HOME > 連載コラム

中央テレビ編集 


<< 先月のコラムへ    トップへ    >> 次月のコラムへ

美術館からのエッセイ


 近代美術館では、現在、所蔵作品展「徳島のコレクション 2021年度第2期」を開催中です。「20世紀の人間像」、「徳島ゆかりの美術」、「現代版画」という3つの収集方針に沿って、作品をご覧いただきます。また、9月14日からは特集「山下菊二の手法 イメージを誘発する」を開催します。9月12日まで特別公開していたローズマリー・コーツィー<題名なし>も展示室1で引き続き展示しています。
 その中から、今回は「20世紀の人間像」のコーナーに展示しているピカソ、グレーズ、ホックニーなどの作品について触れていきたいと思います。  
 パブロ・ピカソと言えば20世紀を代表する作家の一人です。その一方で、現代の美術の難解さを象徴する作家ともとらえられがちです。その理由として、例えば、今回も出品している<ドラ・マールの肖像>(1937)のように、正面から見た顔と横顔が合わせて描かれていることがあります。  
 ピカソは、違う角度からモデルの顔を見て、それを合わせて描こうとしたのです。ドラ・マールの場合は、正面と横からの二回見たと言うことです。   
 時代を少し遡って、アルベール・グレーズの<台所の母子>(1911)では、画面は茶色の断片から成り立っています。その中に、台所にいる母子や犬の姿を見つけることができます。この断片の数が、台所の中の色々な場所を見ていたということになるのです。  
 その表現方法は異なりますが、ピカソもグレーズも一枚の写真のように一度に全体を見られるのではなく、実際は様々な部分を見ていることによって人物や風景を見ていると考えたのです。そして、そのような実際の見方に近い絵画を描こうとしたのです。  
 ピカソやグレーズの作品は20世紀の前半のものですが、後に彼らの考え方を引き継いだのがデビッド・ホックニーです。ホックニーの<文字合わせゲーム>(1983(9月14日から展示))では、カードゲームに興ずるホックニーの家族や友人たちの様子が複数の写真によって構成されています。  
 複数の写真がグレーズ作品の断片に、同じ人物の様々な表情をとらえた写真が、ピカソの作品に。それぞれ繋がっていると言えます。ホックニーにとって、この作品は写真を用いた絵画なのです。   
 是非、会場に足を運んで、それぞれの作品を見比べてください。
                                   (上席学芸員 吉川 神津夫)


  アルベール・グレーズ<台所の母子>(1911)

徳島県立近代美術館9月の催し物

〔展覧会〕
◆「自転車のある情景」 ―2021年9月5日(日)
◆関連展示「自転車のある徳島の風景」-2021年9月12日(日)
◆所蔵作品展「徳島のコレクション 2021年度第2期 特集「山下菊二の手法 イメージを誘発する」    
 ―2021年12月日(日)
◆アール・ブリュット作品特別公開 -2021年9月12日(日)

〔所蔵作品展「徳島のコレクション 2021年度第2期、アール・ブリュット再考2展」関連イベント〕
◆展示解説「20世紀の人間像とアール・ブリュット」」 9月5日(日) 14時から14時45分まで