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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ

 古来、女性の形態の美しさを表現することは、美術の歴史において最も重要なテーマのひとつでした。20世紀の人間像を作品収集のテーマのひとつに掲げる当館にも、もちろん女性の姿を表した作品は多くあります。今回の所蔵作品展では、それらの中から特に個性的な表現を残した作家たちの作品をご紹介しています。

 キュビスムを産んだ20世紀最大の画家のひとりパブロ・ピカソ(1881-1973)は、女性の裸体の正面から見えるまんまるな乳房と、背面から見えるやわらかそうなお尻をひとつの画面に一緒に描いてしまいました。〈赤い枕で眠る女〉(1932年)は、流れるようになめらかな線で象られた女性のフォルムが見所です。
  ジュール・パスキン(1885-1930)による〈下着の裸婦〉(1926年)では、女性の姿は揺らめく炎のような繊細な線で描かれ、画面全体の色彩も煙のように淡い色で統一されています。パスキンは芸術の都パリで苦心の末に成功を収めた画家です。この作品も、人物が夢の中に漂っているような独自の様式を彼が確立したまさにその頃に描かれたものです。しかし、この画家が4年後に自ら命を絶ったことを考えると、同時に彼の晩年の作品と言うことができます。  


ジュール・パスキン〈下着の裸婦〉1926年


 日本の作家にも目を転じてみましょう。日本画の世界では、女性の肉体を表現するようになったその黎明期である大正初期には、着物を脱ぐ前の恥じらった姿や、髪を結うときに着物の袖口からちらりと見える腋などを描くだけでも、センセーショナルな表現と受け止められていました。ところが大正末に描かれた甲斐庄楠音(1894-1978)の〈金針を持つ女〉(1925年)では、女性の裸体は惜しげもなくさらされ、その贅肉まで克明に描写されます。ここに日本画における裸体表現の発展の一端を見ることができるでしょう。
 また、瑛九(1911-1960)は、晩年には抽象画へと向かいましたが、その生涯にはかろうじて女性の身体だと分かる作品を描いています。「少女の顔」(1949年)における丸みのあるさまざまな形態のつながりで表現された少女の姿からは、彼女のユーモラスな内面までも見えてくるようです。


瑛九〈少女の顔〉1949年


 多様な表現がなされた女性の姿。その肉体の形や、服をまとった様子、横顔、まなざし-それぞれの美しさを探しに展示室に足をお運びください。
                                        (徳島県立近代美術館 学芸員 宮﨑 晴子 )

徳島県立近代美術館3月の催し物
※予定の変更や中止となる場合があります。最新情報は、当館のホームページでご確認ください。

〔展覧会〕
◆所蔵作品展 徳島のコレクション 2020年度第3期
 特集 山下菊二101歳! 2月16日(火)-4月11日(日)

◆現代版画
 黒崎彰の世界 2月16日(火)-3月14日(日)
 山本容子の世界 3月16日(火)-4月11日(日)

〔イベント〕
◆こども鑑賞クラブ「しつもんしたいな」3月6日(土)14:00-14:45 
 小学生対象、参加無料、要申込

◆展示解説「20世紀の人間像」3月21日(日)14:00-14:45
 観覧券必要、申込不要