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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
「一原有徳・版のワンダーランド」展開催


■現代版画の異才
 徳島県阿南市出身で、北海道を拠点に活躍した現代版画の異才、一原有徳(1910-2010)の画業を振り返ります。3メートルを越える大作、1回しか刷ることのできないモノタイプ版画、不思議な魅力に満ちた金属版画とその原版など180点の全コレクションを一望し、作家が追求した未知の視界にせまります。


「一原有徳・版のワンダーランド」展会場風景


■発見と集積  
 趣味で始めた油絵のパレット上に不思議なイメージを発見したことが、全ての始まりでした。板一面にインクを塗り、様々な幅のヘラでこそげると模様ができます。それを紙に転写した版画が有徳の「モノタイプ」です。即興的な手の動きが一回切りの像を結ぶ、そのマジックに有徳はとりこになります。既成の版画技法では生まれてこないような絵柄のユニークさが徐々に世の注目を集めることになっていきます。


〈SON1〉1960-75年


■金属の声を聞くように  
 一原有徳にとって金属版画は、モノタイプとともに制作の大きな柱です。既成の版画技法からは生まれてこない自由自在な発想と表現は、もう一つの一原ワールドへと私たちの想像力を誘います。  ふつうエッチングなどの銅版画技法は、金属板に刻まれた描線に入ったインクをプレス機で紙に刷り取ります。有徳の場合は彫刻刀の代わりに、ハンマーなどの工具で叩いたり傷つけたり、糸や粒のようなものを押し付けて凹凸を加工したり、あるいは直接に腐食液をたらすなどしてできた偶然の効果を生かします。複雑な凹凸から生まれる図柄は、不思議なことに岩肌や地層などを連想させる架空の材質感たっぷりです。金属の種類によって表現が変わるさまは、まるで金属の性質を引き出しその声を聞くかのようでもあります。


〈滴〉1975年


■オブジェと版  
 作家は早い段階から、自らの生み出す版画の絵柄と機械部品などのオブジェをパズルのように組み合わせた作品を発表しています。そこに原版自体を加えた例すらありました。彼にとって作品また創意は、ネガとポジの関係性そのものだと、とらえられているように思えてきます。  
 つまるところ作家は、絵を再現する技術としての版という枠組みを飛び出し、未知の映像が生み出される愉快な仕掛けとして、版画という一種の「関係性」を遊んだのではないでしょうか。そこに現れる像は、作家の期待からあぶり出された、あくまで生成途上の「可能性」であり、それを元に私たちまた作家自身も、イメージを探り当てようと目をこらす。そのような探検のフィールドとして一原有徳の制作歴に出会い直してみたいと思います。


〈Z30,a〉1964年


                            (徳島県立近代美術館 上席学芸員 竹内 利夫)

徳島県立近代美術館5月の催し物

〔展覧会〕
◆所蔵作品展「一原有徳・版のワンダーランド」 開催中―2021年6月13日(日)
◆所蔵作品展「徳島のコレクション 2021年度第1期 新収蔵作品を中心に」 開催中―2021年7月4日(日)

〔「一原有徳・版のワンダーランド」展 関連イベント〕
◆展示解説 5月3日(月・祝)14時-15時
◆ゲストと歩くギャラリートーク 5月23日(日)14時-15時30分

〔所蔵作品展 関連イベント〕
◆展示解説「新収蔵作品を中心に」 5月22日(日)14時-14時45分

くわしくはホームページをご覧ください。
https://art.bunmori.tokushima.jp/article/0008896.html