HOME > 連載コラム

中央テレビ編集 


<< 先月のコラムへ    トップへ    >> 次月のコラムへ

美術館からのエッセイ


 徳島県立近代美術館では現在、「アール・ブリュット作品特別公開」として、クラウドファンディングで購入したローズマリー・コーツィーの作品をご覧いただけます。

ローズマリー・コーツィーとは
 ローズマリー・コーツィーは1939年ドイツ生まれの作家です。2007年にアメリカで亡くなっています。彼女が生まれたのは、ちょうど第二次世界大戦が勃発した年です。そして、ユダヤ人であった彼女は幼少時を強制収容所で。その時、彼女は多くの同胞たちが、過酷な環境の中で命を落としていく様を目にしたのです。
 戦後、コーツィーは、スイスに移り、装飾芸術学校で美術を学びます。そして、中でもタペストリーの作家として、注目される存在となりました。そんな彼女が、自らの強制収容所体験のテーマとして作品を描き始めたのは、1970年代末のことです。きっかけは明らかではありません。ただ、そこには、強制収容所で非業の死を遂げた同胞たちを弔ってあげたいという気持ちが込められているのです。
 今回紹介する作品も、同様のテーマで描かれたものです。画面中央に黒い線による二人の人型らしき姿が見つけられます。あと、画面左上には、走っているような小さな人型、画面右下には何かにしがみついているような人型が見つけられます。ただ、これが、どのような場面であるかは、収容所体験に基づくということから想像するしかありません。
 あと、この作品に特徴的なのはペインティングナイフによって、夥しい数のタッチが画面に刻まれているのです。この数に、亡くなった人たちに対する、作家のやむにやまれぬ気持ちが反映しているように思えます。

アール・ブリュットとは
 この作品は、アール・ブリュット作品として購入されたものです。皆さんは、「アール・ブリュット」という言葉をご存知でしょうか。美術に関心のない人達にとってはなじみのない言葉です。また、言葉を聞いたことがある人の間でも、理解に幅があると思います。
 アール・ブリュットとは 既存の芸術システムによらない人々の手からなり、また、格別な独創性を持つと判断された作品のことです。日本においては、障がい者の作品が評価されていることもあり、障がい者のアートというイメージが強いものですが、世界的にはより幅広く美術の多様性を求めようとするものです。この言葉は、フランスの画家ジャン・デュビュッフェ(Jean Dubuffet 1901-1985)によって、第二次大戦後、間もない時期に考案されました。
 しかし、時代が経つにつれて、デュビュッフェの考えを十分に反映させるような作品は、ほとんど見られなくなりました。それでも、様々な人達による自らの内側から湧きあがる衝動のままに表現した作品の中には、今でもアール・ブリュットと呼びうるものと思います。そして、コーツィーの作品も、そのように見ることができるかもしれません。

クラウドファンディングによる作品購入  
 この作品は4月28日から6月20日まで、近代美術館が初めて挑戦したクラウドファンディングによって購入されたものです。徳島県内をはじめ、北は北海道、南は九州まで多くの全国の方々から支援をいただきました。作品の購入に参加していただくことによって、作品のことを身近に感じていただき、美術館が皆さんの様々な思いや感想を語り合える場となっていくこと期待しています。
                                   (上席学芸員 吉川 神津夫)


    ローズマリー・コーツィー <題名なし> 1983年 

徳島県立近代美術館8月の催し物

〔展覧会〕
◆アール・ブリュット作品特別公開  開催中~9月12日(日)
◆所蔵作品展 徳島のコレクション2012年度第Ⅱ期 開催中~12月5日(日)
◆自転車のある情景 開催中~9月5日(日)

〔所蔵作品展 関連イベント〕
◆展示解説 「20世紀の人間像とアール・ブリュット」
2021年8月8日[日] 14時から14時45分まで

「自転車のある情景展 関連イベント」
◆スペシャルトーク 「自転車と美術のたのしいお話」
2021年8月1日[日] 14時から15時30分まで
◆学芸員の見どころ解説
2021年8月15日[日] 、8月29日[日] 14時から15時00分まで