているのは、今を生きる自分にほかなりません。思い出は現在から未来へつながっているとも言えるのではないでしょうか。 語ることが作品鑑賞の土台となることを楽しめるような展覧会になればと思います。会場にはソファやテーブルがあります。リラックスして思いついたことを書きとめたり、ちょっとした手作りグッズを作ってみたり、思い出話で交流したりして、新しい美術館の楽しみ方を見つけていただけると思います。 (徳島県立近代美術館 上席学芸員 竹内 利夫) 徳島県立近代美術館 12月の催し物 〔展覧会〕 ◆特別展 思い出のアルバム―人生を語るユニバーサル展示 12月10日(土)-2023年1月9日(月・祝) ◆所蔵作品展 徳島のコレクション 2022年度第3期 11月12日(土)-2023年4月9日(日) 〔思い出のアルバム展関連イベント〕 ◆あの手この手で交流トーク 12月10日(土) 14時-16時30分 要申込 ◆作業スペース「タンスの中の思い出をひっぱりだして」 12月16日(金)、17日(土)14時-16時 要申込 ◆物語ワークショップ「あなたが絵の中においてきた思い出」 12月18日(日)14時-16時 要申込 ◆展覧会ツアー 12月25日(日)、1月9日[月・祝] 14時-15時 ◆こども鑑賞クラブ「あなたの思い出」 12月24日(土) 14時-14時45分 要申込 ◆ゆるりかかわりアクティビティ「思い出あつめて」 1月8日(日)13時-16時 要申込 申込:電話、FAX、メールで申し込んでください。先着順で受け付けます。メール:ae@bunmori.tokushima.jp(@を半角に書きかえてください) 〔所蔵作品展 関連イベント〕 ◆展示解説 12月3日(日) 14時-14時45分