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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
所蔵作品展 徳島のコレクション 2022年度第1期

 人間が年齢を重ね、成熟していく先には、何があるのでしょうか。今回の所蔵作品展では、人生におけるさまざまな年代の人間が表現された作品を紹介します。表現された人物の生きてきた時間の蓄積が伝わるそれらの作品と向かい合うことで、ひるがえって自分自身が積み重ねてきた時間、そしてこれから先に広がっている時間について、じっくりと想像し、考えをめぐらせる機会となればと思います。


椿貞雄〈弟茂雄像〉1915年 徳島県立近代美術館蔵

 まず紹介するのは、椿貞雄(1896-1957)の〈弟茂雄像〉です。画面には、目の前を見つめてたたずむ少年の姿が描かれます。作者の椿は、生涯の師とした岸田劉生(1896-1957)ゆずりの細密描写で、少年のまつげや眉の一本一本の線、表情に表れる細かな皺や陰影、そして瞳の輝きを描き出しています。本作を描いたとき、椿は19歳でした。細密描写への志向だけでなく、自身の若い感情への共感もまた、作者に少年の表情に兆すひとつひとつの陰影を正確にとらえさせたのかも知れません。


ヴィルヘルム・レームブルック〈ザリー・ファルクの肖像〉1916年徳島県立近代美術館蔵

 次は、ヴィルヘルム・レームブルック(1881-1919)の〈ザリー・ファルクの肖像〉を見てみましょう。レームブルックの友人でありまた彼の作品のコレクターであった人物をモデルに、その頭部が表現されています。レームブルックの作品は、人間の造形を縦長に引き延ばして表現することを特徴としており、この作品にもそれが表れています。しかし本作においてその特徴は強調されておらず、私たちはむしろ静謐さと知性があふれた彼の表情に注目することになります。モデルとなった人物がこれまで過ごしてきた人生の時間がどのようなものだったか、この作品が語りかけてくるようです。  

 他にも、威厳ある初老の男性を描いた安井曾太郎の〈宇佐美氏像〉や、皺を刻み、あるいは傷跡を抱えた我が母の皮膚を写しだした石内都の〈25 MAR 1916〉シリーズなど、さまざまな年代の人間の姿を主題とした作品を展覧します。日常の中で時間はせわしなく過ぎていきますが、この展示が、みなさんにとってそれぞれの立場で人生における時間というものを見つめる機会となることを願っています。
                                        (徳島県立近代美術館 学芸員 宮崎 晴子)

展覧会情報
2022年度所蔵作品展 徳島のコレクション第1期 4月16日(土)-7月3日(日)
〈関連イベント〉

・展示解説 58日(日)、619日(日)いずれも14001445、要観覧券、申込不要

・こども鑑賞クラブ「カルタ入門」7月2日(土)14001445、小学生対象、参加無料、定員15名、電話申込、先着順(保護者同伴可/要観覧券)

 

特別展「カミのかたち」 423日(土)-619日(日)

〈関連イベント〉

・学芸員の見どころ解説 430日(日)、529日(日)いずれも14001500、要観覧券、申込不要

・手話通訳付き展示解説 529日(日)10001130、要観覧券、申込不要(聞こえる方もご参加ください)

・こども鑑賞クラブ「カミのパワー」64日(土)14001445、小学生対象、参加無料、定員15名、電話申込、先着順(保護者同伴可/要観覧券)