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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
聖なる「カミ」の表象を探る

 古来から、人々はこの世界に潜む神秘的な力を、アニミズム(自然現象に宿る力への信仰)、神話や伝説、宗教などによってとらえてきました。徳島県立近代美術館の春の特別展「カミのかたち」展では、そのような威力を持つものを「カミ」ととらえて、当館の所蔵作品から近代以降の美術作品における「カミ」を探ります。
 展示は3章に分かれています。最初の「神話、宗教」では、仏教やキリスト教、各地の神話をテーマにした作品を集めました。世界各地の民族や地域は様々な神話を持ち、それらの神々の多くは人間の姿で表されてきました。それは仏教や、元来は偶像禁止のキリスト教においても同様です。ここでは、横山大観、下村観山、堂本印象、上野泰郎、ルオー、ピカソ、カンディンスキー、マイク アンド ダグ・スターンらによる、人格化、抽象化、暗示などの「カミ」への様々なアプローチを紹介します。

 
下村観山〈毘沙門天 弁財天〉1911年 徳島県立近代美術館蔵


横山大観〈樹下苦行〉明治後期 徳島県立近代美術館蔵

 次章の「偶像の彼方に 女神たち」では、女神に焦点を当てます。西洋に見られる愛と美の女神ヴィーナスの系譜を引く作品としては、果樹園の女神ポモナを表したマイヨールの彫刻や、三美神をモチーフとしたピカソの版画などを展示します。既製の石膏像に彩色したイヴ・クラインや、ミロのヴィーナスの複製石膏像を利用した靉嘔の作品は、ヴィーナス像への現代的なアプローチといえるでしょう。


アリスティード・マイヨール〈着衣のポモナ〉1921年 徳島県立近代美術館蔵


イヴ・クライン〈ブルー・ヴィーナス〉 1970年 徳島県立近代美術館蔵

 また、時代を彩るアイドル(偶像)や実在の恋人も女神となります。ガルガーリョの〈キキ・ド・モンパルナスのマスク〉は20世紀初頭パリのアート・シーンで活躍した女性キキがモデルです。また、マリリン・モンローはアンディ・ウォーホルをはじめ多くの作家が作品にしています。ピカソの〈ドラ・マールの肖像〉や〈赤い枕で眠る女〉は恋人を描いた作品です。これもまた、個人的な女神の姿といえるでしょう。


パブロ・ガルガーリョ〈キキ・ド・モンパルナスのマスク〉1928年 徳島県立近代美術館蔵

 最終章「姿なきカミ 自然と風土」では、アニミズムに通じる自然への畏れや敬意を見せる作品を紹介します。ドイツ表現主義のフランツ・マルク〈動物伝説〉は、野生や原始的な力を宿す動物を通して、純粋な精神性を象徴的に描いています。高橋秀の〈日本神話〉や白髪一雄の〈太古〉は、いにしえの原初的なものがモチーフです。大久保英治の〈吉野川-場の刻〉は、吉野川に潜む八百万の神と交感するように川沿いを歩行して生まれた作品で、ここにしかない輸出不可能な自然と風土に根ざしています。私たちの身近な徳島の自然にも「カミ」は潜んでいるのかもしれません。


フランツ・マルク〈動物伝説〉1912年 徳島県立近代美術館蔵


大久保英治〈吉野川-場の刻 6/30・9/29・12/1〉2012年 徳島県立近代美術館蔵

 政情不安や感染症の拡大など、世界はいま不安に満ちています。聖なるものの表象を通じて、眼には見えないけれど根源的で大切なことに思いをはせる機会となることを願っています。
                                        (徳島県立近代美術館上席学芸員 友井 伸一)

展覧会情報

・特別展「カミのかたち」 4月23日(土)-6月19日(日)

【観覧料】一般 400(320)円/高・大学生 300(240)円/小・中学生 200(160)円

・2022年度所蔵作品展 徳島のコレクション第1期 4月16日(土)-7月3日(日)

【観覧料】一般200[160]円/高・大生100[80]円/小・中生50[40]円

※[ ]内は団体(20名以上)等の場合

 

関連事業

・所蔵作品展 徳島のコレクション 展示解説 

5月8日(日)14:00-14:45、要観覧券、申込不要

 

・特別展「カミのかたち」 学芸員の見どころ解説 

5月29日(日)14:00-15:00、要観覧券、申込不要

 

・特別展「カミのかたち」手話通訳付き展示解説 

5月29日(日)10:00-11:30、要観覧券、申込不要(聞こえる方もご参加ください)