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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
徳島の画家たちが描いた静物画

 静物画とは、本や花瓶などの身近な人工物や、あるいは草花や果物、食卓に上る魚など自然界から切り離されて人間界にもたらされたものを主題とする絵画のことです。そしてそれは、西洋で17世紀頃に誕生し、近代以降に日本に伝わりました。  
 今期の所蔵作品展の「徳島ゆかりの美術」のコーナーでは、徳島ゆかりの画家たちによる静物画を集めて展示しています。彼らはそれぞれ、時代の潮流に反応しながら、この主題において独自のスタイルを追求しているのです。その中から、いくつか作品をご紹介しましょう。


守住勇魚〈急須〉明治前期 徳島県立近代美術館蔵

 守住勇魚(1854-1927)は、阿波藩の御用絵師の家に生まれ、自身は東京に創設された工部美術学校で学びました。そこは、明治政府によって設立された、西洋美術を本格的に学ぶことのできる初めての学校でした。彼の作品である〈急須〉は、普段の生活の中にある物が、油絵のつややかな絵肌と克明な陰影表現によって表現されています。これを見ると、見慣れた事物が西洋的な見方に翻訳されて描かれたときの人々の驚きが伝わってくるようです。


伊原宇三郎〈窓際の静物〉1927-1928年頃 徳島県立近代美術館蔵

 伊原宇三郎(1894-1976)は、東京美術学校を卒業し、1920年代の後半にはパリに渡って本場の西洋美術を学びました。そして帰国後は、画壇の中心人物として活躍するかたわら、西洋美術の根底にある理論や思想を日本の美術界に紹介しました。留学中、特にピカソに傾倒した伊原は、この〈窓際の静物〉を見ても分かるように、ピカソのキュビスムから強い影響を受けた作品を多く遺しています。一方でこの作品では、事物にやわらかな影が描かれていることや、画面が土っぽい色彩で統一されているところに、伊原らしさも表れています。

 そのほかにも、1920年代前後に隆盛していた細密描写での表現から、独自のラフな筆触による表現へとスタイルを変化させながら静物画に取り組み続けた清原重以知(1888-1971)、シュルレアリスムや抽象絵画に取り組み、戦争の影響で作風を変えながらも作品を描き続けた森堯之(1915-1944)、東京で木版画を学び、郷里の三好で木偶人形や阿波踊りなどの徳島の風物を題材に版画を制作した谷口董美(1909-1964)など、さまざまな作家による静物画を紹介しています。ぜひ、会場にお越しください。

                                         (徳島県立近代美術館 学芸員 宮崎 晴子)

展覧会情報

2022年度所蔵作品展 徳島のコレクション第1期 416()73日(日)

〈関連イベント〉

・展示解説 619日(日)14001445、要観覧券、申込不要

・こども鑑賞クラブ「カルタ入門」7月2日(土)14001445、小学生対象、参加無料、定員15名、電話申込、先着順(保護者同伴可/要観覧券)

特別展「カミのかたち」 423日(土)-619日(日)

〈関連イベント〉

・こども鑑賞クラブ「カミのパワー」64日(土)14001445、小学生対象、参加無料、定員15名、電話申込、先着順(保護者同伴可/要観覧券)